福井烈の本音でトーク_第1回ゲストは岡田武史さん(サッカー日本代表監督)
(※原文まま、以下同)記念すべき新連載の第1回は、念願の「世界」を手に入れたばかりのサッカー日本代表チーム監督、岡田武史さんがゲスト。初めて言葉を交わしたのは、1979年のメキシコ・ユニバーシアード。テニスチームとサッカーチームはちょうどいっしょの宿舎だった。その後も節目ごとに顔を合わせてはいたが、まさか、あの岡田さんが時の人になってしまうなんて.....。お忙しい中、私のたってのリクエストに応え、にこやかに登場してくれた。【1998年1・2月合併号|連載第1回】
岡田武史さん(サッカー日本代表監督)
おかだ・たけし◎1956年、香川県生まれ。天王寺高校、早稲田大学を経て、1980年に古河電工(現ジェフ市原)に入社。日本代表DFとして2度W杯予選を経験。1990年現役を引退、古河電工のコーチに。1994年12月加茂日本代表のヘッドコーチに、1997年10月代表監督に昇格し、W杯出場を決めた。同年11月、1998年6月に開催されるフランス・ワールドカップへ向けて、監督続投が決定
福井烈プロ
ふくい・つよし◎1957年福岡県生まれ。柳川高校、中央大学を経て、1979年にプロ転向。過去、史上最多の全日本選手権優勝7回を数える。10年連続デ杯代表、9年(1979〜1987年)連続JOPランキング1位の記録を持つ。1992〜1996年デ杯日本代表チーム監督。現在は、ナショナルテニスセンターの運営委員長を務める。ブリヂストンスポーツ所属。本誌顧問
Jリーグのチームがみんなテニスコートを持って、テニスクラブを持つようになるといいね(岡田)
福井 最後の試合見ましたよ。本当に盛り上がりましたね。
岡田 いやあ、福井。あの一試合で人生変わっちゃったよ(笑)。
福井 あれに勝つのと負けるのとではずいぶん違ったでしょうからね。
岡田 俺、派手な方じゃないから、似合わないよ、こういうの(連日の報道に対して)。泥くさい方だから。
福井 はいっ、なんて言えませんよ(笑)。でもすっごくうれしいです、お会いできて。
岡田 本当? 今度、テニスで勝負しよう。俺、テニス始めたんだよ。
福井 ぜひぜひ。あっ、僕の子供がね、小学校5年生の男の子がいるんですけど、サッカー少年なんですよ。
岡田 へえ、どこかのクラブでやっているの?
福井 やってます。
岡田 テニスは?
福井 楽しむ程度しかやらないんですよ。
岡田 うちの子供、テニスやらせてみようかと思ってるんだけど(笑)。真ん中の女の子にやらせてみようかと思って、この間ラケット買っちゃった。
福井 ええ? そうかあ。実はこれ(ラケットを取り出し)、プレゼントなんです。グリップサイズが違いますから、こっちが岡田さんで、こっちが奥さん。
岡田 本当? いいの? いやあ、うれしい。(ラケットカバーを外し)あっ、これ、打ちやすい、でかいやつだろ? あれ、網がないじゃないの。
福井 (爆笑)網はないですよ。新品だからないんです。
岡田 どうすんだよ。これじゃできないだろうが。
福井 そりゃあそうですけど、新品はふつう網はないんですよ。
岡田 俺が買ったのにはあったぞ。
福井 たぶん、(腕前は)あんまりたいしたことないな。まあ、すぐ網を送りますから、テニスクラブで張ってもらってください。
岡田 そう? いやあ、本当にいいタイミングで会えたよ。テニス楽しいんだ、今。
福井 いいことです。
岡田 今、燃えてるんだよ。そもそも、女房がな、近くの友だちに誘われてテニススクールに入ってたんだよ。で、俺は、女房とふたりでできるスポーツってそんなにないから、よし、俺もテニスやろうと思って。それまでまったくやったことなかったから、こうやっても(フォアハンドの身振り)、うまくいかないんだよね。女房に、お父さんダメって言われて頭きちゃってさ。それでレッスンプロに個人レッスンを4回受けたかな。それからだよ、基礎を言われてから、もうメキメキ上達! 女房の友だちはみんなびっくりしているよ。プロにいけるかもしれない。
福井 自分で言ってる(笑)。僕は見るまで信用しませんから。
岡田 しかしテニスって、不思議なもんだね。俺、最初は女房とラリーができればいいと思ってたんだよ。でもそうすると、ラリーができるようになると、それじゃ物足りないのな。最初は楽しければいいと思ってたんだけど、だんだん物足りなくなって、わざとストレートに打ちたくなったりして。そこで打つと女房に怒られるんだけど(笑)。でも俺、本当にすごくうまい。やり始めてまだ半年だけど。
福井 信じない!(笑)。さっきの「網がない」「俺が買ったのは、網があった」なんて言ってるようでは、もう信じられない(笑)。
岡田 本当だよ!
