丸山淳一コーチ_厚い当たりの片手打ちバックハンド&超基本形スライス【本誌連動記事&動画】
片手打ちバックハンドの基本を解説します。前半はトップスピン、後半はスライスです。テニスはすべてのショットが股関節の動きを使ったスイング動作で、片手打ちバックハンドも股関節の動きに始まり、特に胸郭の動きが大切となります。その点に注目しながら(記事と動画を)ご覧ください。動画9分58秒。【2019年6月号掲載_本誌連動企画】
写真◎BBM、小山真司、毛受亮介、Getty Images 取材協力◎スポル品川大井町テニスコート
指導◎丸山淳一
まるやま・じゅんいち◎1965年4月8日、東京都生まれ。早稲田大学時代の88年にインカレ準優勝。95、96年全日本選手権混合複連覇。元デビスカップ日本代表選手。現役引退後は杉山愛(95~99年)、岩渕聡(00~03年)を指導。その間、フェドカップやシドニー五輪の日本代表コーチとしても活躍した。現在は森田あゆみプロの専属コーチを務める
丸山コーチから最初にメッセージ(取材時)「私は肘を故障しているため片手打ちバックハンドのデモンストレーションで、テークバックからフォワードスイングにかけて肘がやや曲がっています。本来は伸びていくのが自然です。その点にお気をつけください」
~厚い当たりの片手打ちバックハンド ~
もっとも力の入るインパクトに合わせたバックハンドグリップで握る
片手打ちバックハンドのグリップは、基本的にフォア側からバック側に回して握り替えます。トップスピンまたはフラット(回転が少ないトップスピン)を打つグリップは、身体を横向きにしてスクエアスタンスで立ったときに、(右利きを前提とします)踏み込んだ右足より30㎝ほどネット寄りの場所で、ラケット面が地面と垂直になります(下の写真で確認)。もっとも力が入る形がつくれるかどうかを確認して修正してください。
私のグリップはもっともオーソドックスな形だと思います。よりバック側にグリップを回せば(厚いグリップにすれば)打点はよりネット寄りになります。
教えて丸山コーチ!
Q 片手打ちバックハンドで、もっともつまずくところはどこですか?
A グリップ、手首の使い方、テークバックの間違いだと思います。
私が一般プレーヤーのみなさんを見ていて一番多いと思う間違いは、グリップです。グリップがフォア寄りで薄いと手首が伸びて力が入りません。また、グリップが正しくても、手首を使いすぎてしまって、折れているのもよく見かけます。これも力が入りません。
それから、もう一つ気になる間違いがラケットセット(テークバック)です。うまくボールに当てようとして、ボールの後ろへまっすぐ引きます。そうすると身体のひねりが十分ではないのと、手首が伸びてしまってラケットの加速が使えず(手首の返しができず)、力が入らないのです。別枠で解説している空手の“裏拳打ち”を参考にしてください。
片手打ちバックハンドは空手の“裏拳打ち”に似ている
片手打ちバックハンドは力を発揮しづらいと思われがちですが、実はそうではありません。空手などで使われる“裏拳打ち”をイメージしましょう。裏拳打ちは打ち技の一種で、肘から先の前腕と手首の返しで相手を打ちます。この動作は片手バックハンドに似ており、真似てみればわかりますが、一瞬で大きな力を発揮できます。
右の裏拳打ちの写真も片手打ちバックハンドの高い打点をイメージしたものです。肘を高く引き、テークバックを高くすれば、高い打点でも前腕、手首の返しで大きな力を発揮できます。
片手打ちバックハンドは空手の“裏拳打ち”を
イメージ肘から先の前腕、手の甲側で叩けるか!?
