「何度もタオルを忘れてしまった!」フェデラーが復帰戦を振り返る

ATPツアー公式戦の「カタール・エクソンモービル・オープン」(ATP250/カタール・ドーハ/3月8~13日/賞金総額89万920ドル/ハードコート)の男子シングルス2回戦で第2シードのロジャー・フェデラー(スイス)がダニエル・エバンズ(イギリス)を7-6(8) 3-6 7-5で退けた直後、1年以上ぶりとなる復帰戦を振り返った。

「前日の夜はリラックスできた。試合当日の朝になると試合が近づく実感があり、心配よりも楽しみが大きくなっていった。試合になるとやはり結果が気になるもので、練習とは全然違う。でも、緊張はなかった。試合では自由にプレーして、いろいろチャレンジもするけど、うまくいかなかったりもする。全体としては自分のプレーに満足している」

 偶然、対戦相手となるエバンズと2週間練習してきたことはプラスに働いたという。

「“ダン”(ダニエル・エバンズ)は1回戦で対戦するにはタフな相手だ。でも、この数週間彼と練習してきたから、その点では運がよかったと思う。どんな展開になるか大体予想できるからね。練習コートよりもこの大会のサーフェスは少し遅いから、どうポイントを組み立てるのかという難しさもあった。ストレート負け、ストレート勝ち、3セットの勝利、どんな結果であろうとも、またツアーに戻れたことが素晴らしい。いろいろな答えがそこから出てくる。現在の状態にはとても満足している」

 大会に向けてエバンズと2週間練習をしてきたが、練習パートナーを選ぶときはプレーよりも相手の性格を重視するという。

「ヒッティングパートナーを選ぶとき、その選手のプレーよりも性格を重視している。世界250位以内なら誰でもどんなショットも打てるし、十分な実力がある。当然、毎回きちんと約束通りにコートへ来てくれる選手がいい。気まぐれで練習に来ない選手だと困るからね。ダニエルはリラックスしていて、一緒に話すのも楽しい。そういう相手と練習するのは楽しいものだ。一言もしゃべらない選手と2週間ずっと練習をするのは最悪だからね。彼との練習は楽しかったし、彼自身凄く成長しているいい選手だ。いろんなショットを織り交ぜてくるから、毎日打ち合っていても変化があってよかった。この大会に向けて彼と2週間練習できたことは凄くいい準備になったし、それを試合後にネット越しで彼に伝えたんだ」


フェデラーはエバンズ(写真)の粘り強いプレーに苦労したという

 大事な場面での自身のショット、またサービスには大きな手応えを掴んだようだ。

「難しいポイントで自分がどう対処できたかには満足している。そこでプレーが悪くなることもなく、重要なポイントになればなるほど自分の思い通りのプレーができた。これは凄くいい兆候だ。練習だと、相手のブレークポイントでダウン・ザ・ラインのバックハンドをミスしても問題ないが、試合では大きな問題になる。2時間20分の復帰戦でダブルフォールトを一つもしなかったのは大きな成果だ。サービスを打つときに(2度手術を受けた)膝も気にならなかった」

 ラリーを長くするより、早めにポイントを終わらせることを意識した。

「試合の途中、もっと前に出なければならないと思った。試合が進むにつれてネットに出られるようになり、チャンスを生かした。ベースラインでストロークを打つだけよりも、体への負担が大きくなる動きのあるプレーができたのはよかった。もちろんアップダウンはあり、疲れを感じるときもあったし、調子がいいと感じられることもあった。素晴らしい選手を相手に素晴らしいパフォーマンスを発揮でき、公式戦のコートに戻ってこられたことに満足している」

 大会前に1対2で打ち合う練習を多くこなしたことで、方向を変えるショットの感触をつかめた一方で、フットワークに少し課題が見られたという。

「ショットディシジョンは悪くなかったと思う。自分がどうプレーしたいのかは分かっていた。試合から離れていたから、それが技術的にできるかどうか不安はあったけど。1対2の練習をたくさんしてきたが、この練習ではクロスからダウン・ザ・ラインなどと打つ方向を頻繁に変えるから、その成果が出たと思う。それより少し難しかったのは、イージーなショット。簡単なショットを何度もミスしたけど、原因はちょっとしたフットワークだった。ショットを打つ直前に調整する細かいステップ。試合が長くなって疲れてくると、そういう細かい部分が乱れることもある。でも、ミスがある程度起きるのは当然のことで受け入れている。これから時間が経てばよくなっていくと思う」

 エバンズのショットで厄介だったのはバックハンドのスライスだったようだ。ラリーが長くなることは不利になるため、リスクを犯す必要があった。

「どちらが勝ってもおかしくない試合で、ダンにもチャンスがあった。僕は少し自分のプレーを変えて、ネットに出る方法を考えないといけなかった。それにはより大きなエネルギーも、リスクも必要なのは分かっていた。特にメンタル面の負担が大きかった。やらなければ厳しくなると追い詰められていたんだ。ダンはスライスの使い方がとてもうまく、ピンチのときに踏みとどまることができる。多くの選手があのスライスに苦しめられてきた」