福井 岡田さん、あれね、一応、網はガットって言うんですよ。どうでもいいんですけど。網張ってくればよかったな、失敗した。
岡田 お前、馬鹿にしてるな。ガットと言え、ガットと。
福井 いいガット、送りますよ。
岡田 よし。ほんと? 俺の力を引き出してくれるかな。クルクルッと、回転する?
福井 します、うまく打てば。でも岡田さん、ボール感は確かにあると思うんですよ。ボールと自分の距離がいっしょなら、いつも同じフォームでボールが打てるじゃないですか。だからボールのところへいける人、球技経験のある人は、比較的皆さんうまいもんです。
岡田 いいポジションにいけることだな。
福井 そう。でも、岡田さんがテニスとは。
岡田 似合わない?
福井 いやいや、そんなことないです(笑)。
岡田 テニスっていいよ。家の近くのテニスコートがそうだからかもしれないけど、テニスコートってけっこう静かなところにあるじゃない? 例えばサッカーのグラウンドだったら、周りにいろんな人がワイワイガヤガヤいて、あっちの方では野球やってたりして。でもテニスって、コートにとじこもることができるから、なんか落ち着くよね。俺が行っているところは、1面1面区切られているし。
福井 落ち着きますか。ところで岡田さん、今、岡田さんは日本で一番有名ですよね。
岡田 なりたくてなったわけじゃないよ。
福井 そうですけど。気持ちいいものですか?
岡田 いや、違うぞ。最初はうれしはずかしっていう感じだったんだけど、結構、今はストレス。何も悪いことできない(笑)。
福井 今、スポーツ紙の一面を飾れる監督は、長嶋さんと岡田さんのふたりだけです。
岡田 なんで俺のが売れるの?
福井 僕も買いますよ。やっぱりワールドカップに出場するということはすごいことなんです。あっ、監督就任おめでとうございます。
岡田 いえいえ。たぶんね、これはタイミングがあったと思うんだよ。大きな話題もなくて暗い話題ばっかりの世相に、たまたまあの最後の一試合があった。それも、ああいうふうに2―1で負けているところから逆転して、出場権を得たというのがドラマになっちゃった。それだと思うんだよね。
福井 持論ですが、人間には運を持っている人と、ツキを持っている人がいると思うんです。ツキは一晩寝たら変わっちゃうかもしれないけど、でも運は一生ついてくるものだと思うんです。岡田さんには運があるような気がします。
岡田 俺、大丈夫かな。使いきっちゃったかと思ってたんだけど(笑)。
福井 まだまだ。まだ使ってませんよ。
岡田 そう? 福井にそういってもらうと心強いなあ。
いい監督になりたいんじゃない
いい選手を育てたい、
いいチームを作りたい(岡田)
岡田 ところで、福井は34、35歳までプレーしたんじゃない?
福井 僕は33歳まで。でも世界には全然通用しなかったですよ。世界に出ては負け、出ては負けでした。
岡田 お前、体が小さかったからな。
福井 そうですね。でも、動きだけは自信があったんですけど、動く前にやられちゃったんですよ。
岡田 やっぱり体がいる?
