トップ100に10人を擁するイタリア男子テニスが躍進を続ける理由とは?

写真はイタリア国際1回戦でのヤニク・シンネル(イタリア)(Getty Images)

ヤニク・シンネル(イタリア)はマイアミのハードコートでもローマのレッドクレーでも、同じように心地よさそうなプレーを披露した。ロレンツォ・ムゼッティ(イタリア)はロジャー・フェデラー(スイス)を手本に自身のオールコートテニスを築いてきた。そして“ハンマー”の異名をとるマッテオ・ベレッティーニ(イタリア)は、テニス界で最大のサーブ&フォアハンドのコンビネーションを擁する選手だ。

 ATPランキングのトップ100にひしめき始めたイタリアの男子プレーヤーたちは現在10人となり、これは今週の「BNLイタリア国際」(ATP1000/イタリア・ローマ/5月9~16日/賞金総額256万3710ユーロ/クレーコート)で実現したナショナル記録だ。そして彼らは皆、それぞれオールコートのプレーを身につけている。

 これはかつてクレーコートスペシャリストを輩出することで知られた国にとって、大きな変化だと言える。同国は1976年フレンチ・オープンでアドリアーノ・パナッタ(イタリア)が優勝して以来、ここ45年に渡って男子のグランドスラム優勝者を出せていない。その間に女子ではフランチェスカ・スキアボーネ(イタリア)が2010年ロラン・ギャロスで、フラビア・ペンネッタ(イタリア)は2015年USオープンで栄冠に輝いている。

 今年から新しくイタリアのデビスカップ代表監督に就任したフィリッポ・ボランドリ(イタリア)は、「我々はイタリアのプレーヤーのアイデンティティを変えようとしています。我々はモダンテニスのためのトレーニングをしています。だからこそ今の選手たちは技術的なスタイルでかつてのイタリア人と違ってきているのです」と語った。

 ベースラインの遥か後ろに立って長いラリーと攻撃性の低いサービスに偏っていた時代から移行し、イタリアテニス連盟(FIT)は進化していくために統計のアドバイザーに大きく依存してきた。

「モダンテニスの世界では、ほとんどのポイントが4ショット以内で終わります。ポイントの75%が4ショット以内で決まるなら、4ショットでポイントを仕留められるように選手たちを訓練する必要があります。だからこそベレッティーニは“典型的”なイタリア人選手ではないのです」とボランドリは説明した。

「我々が力を注いでいるのはその部分であり、だからこそ皆が変わったのです」

 シンネルとベレッティーニはごく最近、ATPマスターズ1000の大会で決勝に進出した。シンネルが3月のマイアミで、ベレッティーニは先週のマドリッドでそれぞれ準優勝を飾った。それとは別に、ロレンツォ・ソネゴ(イタリア)は先月のサルデーニャ・オープンでタイトルを獲得した。

 ともに19歳のシンネル(18位)とムゼッティ(82位)は、男子のトップ100に2人しかいないティーンエージャーだ。ピサ近郊のティレニアにあるFITのハイパフォーマンス・センターを率いるボランドリはまた、選手の個人コーチとの連携についても重要なことだと考えている。

 最初の共同プロジェクトは14歳のときからビンチェンツォ・サントパドレ氏に指導を受けていたベレッティーニ、そして11歳のときからジポ・アルビノ氏をコーチとしていたソネゴがまだごく若かったときに始まった。ティレニアでのトレーニングを含むムゼッティのチームとともに働き始めたのは、彼が2019年全豪ジュニアで優勝するよりも前のことだった。

「我々は皆、選手たちや彼らのコーチとチームが利用でできるアドバイザーです。それはテニス連盟が行った大きなメンタリティの改革でした」とボランドリは明かした。

 それは2007年に世界ランク自己最高25位に至ったボランドリ自身がトッププレーヤーだった一世代前の時代から、イタリアのテニス界が大きく進化したことだった。

「かつてはプライベートのコーチングスタッフがいれば、それがすべてでした。ティレニアでトレーニングすることはできましたが、協力体制はなかったのです。今ではコーチたちが皆、私やコーチ間でも協力し合っています。皆が互いに話し合っており、そのため皆が向上しているのです。プレーヤーたちが上達してコーチたちも能力を上げ、全体が機能して進歩しつつあるのです」

 ティレニアの施設ではクレーコート(4面)よりもハードコート(7面)のほうが多く、テニス連盟はウインブルドンに向けて準備できるようにグラスコートの設置を計画している。

 1959年と60年のフレンチ・オープン優勝者でありパナッタ以外で唯一グランドスラム大会シングルスで優勝した実績を持つニコラ・ピエトランジェリ(イタリア)は、自分の時代には練習はほぼ例外なくクレーコートでしていたと回顧した。

「自分が現役だった当時は、ロンドンに到着してグラスコートで練習する時間はたった1日だけだったよ。非常に難しかったね」とピエトランジェリは振り返った。

 イタリアは今、トップレベルの大会を定期的に開催している。ミラノでのNextGen ATPファイナルズ、トリノでのATPファイナルズとデビスカップ・ファイナルズは11月に連続して行われる。またサルデーニャ・オープンが先月に終了し、イタリア国際のあとにはパルマでの大会が控えている。

「おかげで多くの選手たちが世界中を旅することなく大会に出場することができ、それは彼らを財政的に助けることにもなります」とボランドリはその利点について話した。

 少なくともシンネルの存在により、グランドスラム大会でタイトルを獲得できる選手を生み出すというイタリアの究極のゴールは現実的な目標に見え始めている。

 世界ナンバーワンのノバク・ジョコビッチ(セルビア)は先月のモンテカルロ・マスターズでシンネルを破ったあと、「彼はオールラウンドなプレーヤーだ。程度の違いがあれ、彼はどのサーフェスでもショットをスイートスポットで打っている。彼は我々のスポーツの未来だ。実際、彼はすでに我々のスポーツの現実でもあるんだよ」と賛辞を送った。(APライター◎アンドリュー・ダンプ/構成◎テニスマガジン)

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写真◎Getty Images

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