バックハンドのダウン・ザ・ラインを終盤に多用したフェデラー

 終盤になって、様々なショットを織り交ぜることで勝利を引き寄せた。

「自分のショットも、彼にとって十分危険なものになっていたと思う。特に相手のセカンドサービスでいいリターンを返すことで、2本目、3本目での展開を優位に持っていけた。そこをもっと改善できれば、この試合をもっと早く終わらせられたかもしれない。ラリーが長くならないように、決めにいかなければならないショットもあった。アグレッシブに戦おうと強く意識した。バックハンドのダウン・ザ・ラインは試合の序盤では少なかったけど、終盤にかかって多用した。また、彼のバックハンドを攻めて、彼の多彩さを抑え込もうとしたんだ。チップスライスのリターンも後半に試した。これは最初の2セットでは使わなかったけど、終盤にその必要性を感じ、それが最後の最後に機能したのはよかった。終盤になっても、まだ大事なショットのレパートリーが残っていたことはすごくよかったよ」

 39歳にもなればリカバリーが大きな課題になるが、特別なことは何もしていないという。

「僕はちょっと考え方が古く、古いタイプなんだよ。アイスバスは以前試したけど、好きじゃなかったからすぐにやめた。痛み止めを手軽に飲むこともないし、今は必要だと感じていない。9ヵ月くらいは飲んでいないから、今体は健康さ。食事を採って、ストレッチをして、その前にまずはシャワーを浴びないとね。そしてストレッチをしてマッサージを受けて寝る。明日の朝起きてまた試合に向けて準備するだけ、いたってシンプルさ」

 コロナ禍でルールが変更され、タオルを自分で管理しなければならないことに戸惑っているシーンが何度も見られた。

「いや、何度も戸惑ったよ。タオルを持っていくのも、取って帰るのを何度も忘れていたよ。ショットクロックがない時代から長くプレーしてきたから、まだ全然慣れてなくて。ウォーミングアップが4分というのも忘れていた。ダンと打っているとき、30秒くらいで彼がもうネットでボレーを打ち始めたから“なんであんなに焦ってるんだ?”と思っていたんだ。ショットクロックを見たら、残り時間が3分10秒くらいしかないのに、まだ自分は何も準備ができていなかった。試合中も何度もスコアボードを見て状況を確認しなければならなかった。いまはチェンジエンドなのか?とね。次にどんなショットを打つか、自分の感触、戦術、相手は何をしようとしているのかということで頭の中が一杯だから、いろんなことを忘れてしまうんだ。ここ最近でルールが変わったことも多いから、実際に自分がツアーから離れていた期間よりも、長く離れていたんじゃないかと感じているよ」


スコアボードを見てチェンジエンドなのかを確認するなどの細かい部分で、実戦から離れていた影響があったようだ

 会見場に記者がほとんどいないオンライン会見は、現在の若い選手にとってはやりやすいが、細かいニュアンスや気持ちが伝わる対面式のほうが自分には合っていると思っている。

「多くの選手にとっては今の(オンライン)スタイルがいいんじゃないかな。同じ部屋で多くの記者に囲まれているのは、僕自身は経験があるし、慣れているから問題ない。でも、今のスタイルなら質問に対して変な答えをしても、その質問者の反応を見ることなく、すぐ次の記者の質問に移れるからね。僕自身もこのスタイルには慣れてきたけど、面と向かって話す昔のスタイルが好きだ。そのほうが自分の感情もよく分かるだろうし、よりよく理解し合えると思う。君ら記者にとってはどちらがいいのか分からないけど、今の世の中でうまく機能しているようだから、しばらくは続くんじゃないかな」

 公式戦を続けて戦えるだけの体力、走力が戻ってきたからこそコートにふたたび立つ決断を下したという。

「例えば、今日の試合は2時間20分。それだけの時間を戦えないのなら、復帰はできない。練習でいろんなことをテストしなければならないし、自分の代わりに誰かが走ってくれることはあり得ないんだ。自分で走ってジャンプしなければならない。そして走れなければポイントは取れない。シンプルだ。動かずに急に左右にウィナーを決めまくることもできない。課題はあるけど、全体的に見たらかなり満足だ。大会前にも言ったけど、2-6 2-6で負けようとも、今日の試合のように7-5で最終セットを取ろうとも、結果は関係ない。400日間テニスコートから離れていたんだ。タオルのことやルールなど、細かいことをたくさん忘れてしまうほどの長い期間離れていた。試合を重ねて今のテニスに慣れないといけない」

 観客数の上限が定められているものの、現在の状況で観客の入ったスタジアムでプレーできたことに感謝している。

「最後にプレーしたのはケープタウン(南アフリカでのイベント)で5万2000人ものファンが見に来てくれた。今日の試合はオーストラリアン・オープンの準決勝とは違うから比較はできないけど、コートに立った瞬間は観客がふたたびいることは素晴らしいと思った。僕が何度も経験したような大音量のスタジアムではなかったけど、テレビで無観客の試合は見てきたからね。復帰戦でファンの前でプレーできたのはうれしかった。ファンは素晴らしかったし、試合に入り込んでくれた。テニスファンは誰でも、凄い瞬間、凄いショットを楽しみにしている。試合が進むにつれて盛り上がり、ブレークポイントでの雰囲気もよかった。誰もが僕がどんなプレーを見せられるのか、どんな気持ちでどんなレベルを見せられるのか、注目していたと思う。いい経験だったよ。通常より少なかったかもしれないけど、自分がゾーンに入るとそれは感じられない。応援に来てくれたすべてのファンに感謝している」

 続く準々決勝ではニコラス・バシラシビリ(ジョージア)に6-3 1-6 5-7で敗退。さらに3月14日から始まるドバイ・テニス選手権は欠場すると発表した。「実戦よりもふたたびトレーニングに戻ることがベストな選択だと思った」と発言している。次に出場する大会はまだ決まっていないようだ。(テニスマガジン)

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写真◎Getty Images

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