福井 いりますね。
岡田 サッカーもね、多分、最終的には個人の運動能力だと思うんだよ。こればかりはどうしようもない。戦術でカバーすると言っても、最後のところは1対1で走って振り切られたら終わり。ヘディング勝負でやられたらどうしようもないんだよ。やっぱり日本人の体力は弱いよね。
福井 日本の場合、テニスは体の大きな人がやらないんですよ。体が大きい人はほかのスポーツにいく傾向があります。
岡田 そうだな。
福井 結局、動きのいい選手は、小さい頃に野球やサッカーに目を向けるじゃないですか。小さい頃からテニスを目指すという子はあんまりいないんです。
岡田 というかね、日本っていうのはひとつのスポーツしかしないだろ? テニスって、セカンドスポーツで、例えば野球をやっていて、でもテニスは家族で楽しむとかね。そうやっているうちに、俺はテニスがいいと、テニスを選ぶ選手が出てきていいんじゃないかと思うんだけど。
福井 そこなんですよ。それをいろいろな競技団体の方と話をして、スポーツをやる上で、体のバランスを作るひとつの手段としてテニスがあっていいと思うんです。そうしたらもっともっとテニスが広まると思うんですよ。
岡田 だっておもしろいじゃない? テニス。
福井 やると、おもしろいってわかるんですけど、なかなかとっつきにくい部分があるのかもしれません。小学校では、サッカーボールがあればすぐにボールを蹴り合うことができますけど、テニスはまずラケットとボールが必要で、テニスコートがあって、線が引いてあって、ネットがないとイメージできない。
岡田 Jリーグのチームが、みんなテニスコートを持って、テニスクラブを持つようになればいいんだよね。
福井 実は今度、そういう話し合いをさせていただく機会を得ました。
岡田 そうならないとだめだよ。例えばさ、鹿島テニスクラブの福井監督。いいねえ。
福井 目指せ、2002年! ところで、岡田さんは最初、日本代表のヘッドコーチとして、選手と監督の間に立って、選手の気持ちを聞いたり、監督の指示を受けたり、いつも間にいました。それが今回、一転して監督という立場になって、いきなり選手に対して絶対的な存在になりました。そのときの選手とのスタンスの取り方はどうしたんですか? 一番、監督として気をつけたことは何ですか? 実は、僕は現役でプレーしている最中に、いきなり監督の要請を受けたんです。
岡田 それはたいへんなことだな。
福井 要請を受けて初めて、周りが誰も僕に選手として期待していないことに気づいたんです。その代わり監督になってくれと。そこからは昨日まで戦っていた敵を、自分の持ち駒にしなければならなくなりました。これには悩みましたよ。そこで僕が一番気をつけたのは、選手と距離を置くことでした。ある意味、急に冷たくなったと選手は感じたかもしれませんが、そうすることで冷静な選手起用ができると思ったんです。情に流されないこと。岡田さんもたぶん同じような部分があると思うんですけど。
岡田 その通りだと思うよ。俺はコーチのときから、指導者と選手は立場が違う。必ず一線を引いて、それ以上は近づかないようにしていた。いっしょに食事は絶対しないし、コーヒーを飲むときでもみんなの前で飲んだ。まず酒なんかいっしょに飲まない。そういう線を引いていた。
福井 明確ですね。
岡田 ただコーチのときは、ああしろこうしろと言っても監督じゃないから、例えばこうした方がいいと言ったとき、選手が何でですかって言えば、こうこうこうだからと説明して、コミュニケーションをとらなければならなかった。でも監督は違う。選手が何でですかと言ったら、俺はそれが嫌いなんだって。それが理由だった。
福井 それが説明になるわけですか。
岡田 俺は監督になって最初に、選手を全員集めて、まず監督になったことを言い、そして俺は監督として、今まで出ていた選手を出さないかもしれない、自分の考えを信じてやる、もしついてこれないなら、今のうちに手を上げてくれ、残念だけどチームから離れてくれと言った。そういう意味では、コーチのときよりも、より一線を引いたかもしれない。
福井 そこまでできる根拠は?
岡田 人間誰でも好かれたいじゃない? いい人だって言われたいし。でもここの仕事はそうはいかない。なぜかっていったら、選手を切るのが仕事だから。選手っていうのは自分を使ってくれる監督がいい監督なんだよ。俺は選手のときそう思ったよ。どんなに有名な監督でも、自分を使ってくれなきゃ、あれはダメだと言うんだよ。でも、俺は切るわけだ。そうしたら、その選手の奥さんに睨まれたり、親から睨まれたりするよ。当たり前だ。だってみんな生活がかかっているんだから。ただ、それをできるかどうか。人にいい人だって言われたいと思ったら、この仕事はできない。そこの一線を引けるかどうかが監督だと思う。
福井 強さが必要なんですね。
