パット・キャッシュ_ボレーについて知っておいてほしいすべてのこと vol.01「偉大なプレーヤーたちに共通する点は?」
この記事は、アメリカのジャーナリストであり、コーチの顔も持つポール・ファインが、1987年ウインブルドン王者で、現在は敏腕コーチ、さらにイギリスの「The Times」にコラムを執筆するパット・キャッシュに、彼のテニスにおいてもっともエキサイティングで得意なショットであるボレーの基本とすぐれた点についてインタビューしたものを、Q&A形式で読者のみなさんに問いかける形で編集部が構成したものです。あなたがトーナメントを戦う選手であっても、趣味でプレーをしている人であっても、あるいはテニスを観戦するだけの人であっても、キャッシュの言葉でテニスをより楽しんでもらいたいと思います。【2017年3月号掲載記事、技術特集】
写真◎小山真司、Getty Images
Q1 偉大なボレーヤーたちに共通する点は何だと思いますか?
A ボレーだけがすぐれているのではなく、すべてに秀でたアスリートだと思います。
すべての最高のボレーヤーたちは、ボレーだけがすぐれているのではなく、すべてに秀でた素晴らしいアスリートでもあるということだと思います。
ロッド・レーバー、マーガレット・コート、ジョン・マッケンロー、少し前ならピート・サンプラス、パトリック・ラフター、そしてロジャー・フェデラー。彼らはみんな、とてつもなく俊敏に動くことができ、バランスを崩すことなくボールに素早く追いつけます。
もっとも重要なことは、素早く次のポジションにつき、次のボレーやスマッシュ(オーバーヘッド)に備えることができる点です。レーバーは、よいボレーを打つには秀逸なフットワークと素早く適切なポジションをとることができる能力が必要だ、と常々語っています。彼自身、偉大なボレーヤーになったのは、スピード、アジリティー(俊敏性)、パワーの、身体能力の強化に特化した時期に重なると信じています。
「 よいボレーを打つには秀逸なフットワークと素早く適切なポジションをとることができる能力が必要だ 」
ロッド・レーバー
Q2 なぜコンチネンタルグリップがボレーに最適なのですか?
A 時間がないため、ひとつのグリップでまかなえたほうが効果的で実戦的だからです。
ネットプレーヤーは次のショットの準備をする時間、ポジションをとる時間が非常に短いため、コンチネンタルグリップが最適なのです。
「ひとつのグリップですべてをまかなえる」というのは、相手の強烈なショットに備えるのに効果的かつもっとも実戦的です。理論上、ハイボレーのときはグリップが下を向いたほうが打ちやすいでしょうし、ローボレーはフェースを開くように握り直したほうが打ちやすいはずです。ラケットフェースの角度を変えて、ボールをコート上の狙った位置に落とすということです。それはゴルフ選手がゴルフクラブのフェースによって角度をつけるのと同じイメージです。例えば、フェースの角度が緩やかなサンドウェッジでバンカーからボールを打つのは、ネットの上を越すためにフェースを上向きにするためのグリップチェンジに似ています。
グリップチェンジをしてボールを打つ際に、腕や手首をある程度固定すると手首を使ってミスをするリスクを減らしてくれます。この問題はアマチュアプレーヤーやジュニアプレーヤーたちによく見られることです。特にフォアボレーで、手首を使ってフォアハンド側にフェースを開くときに多いと思います。
Cash’s VOICE
時間があるときはグリップチェンジをすればいい
実は私は、十分な時間があるときはいろいろなグリップを使います。クロスコートへ鋭く角度のついたフォアボレーを打つときは、バックハンドに近い握りにしてラケットフェースを開いて、ボールのサイドをカットしてスライスを加えます。
すべてのボレーをひとつのグリップで打つということは何十年も受け継がれてきた教えですが、ハイボレー、ローボレーなど状況によってグリップを微調整するのは理に適っています。それを否定する理由は見当たりません。そのようなグリップチェンジを覚えるのはプレーヤーにとって難しいことではないでしょう。これが一般的に推奨されていないのは、ネットでは反応する時間がほとんどないためです。ならば時間があればやればいいのです。生体力学的には問題ないことです。
Q3 ドライブボレーのグリップはストロークのグリップですか? それともコンチネンタルグリップですか?
A ストロークのグリップでOK!
ネットにアプローチしたあとのドライブボレーは、ストロークのグリップのままでOKです。もちろんボレーの高さによっても変わりますが、通常ドライブボレーは肩、あるいはそれ以上の高さで打つことが多いです。ですからストロークを高い打点で打つのと同じでよいのです、コンチネンタルグリップに変える必要はありません。
Q4 スーパースターにもボレーの弱点はありますか?
A あります!
