目標設定と大会サーフェスへの準備_丸山淳一コーチ
森田あゆみの専属コーチとして世界を駆け巡る丸山淳一コーチが、その経験から抽出したエッセンスをお伝えする。今回は一般のプレーヤーがレベルアップするための方法論を解説する。【2017年6月号掲載_丸山淳一のツアーなう連載第54回】
写真◎Getty Images
解説◎丸山淳一コーチ
PROFILE
まるやま・じゅんいち◎1965年4月8日、東京都生まれ。早稲田大学時代の88年にインカレ準優勝。95、96年全日本選手権混合複2連覇。元デビスカップ日本代表選手。現役引退後は杉山愛プロ(95~99年)、岩渕聡プロ(2000~03年)を指導。その間、フェドカップやシドニー五輪のコーチとしても活躍した。現在は、森田あゆみプロの専属コーチを務め、世界を転戦している。
レベルアップでもっとも重要なことは年間を通した目標設定
一般のプレーヤーにとって、レベルアップするためにもっとも重要なのは、年間を通した目標設定です。どの試合を目標にしてピークを持っていくのか。春から夏にかけて大会が多いと思いますが、どの大会でどのような成果を得たいのか。その目標達成のために必要なこと、自分をビルドアップするための戦略を立てる必要があります。
「8月のこの大会で優勝する」と目標を定めます。優勝するにはどの程度のレベルが必要か。自分のレベルを把握するには、2016年10~12月号で掲載したチェックシートを使うとわかりやすいでしょう。自分のどの技術を磨き、足りない部分をどう補うかがポイントです。そのための練習、トレーニングを行います。
理想のテニスをするには十分なフィジカルが必要不可欠なので、それをつくり上げるためのトレーニング、コンディショニングや食事も考えます。トータルに取り組むことが目標達成へのポイントです。自分のテニスをどう組み立て、どういう練習、トレーニングをしていくかが一番大切なのです。これは、一般のプレーヤーにもっとも欠けている部分だと思います。
日々、練習、トレーニングを重ねて、練習試合を行い、具体的に向上するような毎日を送らないと、目標には届かないでしょう。目標に掲げたテニスを実現するためのフィジカルをつくり、コンディションをつくるために練習する。また、トレーニング、食事、生活など環境の部分を含めて自分をブラッシュアップしていくことが大前提にあります。
クレーの大会に向けてーーシューズ選び、クレーへの慣れ、さらに耐久力、持久力を中心に磨く
具体的な例を上げて、シミュレーションしてみましょう。来月、クレーコートで大会があると仮定します。そこで、ある程度の成果を上げ、勝つためには自分に何が必要なのか。まずは、クレーコートで自分が駆使したいフットワークに合うシューズを選ぶことからです。試合直前にクレー用のシューズを用意しても、それが大会のサーフェスに合うかどうかわかりません。
自分はキュッキュっと止まりたいのか、それとも滑りたいのか、その両方なのか。そのためにはシューズのアウトソールの溝はどのくらい深いほうがいいのか。シューズ選びも奥が深く、非常に大事です。
ベースラインの2m後方でスライドフットワークを駆使して打ちたい人は、溝が深すぎず、ある程度スライドできるシューズがいいでしょう。これに対してベースライン付近から速いタイミングでボールをとらえる攻撃的なライジングヒッターの場合は、鋭い切り返しを重要視するのでスライドフットワークはほぼ必要ありません。ディフェンスも基本的には必要なくなります。その場合は、グリップ力の高い、溝の深いシューズになります。
自分で自分のテニスをブラッシュアップさせる計画を立てるなら、まずはクレーコートに慣れること、つまりはフットワークの向上に取り組むことです。クレーコートでスライドしながらスライスでディフェンスなどの練習をする。または多少のイレギュラーに対応できるタイミングをつくるために、ライジングでの打ち込みをするなど段階を踏んでいきましょう。
そのサーフェスに応じた基礎練習を重ねるうちにどんなスタイルのテニスをするかが決まってきます。大切なのは、目的のあるテニスにフォーカスした練習を積み上げることです。