岡田 そういう強さと、でも謙虚でないとダメだね。というのは、監督は絶対主役になれないんだよ。オリンピックで優勝しても、表彰台に上がれない。ワールドカップで優勝しても、トロフィーはもらいにいけないんだ。それが監督というものだよ。選手はうまい選手になりたいと思っていればいいと思う。思っていないとダメだね。でも、監督はいい監督になりたいじゃないんだよ。いい選手を育てたい、いいチームを作りたい、なんだよ。要するに主役じゃない。そういう謙虚さと強さを持たなきゃいけないんじゃないかな、と、今の時点で俺は思っているよ。まだ監督論を語れるほどのものじゃないし、経験もない。でも今はそう思ってる。
福井 よくわかります。
Jリーグに続くには、
指導者がプロフェッショナルであること(福井)
岡田 俺だって最初、選手からコーチになったときの2年間にそのミスをおかしたよ。俺が選手のとき指導者にやってほしいと思ったことを、何とか選手にやってやろうとした。そしたら何が何だかよくわからなくなって、そして限界がきて、それでドイツに行ったんだ。
福井 ドイツでは、何を。
岡田 指導者の強さ、プロフェッショナルというものを知ったね。自分がプロでやる気があるのかどうか、プロでやるからには、怖がったり、みんなに好かれたいなんてお人好しなことを言っていてはダメだと。プロでやると決めたからには、はっきりしなきゃいけないって。戦術とか、トレーニング法とかそういうことは全然学べなかったよ。そういう情報は日本にもいっぱいある。
福井 ドイツの留学っていうのは、岡田さんにとってとても大きな出来事。
岡田 これはね、サッカーの指導者としてよりも、人間として家族にとってものすごく大きかった。まずは父親として夜露をしのがせて、飯を食べさせて、学校へ入れて。普通のことがどれだけたいへんかというのを学んだ。周りに助けてくれる日本人もいなくて、家族が助け合わなければ誰も助けてくれない。そういう意味では、家族があそこでひとつになれたし、人間としてどこへいっても何でもできるという強さが身についたかな。
福井 0からの出発だったんですね。そういった経験を踏んで、現在、代表チームの監督として、選手と関わり合う中で一番大事にしなければならないと思う部分は何ですか。
岡田 俺が思っているのは、フェアであること。選手の起用に関しては自分の考え方、ポリシーを説明して、きちっと自分もそれに従うこと。そうしないと選手は信用しないよ。だから選手を下ろすときには、なぜ下ろすのかというポリシーを持って話すことだね。俺がなぜ起用しないのかをしっかり話すこと。はっきりした基準を持って、またそれについて自信も持たないといけない。そうでないと、選手は思うんだよね、「何でアイツが」って。いや、そうじゃない。あいつは必要だからとはっきり理解させることが大切。感情的なことや、それ以外の要素で判断しなければ、落とされた方も納得するしね。それがひとつ狂いだすとドロドロになっちゃうんだよ。
福井 そうですね、テニスもそうです。ただ、そのときはメンバーに選ばれなくても、次にまた選ばれることがあるじゃないですか。そこで僕は、その選手の戦意を喪失させないようにすることもひとつの仕事だと思うんです。選手が僕に反論してもいい、反感を持ってもいいけれど、ただ、とにかく選手の戦意を喪失するような切り方はしてはいけないと思いました。
岡田 そこがむずかしいところなんだよな。そこで甘い言葉をかけるじゃない? そうすると自分で自分の首を絞めることになるんだよ。というのは、例えばある選手に、お前はもうちょっとここをがんばればきっとメンバーになれると言ったとすれば、その選手はきっとそれをがんばるよ。そうしたらそのとき、なぜ選んでくれないんですかって、言うだろ。だから俺は絶対甘い言葉をかけない。きついかもしれないけれど、例えばどんなに才能を持った選手がいたとしても、俺は代表としてのプライドがない選手を使う気はない。その選手に、才能があるんだからと言ったりはしない。こうだから使わないと言う。このバランスがむずかしいんだけどね。甘い言葉をかければ選手を説得する時間は短縮できるよ。でも、きついけど、言わなきゃあとで自分が苦しむんだよ。あれがつらいんだよね。
福井 つらいですよね。受け入れるのはいいけれど、いらないと言える勇気が必要。
岡田 最初の2年間はそれがなくて大失敗しちゃったから。古河のコーチ時代は、選手の立場に立ってたよ。選手とはスタンスが違うっていうことに気づかなかった。だからあの頃はきっとみんなに好かれてたと思う。今は嫌われてるかもしれないけど(笑)。
福井 勉強したんですね。僕は最終的に自分の首を絞めた、だから続かなかったと思います。正直いってボロボロになっちゃいました。
岡田 そうだろうな。いやあ、俺も、もう1ヵ月半でボロボロだから(笑)。
福井 でも、ボロボロになりがいがありますよね(笑)。ワールドカップの代表監督っていうのは、ひと言でどういう感じですか。癖になるとか、逃げ出したくなるとか。
岡田 ワールドカップというのは、サッカーやっている者にとっては夢だからね。やってみたいという気持ちはもちろんある。でも、またあんなプレッシャーの下でやるのかと思うと、体がもたないよ(笑)。
福井 岡田さんの夢ってなんですか。