テークバックで必ずラケットを立てる胸郭を後ろへひねる
ボールにラケットをうまく当てようとして、ボール軌道の延長(ボールの後ろ)にラケットを寝かせて引くとラケットを加速することができません(前ページに×写真あり)。手首も伸びてしまい力が入らず、特に高いボール(高い打点)に対応できなくなります。
強烈なトップスピンやトップスピンロブ、アングルショットも打ちたいので、そのためにはラケットの加速と手首の返し(裏拳動作)が必要です。手首は手の甲側にしっかりと角度をつくります(写真参照)。
そしてテークバックでは、必ずラケットを立てて引きます。股関節、胸郭といった身体のひねり(ひねり戻し、回転運動)も使います。テニスは、フォアやバック、サービス、スマッシュ、ボレーと、すべてのショットが回転運動で、ただし片手打ちバックハンドは、ひねり戻すのがインパクトまでとなり、あとは右肩を支点に振り抜きます。
回転運動はインパクトまであとは右肩を支点に振り抜く
片手打ちバックハンドは、振り遅れたら即ポイントを落とすことになります。ですから絶対に振り遅れられません。両手打ちバックハンドはその点で、多少振り遅れてもカバーができます。
振り遅れないためには、❶軸足を入れて、同時に胸郭をひねる(肩を入れる)ことが大切です。そして❷右足を踏み込み、❸ひねりを戻してボールを打ちます。
軸足を入れるということはストロークで一番パワーを生むコツです。
また、胸郭をひねり、ひねりを戻すときですが、回転運動はインパクトまでで止めて、あとは右肩を支点に振り抜きます。回転し続けるのは両手打ちバックハンドです。片手打ちバックハンドが回転し続けてしまうと、ボールのパワーを受け止めることができません。
そのため、片手打ちバックハンドでは右脇腹あたりに壁をつくってパワーを受け止めます。あとは右肩を支点に振り抜きます。その中にインパクトがありますが、インパクトから30㎝くらい前までのインパクトゾーンを大切に、ラケット面を長く前に押し込む意識を持ちます。
いつも完璧なテークバック、クローズドスタンス、胸郭のひねり
ワウリンカはいつもほぼ同じクローズドスタンスをとり、テークバックも完璧にボールの後ろに入ることができます。そのため土台が非常にしっかりしていて、その上で胸郭をひねり(肩を入れて)、肩を支点に腕を振っています。
インパクトゾーンも非常に長く、力強さ、安定感ともに抜群です。この写真は腰の高さのボールを打っていますが、高いバウンドのボールに対しても、このままテークバックを高くして(両肘を高く上げて)、肩口でしっかりと打ち抜くでしょう。
~超基本形スライス~
コンチネンタルグリップで握る。手の甲側へ曲げて最初から最後まで保つ
次にバックハンドスライスの基本を解説しましょう。スライスは、サービス、スマッシュ、フォアボレー、バックボレーと同じコンチネンタルグリップで握ります。前述の片手打ちバックハンドのトップスピンのグリップを、少しフォア側に戻したグリップです。
このコンチネンタルグリップにおいても、手首は伸ばしたり折ったりせず、空手の“裏拳打ち”を思い出して、肘から先の前腕、そして手の甲側でもっとも力が入る形をつくります。手首は手の甲側に曲げる(返す)ことが重要です。
このグリップはあくまでベースであり、例えば高いボールに対しては厚くしたり、低いボールに対しては薄くするなど、多少のグリップチェンジをしてもいいのです。そのほうが効率的、効果的な場合もあります。ただし、ここでは超基本形のコンチネンタルグリップで打つスライスをしっかり覚えて、そのあと応用しましょう。基本あっての応用です。
スライスのグリップがフォア寄りだと不十分です。フォア寄りのグリップだと手首が伸びてラケット面が上を向きやすくなります。相手のボールのパワーを抑え込むことができず、返球が浮いてしまいがちです。そうすると相手のチャンスボールになってしまいます。
世界のトッププロを例に挙げましょう。男子に比べて女子はまだまだスライスを強化する必要があります。まだスライスがうまくないプレーヤーもいて、そういうプレーヤーはだいたいフォア寄りのグリップで握っているものです。スライスを打たざるを得ない場面に追い込まれると、結局ボールが浮いたり、短くなったりしてポイントを落とすことになってしまうのです。
