「GOAT論争」が再燃――フェデラー対ナダル対ジョコビッチを論じるのはよそう
2020年のグランドスラムがすべて終了し、ナダルが獲得グランドスラム大会タイトル数で史上最多の「20」に至ってロジャー・フェデラー(スイス)と並んでジョコビッチが「17」でそれに続いている今、誰が史上もっとも偉大な選手かの論議にふたたび火をつけたいという気になる人もいるかもしれない。実際には、皆がGOAT(Greatest of All Time)についてもうこれ以上論じないほうがよいということなのだ。
特に『ビッグ3』が未だに現役である今、満場一致の選択をしようとするは馬鹿げているし、何より不必要だ。我々は3人の皆を高く評価して称賛し、敬意を示さなければならないべきときに何故ひとりを選ぶことに固執しなければならなのか?
日曜日にナダルがジョコビッチを圧倒してグランドスラム大会タイトル数でフェデラーと並ぶ2週間前、セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)はこのような業績の重要性について尋ねられた。
グランドスラムのシングルスでセレナは「23」のタイトルを保持しており、これはプロ化以降の時代でトップとなる。全時代を通しては、マーガレット・コート(オーストラリア)の最多記録「24」に次いで2位の記録だ。
「同じくらい偉大なふたりの人間を比べることはできないわ。ロジャーは、ロジャー・フェデラーよ。それだけで十分なことを語っているでしょ。だからどうして人々が対抗させたがるのか理解できないわ。ふたりともが99%の人々がただ夢見ることしかできないような壮観なキャリアを送ってきている。彼らが受けたすべての賛辞、評価、ありとあらゆることを彼らは絶対的に受けるに値するのよ」とセレナは答えた。「正直に言って、私はふたりともの大ファンよ」。
それは悪いことでも何でもない。
また応援するひとり、もっとも好きなひとりを選ぶのも決して悪いことではない。それがスポーツファンたちというものだ。フェデラー、あるいはナダルを贔屓にしている者、またはジョコビッチ贔屓の者がそれぞれの主張をするだろう。
「私は数字を信じる者だ」と1984年から90年にかけてグランドスラムで8つのタイトルを獲ったイワン・レンドル(アメリカ)は明言した。
「だから私の目には、グランドスラムでもっとも多くのタイトルを獲った者がもっとも優秀と映るだろう。誰がその人か? …それはまだ決まってはいない」
3人はそれぞれ生涯グランドスラム(キャリアを通じて4つのグランドスラムのすべてを制すること)を達成しており、ナダルとジョコビッチは2000年代、2010年代、2020年代と過去30年の10年区切りで少なくとも1度は優勝している。
ロラン・ギャロスで13回目の栄冠に輝いたナダルは、他のどの大会の誰よりも勝っている。彼はフェデラーとの対戦成績で24勝16敗とリードしており、グランドスラム決勝での対戦成績で5勝4敗とジョコビッチを上回ている。
20勝を挙げているフェデラーはナダルと並んでいるが、ATPランキングでもっとも長い期間1位を保持した記録を持っている。彼のツアーでのタイトル総数は「103」で、マッチ勝利数「1242」は3人の中でもっとも高い数字だ。
グランドスラムで17回の優勝を誇るジョコビッチは、14よりも多くのタイトルを獲った上記ふたり以外の唯一の選手となっている。彼はナダルとフェデラーの双方に対して対戦成績で上回っており(ナダルに29勝27敗、フェデラーに27勝23敗)、ATPマスターズ1000の大会でもっとも多くのタイトルを獲得し、9つのマスターズ大会をそれぞれ2度以上制す「ダブルゴールデンマスターズ」を達成している。マスターズの全大会に最低1度は勝っている選手は他にいない。彼は世界ランク1位でいる週に関しても、歴代トップのフェデラーに迫りつつある。
彼らのスキルやプレースタイルおよびパーソナリティは、選手たちを含む多くの人々に何らかの影響を与えている。
「彼らは皆、違ったスタイルでプレーしている。彼らは皆それぞれ違ったサーフェス、違ったコンディションを好んでいる。ノバクはまだグランドスラム優勝回数で少し足りないけどね」とジャック・ソック(アメリカ)はコメントした。「だからと言って、彼がふたりより低くはならないよ。彼らは皆、それぞれの形で史上もっとも偉大なプレーヤーなんだ」。
フェデラーのサービスとネットプレーは際立っており、ウインブルドンのグラスコートで最高の戦績を残している。ナダルの左利きのフォアハンドとコートカバーリングの能力は卓越しおり、フレンチ・オープンのクレーコートで最強だ。ジョコビッチのリターンとバックハンドは群を抜いており、オーストラリアン・オープンのハードコートでもっとも成功をおさめている。
「これらの男たちはキャリアを通し、コンディションや雰囲気に関係なく自分たちがどれほど偉大なチャンピオンであるかを証明して見せてきた」と2014年USオープン優勝者のマリン・チリッチ(クロアチア)は敬意を表した。「彼らはすべてに耐えることができ、困難の中で戦い抜くことができる。これはチャンピオンたる者の偉大な資質だよ」。
2021年についてあれこれ考えているテニスファンにとって、間違いなく他の疑問もある。
――39歳になったセレナは、グランドスラム大会優勝を目指して戦うに十分なだけの健康を保てるだろうか?
――最近女子でグランドスラムのチャンピオンになった若い選手たち――19歳のイガ・シフィオンテク(ポーランド)、20歳のビアンカ・アンドレスク(カナダ)、21歳のソフィア・ケニン(アメリカ)、22歳の大坂なおみ(日清食品)、24歳のアシュリー・バーティ(オーストラリア)――のうち誰が、ベストとして浮上するだろうか?
――USオープン優勝者で27歳のドミニク・ティーム(オーストリア)は、他の新進気鋭の選手たちをさらに引き離せるだろうか?
――他の誰――例えば24歳のダニール・メドベージェフ(ロシア)、23歳のアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)、22歳のステファノス・チチパス(ギリシャ)とアンドレイ・ルブレフ(ロシア)、21歳のデニス・シャポバロフ(カナダ)とキャスパー・ルード(ノルウェー)、20歳のフェリックス・オジェ アリアシム(カナダ)、19歳のヤニク・シンネル(イタリア)など――が、次にブレイクを果たすだろうか?
しかしそれでも、ビッグ3に注目し続けてはいけない理由はどこにもない。
USオープンとフレンチ・オープン欠場を強いた2度の手術を経た39歳のフェデラー、そして34歳のナダルと33歳のジョコビッチがテニス最大の舞台で各々の特別な才能を駆使してどれほど長く対戦し合うかは誰にも分からない。
残りの日々に我々が目することができるすべてに感謝しよう。そのようなものは、もう二度とあり得ないと言っても恐らく間違いではないのだから。(APライター◎ハワード・フェンドリック/構成◎テニスマガジン)
※写真は左からロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)(Getty Images)
写真◎Getty Images
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