これは練習内容とトレーニング内容にもリンクしてきますが、ベースライン後方でディフェンスをする人なら、ある程度の持久力が必要になります。筋持久力、耐久系、テニス用語ではエンデュランスといった項目も考慮しながら練習します。
具体的に言うと、クレーコートは1ラリーが長くなるので、30球打ち続けることに耐えられるだけの耐久力を身につける体づくりをしていきます。30秒のインターバルを入れながら、30球くらいのラリーを行うのが効果的です。これがもしハードコートなら、ラリーは平均5、6本になるため、練習では10本から15本程度のラリーが適当だと思います。
クレーコートでは耐久力、持久力を中心に磨きながらも瞬発力も必要になります。練習、トレーニング内容を考えると、クレーコートは持久系が7割、瞬発系が3割程度でしょうか。ハードコートなら、持久系が3割、瞬発系が7割に変わります。
これは自分のプレースタイルを考えて持久力、瞬発力のバランスを変化させて行うことも必要です。表面がすごくザラザラしたハードコートで球足が遅いなら、ラリーが続く可能性が高くなるので持久系5割、瞬発系5割といった感じです。プレーする環境を考えながら、練習、トレーニングの内容を考えていくのです。
相手がいくらでも返してくるような粘り強い選手なら、サーフェスにかかわらずラリーが長くなることを想定した練習を行うなどの柔軟性も必要です。環境、条件に対戦相手、自分のコンディションを考慮しながらこれらの基本を応用させていくことが、いいパフォーマンスをする準備になることを忘れないでください。
ダメだったときのプランも考えておけば、必ず成果は得られるはず
ハードコートではラリーが長く続かないため、10球以内で仕留めるようなテニスを目指しましょう。いいクロスを打って相手がバランスを崩したらダウン・ザ・ラインに切り返します。もし高いボールを返球してきたらドライブボレーで、できれば3~5本で仕留めていく。チャンスがなかったとしても8〜10球くらいでポイントを取りにいくテニスが理想です。
まだ自分にポイントを取りきる能力がないのであれば、相手のミスを誘う戦術もあります。ハードコートでいくら相手に攻められても、ベースラインの後方から20球返球できるような技術とフットワーク、フィジカルを磨く。戦略を立てるなら、30球続けられる練習をハードコートで行うのもありです。
大切なのは、自分が今どのようなテニスを展開するのかを明確にして、それに沿った練習とトレーニングをしていくことです。それができれば、コートに入る前も入ってからも迷いがなくなります。これは大切なことで、どんなテニスをするかを明確にして迷いをなくすことはプロでも、一般プレーヤーでもジュニアでも同じで、高い確率でよいパフォーマンスにつながるものです。
試合に入るときまでに頭の中を整理して、例えば「今日はベースラインの一歩後ろでミスをしない、深いラリーをする。そしてチャンスがあれば、勇気を持って攻める」、また一般プレーヤーでもいいサービスを持っているなら、「ファーストサービスはすべてサーブ&ボレーでいこう」という単純な目標でもいいと思います。
何か明確な目標をもってコートに入ると自分のテニスに集中して、相手に惑わされることが少なくなります。相手や環境から受けるプレッシャーも減少します。フォーカスする力はすごく大きいので、自分が集中するためのファクターを自分で用意しましょう。
僕が本当に大事にしているのは、プレーヤーが迷うことなくコートに立つことです。そのために準備をしてテーマをつくってコートに入ります。また、ここで理解しないといけないのは、いつも自分の目指すテニスが実際にできるとは限らないということ。相手がそれをやらせてくれない場合もあり、自分の調子が悪い、何か噛み合わないという場合もあります。そこで引き出しをいくつも持ってコートに入ることが必要です。
「このテニスをしたい」と思ってコートに入っても、それができなかった場合のプランも立てておく。次の手を考えておかないと、いい日はいいけど悪い日は立て直せない、という状況になってしまいます。悪くてもそれなりに成果を得られることが大切なのです。一般の方も、そこを意識して試合をしてもらえればと思います。
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