広瀬一郎_書籍『スポーツマンシップを考える』_連載第4回_フェアプレーという考え方はどうしてできたのか?

実例2

フェアプレーの精神から再試合認められるーサッカーFAカップ

 サッカーのイングランド協会(FA)で127年のカップ戦の歴史で初めて、フェアプレーの精神から再試合が実施された。試合に勝ったアーセナルのベンゲル監督(元名古屋監督)の方が「再試合が受け入れられないなら、次の試合を辞退する」と訴えていた注目の最終裁定が、国際サッカー連盟(FIFA)から「OK、ゴー」と出たのだ。

 再試合が行われたのは、FAカップ5回戦のアーセナル対シェフィールド・ユナイテッド。最初の試合では1-1の状況で、負傷選手の出たシェフィールドUがプレ一を中断するため、ボールを外に蹴り出した。アーセナルは再開時に、フェアプレーの慣例にしたがって相手GKに向けてスロ―イン。

 ところが、この試合がイングランドでのデビュー戦だったアトランタ五輪金メダルチームの中心選手、カヌ(ナイジェリア)が何を思ったかインターセプトに走り、ゴール前に詰めていた味方に送って、決勝ゴールが入った。試合はこのまま2-1で終了した。

 驚いたのはシェフィールドU側ばかりではなかった。「不幸なゴール」とベンゲル監督は話し、すぐに再試合を要望。それを聞き入れる格好でFAは再試合を決定していた。

 世界中のサッカー規則に関する問題に目を光らせるFIFAは当初は「試合規則への違反ではなく、単なる競技精神への抵触事件」と再試合には賛成できないとの立場を示唆していた。だが、その後の声明では「FAの報告で試合の状況を検討した結果、FAの決定は誠実で、競技規則に忠実だったことが分かった」と完全な支持を約束した。

(出典:ロイター=共同通信)

→このケ一スはフェアプレーの中身をよく表しています。基本はゲームで争う双方に、不合理なアドバンテージが生じないことです。 したがって、まったくゲームの趣旨に反した理由によって生じたアドバンテージは、それによって不利益をこうむった側だけではなく、有利さを獲得した側からも同意は得られません。その勝利には意味がないからであり、その原理はルールを超越しているのです。こ の点をFAもFIFAも認識し、そして迅速な決定を行ったことは評価すべきでしょう。つまり、ここでフェアプレ一を行ったのは、アーセナル側だけではなく、FAもFIFAもプレーヤーとして立派な認識を示すことができました。

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