岡田 俺が代表の監督を引き受けているというのは、代表チームがいい成績を残すことによって、Jリーグが成功して、そして本当の意味で地域に根ざした、例えばテニスクラブを持っていたりするような、スポーツクラブができるというのが夢。正直なところ、自分自身としては代表チームには指導者としての楽しみはあんまりないよね。要するに、いい選手を集めて勝つわけだから。俺は自分が育てた手作りのチームが、Jリーグに所属できるようになる、なんていうのが夢だね。
福井 Jリーグが発足して、日本のサッカーというのは絶対変わったと思うんですが。
岡田 変わったね。
福井 日本のサッカーのレベルがぐんぐん伸びた一番の理由は何ですか。
岡田 それはもう簡単なことで、プロフェッショナリズムというか、本当に「質のいいプロ」が日本にくるようになって、その選手たちのプロとしてのサッカーへの取り組み方が重要だった。それまではプロであってもアマチュアだったよ。考えがアマチュア。トレーニング法において超回復の原理があるよな。練習して適度な休養を取ることで効果を上げる。アマチュアはそのトレーニングの中で、おそらく練習だけやるよ。でもプロは回復するところまでを仕事と考える。それがJリーグができて、本当のプロがきて、なぜ休むのかを教えてくれた。生活の仕方から、食事の摂り方、すべてがサッカーにつながるような、プロとしてのベースを教えてくれた。そういったことだけでレベルが上がったよ。技術とかそういうものが変わったわけじゃない。
福井 外国の選手、指導者が伝えたということですか。
岡田 ところがね、前代表監督のハンス・オフトがきてからだね。それまでは違ってた。確かに以前から、外国から一般論は入ってきてたけど、じゃあタクティクスって何だろうって、そんなレベルだった。具体的なことはオフトが日本に目覚めさせたよ。そういう考え方をしなくてはいけないって。それまで日本には戦術はあんまりなかった。そういう意味でオフトの功績はものすごく大きいと思う。
福井 テニス界も外国の指導者、特にヨーロッパの方からの指導者、あるいはヒッティングパートナーを呼びよせるなど、取り組んでいきたいと思っているんです。
岡田 要するに、受ける側の意識、何を相手がやろうとしているのかが把握できることが重要。一番の方法はね、遠回りかもしれないけれど、指導者の意識改革しかないよ。選手の意識を変えようと思ったら、全般的に指導者の意識を変えるしかない。そうすれば指導者が、外国の指導者からどういうものを吸収すればいいか、はっきりわかるようになる。
福井 まずは、指導者のプロフェッショナリズム、ですね。
対談を終えて
岡田さんという人は、たいへんなことを飄々とやってしまう人で、それでいて、気配りがあって、いつも周囲を見渡している人。基本的には、知り合った頃と何ら変わりはなく、ひと言、ひと言がやさしさに溢れていました。ただ、指導者としての考え方は違ってきていると思います。失敗した経験を分析し、勉強して、役立てているところはさすがだなと思いました。おそらく岡田さんはこれからも経験を分析し、決して無駄にせずに邁進していく方だと思います。
いくつもの重みのある言葉が胸に残っています。Jリーグが地域に密着した環境にあるように、テニスも文化として根づくようにもっと努力しなければならないと痛感しました。岡田さんが夢とするスポーツクラブのように、テニスもそうありたいと心から思いました。どうかフランスで幸運が訪れますように。
~さらに6年後の回想~
98年フランス・ワールドカップ出場を決めて、サッカー日本代表チームがメディアジャックしていた当時、『時の人』だった岡田監督は取材攻勢を嫌い、雲隠れしていました。僕と岡田さんはメキシコ・ユニバーシアードからの長いお付き合いで、よく知っていたこともあって、僕は記念すべき連載第1回目は「岡田さんしかいない!」と思ってお願いしたところ、快く引き受けてくれたことがうれしかったです。
岡田さんは加茂周監督更迭という厳しい状況のあとを引き受け、そこから見事に予選突破を果たしてワールドカップ出場を決めたわけですが、当時お話を聞いていて僕が感じたことは、岡田さんは常に勉強し続けてこられた方だからこそ、その蓄積によって、目の前のチャンスを生かすことができたということでした。急に振られてオロオロするような人ではないわけです。たいへんなことを飄々とやってしまう人は、準備ができている人だということがわかった思い出深い対談でした。
まじめな話をした一方では、ユニークな一面も見られました。あのときは奥さんに影響されてテニスを始めたばかりだったんですが、奥さんの方がうまいということを認めたくないらしく、負けず嫌いな一面を覗かせていたのがおもしろかったです。ただ、僕がプレゼントしたラケットを見て「網がない!」と言ったのには笑いました。その瞬間にレベルはだいたいわかりましたから。先日お会いしましたが、あれ(網と言ったこと)は失敗だったと後悔していました(笑)。
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