家族の証言〜母が語る「藤原里華」
シリーズ「家族の証言」は、そのタイトル通り、選手の家族に選手の小さい頃の話や思い出を存分に語ってもらって構成したもの。家族だからこそ知る、話せる、貴重なエピソードの数々は非常に興味深い。今回は藤原里華選手について、母・美智子さんが語ってくれた。【2012年7月号掲載】
写真◎Getty Images
藤原里華 ※プロフィールは当時のまま
ふじわら・りか◎1981年9月19日生まれ、東京都出身。6歳でテニスを始め、高3でプロ転向。2001、2011年全日本選手権優勝。自己最高世界ランク単84位(2005年8月)、複13位(2002年11月)。現在(2012年5月7日付)世界ランク単187位、複62位。北日本物産所属
「本当に我慢強い子だと思います。
大満足と思えるまで続けてほしい」
昔から考え方が大人だった
私も夫(慎一さん/全日本選手権出場経験あり)もテニスコーチでした。私はお腹が大きくなってもなかなかコートから離れられなくて……。分娩に52時間かかり、名前も“りさ”と決めて、そう呼んでいたのですが、出生届の直前になって夫が「少し響きが弱い。“りか”にしよう!」と。そもそも夫は男の子だったら松健郎(マッケンロー)にすると言っていたくらいなので、女の子でホッとした憶えがあります。
里華を教え始めたのは小学1年生の頃。私が近所に住むジュニアたちから教えてほしいと頼まれたこともあり、そこに里華も入れました。大半は私が里華の練習を見て、夫は週1回の休みのときに見る程度。ただ、夫と練習をするときはネットプレーが中心でした。
小さい頃から考え方が大人でした。今の方が子供っぽいかな(笑)。3歳くらいの頃、私が里華の髪を切っているときに、はさみで里華のほっぺを切ってしまったことがありました。すごく血が出て、ギャーッと泣き出すかと思ったら、「ママ、大丈夫だから、早く切ってね」と。そんなことが多かった気がします。
ジュニア時代は、可能性を小さくしたくなかったですから、教えすぎないように気をつけていました。型にはまった教え方はよくない、里華の良さというものを伸ばしてあげたい、そう思っていました。でも今考えると、もっと教えてあげてもよかったのかなと思うことがあります。
プロの世界は厳しいと思っていたのですが、里華の夢はずっとプロになることだということは知っていましたから、それを叶えさせてあげたいという気持ちの方が強かったです。高校2年生の全日本選手権(1998年)でベスト4まで勝ち上がりましたが、やはりプロの選手たちとの実力差は歴然。ただ、それでも何とか食い下がる気力、そこから結果を出す力というものを感じました。プロでやっていくのなら、そういう部分でチャンスはあるのかなと……。
ダブルス巧者になった理由
プロ1年目、一人で世界に出ていきましたから、その厳しさ、寂しさにぶち当たってしまい、やめたいと言い出しました。初めての挫折だったと思います。私がコーチとなって、いっしょに回り始めました。
すると里華の気持ちがわかってきました。要は孤独なんです。不慣れな海外、周りは知らない“お姉さん”たちばかり。そこで「里華、ダブルスをやろうよ」と提案しました。上手くなれば声もかかるし、友達も増えると思ったのです。シングルスで負けるとポーチやスマッシュを徹底的に練習しました。効果はてきめん。結果が出始めると、予想していた通り、いろんな選手から声をかけられるようになって。友達も増えてきて、次第に自分の居場所というものを見つけていきました。パートナーにも恵まれましたが、世界13位まで記録し、今でもフェド杯のダブルスでプレーできているのは、あのときの友達づくりのためのダブルス練習があったからだと思っています。
昨年の全日本選手権で優勝したときは初優勝(2001年)よりもうれしかったです。大会前から、ああしても痛い、こうしても痛いという表情をしていました。決して口にはしませんでしたが、見ていればわかります。これでは勝てないと、あえて厳しく「今のあなたに足らないのは勢いだよ」と言いました。里華は「どうしたら勢いが出せるんだろう」と真剣に考えていました。小さい頃から、厳しいことを言うのが私の仕事だと思っていますから……。
いつもケガや痛みと戦っている。本当に我慢強い子だと思います。苦しい手術も乗り越えてきましたし、それを間近で見てきた身とすれば、万全の状態で戦わせてあげたいと願わずにはいられないですね。4月のフェド杯でも試合前に泣いていました。こんな大事な試合だというのに、どうして私の身体は万全ではないのだろうと。悔しかったんだと思います。
30代に入りましたけど、本人が大満足と思えるところまで続けてくれればと思います。でも苦しいことを乗り越えてきたから、そう簡単には終われないかな。結婚ですか? 当分ないでしょう。テニスが大好きですから。というよりも、何だかもったいなくて“お嫁”に出したくないです(笑)。
※トップ写真は2009年10月撮影(Getty Images)
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