セレナ・ウイリアムズのボレーの質は、彼女がより圧倒的な強さでテニス界を支配することを妨げてきたと思います。ディフェンスが強固な選手を相手にすると、セレナはストロークのウィナーを奪おうと奮闘します。そのときいいボレーが打てれば、彼女はどれほど楽にポイントを奪えることか。セレナはフォアボレーを打つとき、頭の位置が高すぎて、手首を使いすぎています。時にネットプレーに対して、完全に自信を失ってしまうこともあるのです。6ヵ月でいいから、ボレーに集中的に取り組めば、彼女はより長くトップレベルで活躍できるだろうと私は思うのです。
マーガレット・コート、ビリー・ジーン・キング、マルチナ・ナブラチロワ、シュテフィ・グラフ、そしてマルチナ・ヒンギスといったかつての世界1位たちは、セレナよりもかなりボレーの技術が高かったです。
フェデラーのボレー技術は少し落ちてきたように思います。バックボレーを打つときに、空手のようにボールをチョップし、あまりにラケットを鋭角的に使いすぎています。質の点で問題があると思います。さらに、フォアボレーを打つときに左腕を体の後ろに置いてしまうことがあり、そのため右手首を必要以上に動かしてしまいます。
サンプラスのバックボレーも少しチョップ気味でしたが、フェデラーほどではありませんでした。しかし、彼らはそのような気になる点はあるものの、ポジショニングとリカバリーの能力がすぐれているので、その弱点をカバーできています。
Q5 ボレーの腕は伸ばすのか、曲げるのか、曲げてから伸ばすのか、何が正解でしょうか?
A 腕を少しだけ曲げたほうが大きな力が入ります。
コーチがボレーを指導するときに、なぜボクシングのパンチやジャブを例に出すのか私は理解できません。なぜなら、パンチやジャブのときは肘を一度深く曲げて伸ばします。テニスのボレーのときには、それほど深く曲げることはありません。ボレーの動きは肩から始まるのに、肘の曲げ伸ばしをいうのは、間違ったポイントに注目していると思います。
フォアボレーの動きは、むしろウエスタン映画のバーテンダーがカウンターの上で、ビールジョッキをこぼすことなく滑らせる動きに近いです。バックボレーはフリスビーの投げ方に非常によく似ていると思います。肘の動きはありますが、それほど大きくはありません。
腕を少しだけ曲げると、テニスでショットを打つときは、より大きな力が入ります。肘が完全に伸びた状態は、遠くのボールを打つために体を伸ばしきったときだけです。もちろん、例外もあります。フェデラーやフェルナンド・ベルダスコはフォアでボールを打つ瞬間に、腕全体が伸びます。ラファエル・ナダルも、たまに腕を伸ばして打つこともあります。しかし、ほとんどの場合は少し曲げています。まっすぐ腕を伸ばして打つ選手で本当に成功した選手はそれほど多くはなく、フェデラーが代表なのではないでしょうか。
Q6 ボレーの高さによって、ラケットフェースの角度はどのように変えますか?
A 高ければ角度をつけず、低ければフェースを開きます。
肩より高いボールを打つときは、ラケットフェースにほとんど角度をつけません。一方で肩よりも低い場合は、またはボールが低ければ低いほど、少しずつ角度をつけ、ラケットフェースを開きます。基本的には、ネットの近くで非常に低いローボレーを打つときをはじめ、ネットを越せるように、フェースを上に向けなければならないのです。
ラケットの角度は何度も実際に打って経験していかない限り、覚えられません。ローボレーでフェースに角度をつけすぎるとボールは高く浮きすぎて、バックスピンがかかりすぎてしまいます。逆に角度が足りないと、ボールはネットにかかってしまいます。ですから何度も経験して、何度も失敗して、ローボレーを打つときのラケットの角度はどれくらいがふさわしいか、微調整しながら学ぶべきです。
Q7 ボレーの高さによって、シャフトの角度はどのように変えますか?
A 高ければ地面に垂直、低ければ地面と平行です。
もっとも高いボレーを打つとき、ラケットのシャフトは地面に対して垂直です。肩の高さでは45度くらいで、腰の高さではシャフトは水平になります。腰より低いときは、シャフトはできるだけ平行を保ち、ボールの高さ、ボールを打つポイントに合わせて膝を曲げます。
Q8 ラケットヘッドを下げてボレーを打ってもよいですか?
A とっさの対応に有効です。
とても速く、落ちていく低いパッシングショットやボディにきたボールをボレーするときは、ラケットヘッドを下げなければなりません。しかし、このような厳しいショットも、最近のアマチュアの選手はかなり上手に打てるようになってきています(ラケット性能の向上は大いに助けになっていると思います)。体全体を一気に沈めてから、次のボレーに備える時間などないのですから、ラケットヘッドを下げて対応するのは必然で、ハーフボレーのときでも有効です。
ただし、時間があるローボレーのときは、ラケットヘッドを膝より下に落とす理由はありません。膝を深く曲げてローボレーを打ちます。それをする1つ目の理由は重心を低くすることにより、よいバランスを保てるから。2つ目は視界のよさです。ボール軌道に視線をなるべく近づけたほうがよくボールが見え、正確に打つことができます。
Q9 テニスはボレーから習い始めるべきだと思いますか?
A 思います。簡単なショットなので、最初に習うことをおすすめします。
テニスは、すべてのショットを学ばなければなりません。これはいるが、これはいらないということはできず、だから、テニスは世界でもっとも難しいスポーツなのだと思います。
技術を習うのは早ければ早いほどよいでしょう。これは間違いないことです。ただし、7歳や8歳に何時間も練習しなさい、と言っているのではありません。
ボレーは技術的に習得するのに、もっとも簡単なショットの部類に入ります。ですから多くのコーチがすすめているように、ストロークなどのあとから習うよりは、一番初めに習うことを私はおすすめします。上達させるのが遅すぎて、ボレーが弱点にならないようにしましょう。
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