広瀬一郎_書籍『スポーツマンシップを考える』_連載第4回_フェアプレーという考え方はどうしてできたのか?
フェアプレーに取って代わったもの
このあたりを境にして、単なる娯楽としての遊戯が、近代的スポーツに変容していったとも言えるでしょう。従来のフェアにプレーする暗黙のルールは、明らかに有効性を失っていったのです。フェアプレーの概念は、その背景としていた社会的な基盤を失います。ルールに従い、古来の騎士道的なフェアプレー精神に則(のっと)って勝ちたいという願望が、どんなことをしても勝ちたいというむき出しの欲望に取って代わられてしまいました。
流れを加速させた2つのポイント
さらに二つの重要なターニングポイントがこの流れを決定的にしました。第一に、スポーツそのものの社会的な価値が増したこと。第二にスポーツイベントがメディアによるスペクタクルとして取り上げられるようになったこと。特にラジオやテレビ等のメディアが取り上げるショーとしての需要の高まりは本質的な変容をもたらし、商業化とプロ化とゲームのマーケティング化の流れを加速しました。それは、スポーツで成功を収める欲求の高まりと、結果としてそこから生じるプレッシャーを増幅したのです。
若いプレーヤーたちに伝統的な意味でのフェアプレーの理解を求めることはますます困難となり、成功を求めてプレーすればするほどフェアプレーの精神は「許容範囲内でのファウル」という考え方に置き換えられていってしまうようになりました。
スポーツが近代社会に迎合した
「フェアプレーっていうのは、敵に対してそれほどひどいファウルをしてはいけない、つまりファウルをするなら程度を考えろってことさ」などと言う若者は少なくありません。フェアプレーはどのような態度で臨むかという問題ではなく、「ひどくないファウル」という考え方へと退歩し、相手にできるだけケガをさせないということになってしまったのです。コストと効率という便宜的な問題にすり替わってしまったとも言えるでしょう。
つまり自分はどれほどフェアプレーに徹することができるかという量的な問題になってしまったのです。スポーツは、成功がすべてという近代社会の規範と価値観に自らを適合させたと言うことができます。
今こそフェアプレーを啓発せよ
分析してくると、「ルールに則(のっと)って同じ条件で戦う」というフェアプレーを啓発することなどできないのではないかという暗たんたる気持ちが強くなってきます。何か打つ手はないのでしょうか? 確かにフェアプレーは、現実的にはコストと効率の問題でもあります。したがって汚いファウルに対して科されるペナルティーは、それが決して引き合わないように厳しくなくてはなりません。ルール違反には実効のある罰を科す必要があるのです。
しかし、フェアにプレーすることの重要性を指摘して、フェアプレーを啓発普及することはさらに本質的であり、特に若年層に対しては重要なのです。
フェアプレーは日々育てることができる
フェアプレーは放っておいてもひとりでに現れてくるものではなく、意図的に醸成すベきものであり、日々の練習のときから要求し体験させる必要があります。
文化的な違いがある国どうしの試合が増え、プレーヤーも観衆も感情的な側面が昂進(こうしん)されるサッカーでは、大陸連盟や各国の協会がフェアプレー遵守をさらに徹底し、その理解を慎重に進めていくことがますます重要になってきています。FIFA、各大陸連盟および各国の協会は、フェアプレーの意義の理解促進を国際的に進め、国際試合における不必要な感情的軋轢(あつれき)を取り除くことを目指しているようです。
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