そこで、もし低く伸びのあるスライスが打てれば追い込まれても怖くなく、相手の連続攻撃を止めてニュートラルに戻せたり、逆にミスを誘ったりすることもできます。
一方、男子は、スライスが下手なプレーヤーなど一人もおらず、完璧なスライスがなければそこでは戦えない状況です。スライスを打ったら相手のチャンスになるなど論外。錦織圭選手のスライスを見てください。完璧です。錦織選手のスライスはほとんど浮きません。あの素晴らしいスライスがあるからこそ、世界のトップで戦えているのです。もし錦織選手がスライスが苦手だったら、トップ10にはいられないと思います。
女子はこれからスライスを極めていくと私は想像していて、そうすると戦い方も変わってくるでしょう。片手打ちスライスはリーチがあるので守備範囲が広くなります。そしてニュートラルに戻せるので、たとえ追い込まれたとしても〈何てことない!〉と考えられるようになり、強い気持ちを持っていられます。いいことづくめです。スライスは身につけておくべき重要なショットです。
相手に背中を見せるくらい胸郭を後ろへ向けて、肩を入れる
スライスを打つ場面はディフェンスが多いので、多くはクローズドスタンスになります。ですから、片手打ちバックハンドのトップスピンのところで解説したような一歩目、軸足をボールの後ろへ入れたり、踏み込んで体重移動をするなどは気にしないでよいです。クローズドスタンスでテークバックすれば必然的に胸郭は後ろを向いて肩が入ります。
スライスも基本的に回転運動でボールを打ちますが、ただし回転はインパクトで止めて、その後は右肩を支点に腕を振ります。
その中で大事にしてほしいところがインパクトゾーンです。インパクトの前後30㎝くらいのところで、ラケット面がボールの方向へ長く向くようにイメージし、ボール軌道からスイングを外さないようにします。それがボールに十分な回転(アンダースピン)と方向性を与え、ボール軌道は低く、浮かせません。
ところで、スライスのスイングは大きく分けて2種類あり、止めるスライスと振るスライスがあります。止めるスライスはフェデラーがよく使います。インパクトでラケット面を止めてボールを抑え込みます。振るスライスは錦織選手やワウリンカがよく使います。ただし彼らもドロップショットをはじめ、止めるスライスも使います。基本的には振るスライスをしっかり身につけておいて、スイングをコントロールします。
ボレーの延長がスライス。インパクトゾーンでラケット面をボールの方向へ長く向けて軌道から外さない
ステップ 1|最初はボレーから
ステップ 2|ボレーのスイングをやや大きく
ステップ 3|さらにスイングを大きくしてラケットを振る
教えて丸山コーチ!
Q インパクトで力が入らず、ボールが浮いてしまいます。
A 相手に背中を見せるくらい肩を入れます。
今一度グリップを確認しましょう。フォア寄りのグリップで打つとラケット面が上を向いて力が入らず、ボールが浮いてしまいます。
それから、肩をしっかり入れているでしょうか。スライスはテークバックで相手に背中が見えるくらい、胸郭を後ろへ向けて肩を入れます。そして回転運動でボールを打ちますが、そのとき身体の開きを抑えないと相手のボールを受け止められないので、身体の回転はインパクトまでで止め、あとは右肩を支点に腕を振ります。すべて回転しないイメージです。
Q 今回のレッスンのバックハンドを身につけるためのよい練習を教えてください。
A 打つ前のテークバックの姿勢を覚える簡単なストレッチを紹介しましょう。
❶ネットに対して横向きに立ち、左手でネットをつかむ
バックハンドのストレッチです。(右利きの場合)左手を伸ばしてやっとネットに届く位置に立ちます。
❷右手もネットをつかむ
その後、右手もネットに添えます。必然的に胸郭が後ろを向いて、肩が入ります。
❸スタンスを広げて腰を落とす
ボールを打つイメージでスタンスを広げて腰を落とします。胸郭は後ろを向き、一方で顔は前向きで、ボールを打つ前の体勢のストレッチです。片手打ちバックに限らず、両手打ちバックも、向きを変えてフォアハンドのストレッチもできます。
❹スクワットを10回
私のおすすめは、この❸の体勢で軽く10回スクワットをすることです。下半身の力の入れ具合や、胸郭のひねりなどの感覚がつかめる簡単なトレーニングです。
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