広瀬一郎_書籍『スポーツマンシップを考える』_連載第4回_フェアプレーという考え方はどうしてできたのか?

あなたはスポーツマンシップの意味を答えられますか? 誰もが知っているようで知らないスポーツの本質を物語る言葉「スポーツマンシップ」。このキーワードを広瀬一郎氏は著書『スポーツマンシップを考える』の中で解明しています。スポーツにおける「真剣さ」と「遊び心」の調和の大切さを世に問う指導者必読書。これは私たちテニスマガジン、そしてテニマガ・テニス部がもっとも大切にしているものでもあります。テニスを愛するすべての人々、プレーするすべての人々へ届けたいーー。本書はA5判全184ページです。複数回に分け、すべてを掲載いたします。(ベースボール・マガジン社 テニスマガジン編集部)

第1章|スポーツマンシップに関する10の疑問

その3 フェアプレーという考え方はどうしてできたのか?

……スポーツが単なる遊びから、勝利を求めるものに変化していったからです。

Key Word
騎士道、ジェントルマン、有料入場、プロフェッショナリズム、コストと効率

フェアプレーのルーツ

 フェアプレーという考え方は、もともと中世ヨーロッパの騎士道にあったようです。それは一対一の正々堂々とした戦いを意味していたのですが、同じ条件で戦うという意味ではなく、相手の不利につけこまないことだったようです。それが現在のように、ルールに則(のっと)って、同じ条件で戦うことが重要になったのは、そもそもルールの固定化と明文化以降のことであり、それはスポーツが単なる気晴らしの遊戯から、勝利を求めるものに変化していったことと無関係ではありません。

 そのあたりをFIFA(国際サッカー連盟)の公式ホームページを参考に、以下のようにまとめました。

ゲームヘの参加が重要

 フェアプレーという概念はビクトリア朝時代の英国で形成されました。英国の貴族的な有閑階級は、スポーツ競技を一つのレジャー(気晴らし)の手段とみなしていて、勝つことが重要でないだけでなく、むしろ無視すべきものだったようです。スポーツには楽しい気晴らしを得るという目的しかなく、人前や新聞等で勝敗について語ったり、それを誉めそやしたりするなどの行為は、不適当だと考えられていました。ゲームに参加することに比べたら、結果などは取るに足らないことだったのです。

 したがって、実はゲーム参加者の間では、プレーするうえでの条件がフェア(公平)かどうかということもそれほど重要ではなかったようです。たとえば、当時フットボールというゲームは、たいてい双方の競技者の数は等しいものではありませんでした。

 現在では勝利を得るためにプレーするうえで、ルールに則(のっと)って戦うことがフェアであるための最重要な課題ですが、それはルールこそが双方の条件を公平にするという思想の反映に他ならないのです。

紳士は反則を犯さない?

 さて、プレーヤーの振る舞いに対してある種の社会的なコントロールを施すことは、ジェントルマンの名誉に基づくフェアプレーの精神に重要な影響を及ぼしました。

 フットボールでは、当初レフェリーが必ず存在していたわけではなく、フリーキックや退場といった罰則も規定として存在しませんでした(1863年に制定されたサッカーのルールには試合進行に必要な14の事項が記載されていたのみ)。プレーヤー以外の第三者が外部から有効なコントロールを行うレフェリーという存在は、1871年にFAカップがオープン化し、労働者階級のクラブも参加することになったとき、初めて導入されたのです。それ以前は、紳士は反則を犯さないという前提でゲームが行われていたのでした。

勝利こそ最大の目的

 初期にはパブリックスクール出身者のチームが優勝を独占していましたが、やがて労働者チームが台頭し、観客数も増えていきました。FAカップ決勝の観客数は、1885年に2万7千人だったのが、1893年には4万5千人に達し、それ以降10年間の平均観客数は8万人以上にのぼりました。

 その間、1874年には有料入場が導入されました。それまでの社会状況では、仕事と遊びとは明確に区別されており、スポーツは仕事をしないときにする娯楽という位置づけだったため、スポーツを仕事にするプロフェッショナリズムは本来の存在意義を損なうと思われていました。しかし、有料入場が引き金となって、プロ選手が登場するようになりました。

 本来の競技規則は、競技進行の手続きと簡単な約束ごとだけで十分機能を満たすはずだったのですが、新しい事態は新しいコントロール方式を必要としました。「ジェントルマンらしい栄誉を重んじる態度」は、もはやスポーツの最重要事項ではなくなり、サッカーは単にプレーを楽しむためだけのものではなくなってしまったのでした。つまり勝利こそがスポーツの最大の目的となったのです。

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