「トイレに守護神がいるんだ!」トイレブレークの秘密を語るジョコビッチ [フレンチ・オープン]
今年2つ目のグランドスラム大会「フレンチ・オープン」(フランス・パリ/本戦5月30日~6月13日/クレーコート)の男子シングルス決勝で、第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)が第5シードのステファノス・チチパス(ギリシャ)を6-7(6) 2-6 6-3 6-2 6-4で倒してチャンピオンに輝いた。
「ありがとう。いま達成したことを感激しており、誇りに思っている。心から愛するテニスの歴史の一部になることはいつもインスパイアされるし、凄く満足感が大きい。この48時間に起きたことのシナリオには、これ以上の喜びはない。自分のプロのキャリアの中でも、トップ3に入る経験になった。クレーコートで最強のラファを相手に4時間半のバトルで勝利。昨日は練習せず、今日の決勝に臨んで逆転勝利だ」
序盤はチチパスの勢いに押された。
「準決勝のあとにエネルギーをリチャージして、チチパス相手に戦うのは難しかった。初のグランドスラム優勝杯を狙っている彼は失うものがない。当然、彼のスタートは最高のものだった。僅差だったが大事なポイントで彼が上回り、第1セットを取られた。第2セットは自分がメンタルもフィジカルも少し落ちてしまった」
第1セットでドロップショットに追いつこうとして転倒したジョコビッチ
第1セットで転倒したあとに動きが悪くなった。
「ああ、実際少しそうだったと思う。でも、大きなケガはなかったから、フィジカル面で大きなダメージにはならなかった。ただ、あのあと30分程度は転んだ衝撃が残っていたと思う。あのような転び方は必ずしもメンタル面に影響する訳ではないけど、リズムやサービスのテンポを崩したりする。でも、相手のテニスの質が高かったから、最初の2セットを落としたことには変わらない」
第2セット終了後に取ったトイレットブレークを挟んでからは、相手の考えが手に取るように分かった。
「4回戦のロレンツォ・ムゼッティ(イタリア)との試合のときのように一度コートを去り、違う選手として戻ってきた。リフレッシュして、第3セットで早めにブレークできた。彼の頭の中がよく見えるようになり、自分も思い切りよくラケットを振れるようになった。完全に形勢は逆転した」
トイレブレーク中は自分の中の“2つの声”と話している。
「自分と話すときは、2つの声がある。そのうちどちらかを聞くかだ。今回は、“ダメだ、終わった”という声もあった。第2セットのあとはそれが強かったから、もう1つの声のほうに耳を傾ける必要があった。悪い声をシャットダウンする必要があった。自分はできるはずだと自身を鼓舞して、それを何度も心の中で繰り返して、体全体にいき渡らせるようにしたんだ。第3セットをスタートしてみると自分を取り戻していいプレーができていたので、それが2つ目の声をさらに強くしてくれた。そのあとは自分に疑問を感じることはなくなった」
トイレには守護神がいるのか?
「ハハハ、そうだね! 僕の守護神である小さな天使があそこにいるんだ。その秘密を明かす訳にはいかないよ。うまく機能している秘密であることは確かだ」
フィジカルと同じようにメンタルトレーニングを行ってきた。
「オンコートでは同じ方向でずっと考え続ける時間がない。いろんな考えが頭の中を駆け巡るんだ。キャリアを通してずっとトレーニングしてきた。メンタルを軸の中央に戻して、左右にぶれないようなトレーニングをしてきた。でも、実際気持ちがよく左右にぶれてグランドスラムの決勝でもよく負けてきた。ネガティブなサイドに陥ることがあった」
最後は自分の力で立て直すしかない。
「しかし、テニスは1対1のバトルで、チームのサポートがあるけど最後に頼れるのは自分しかいない。厳しい状況から這い上がるのは自分の力しかないんだ。だからこそメンタルトレーニングはフィジカルと同じくらい大事で、いつも時間をかけて行っている。それがうまくいってよかった」
試合後、声をかけ続けてくれた少年にラケットをプレゼントするジョコビッチ
試合後にラケットをプレゼントした少年は、戦術的なアドバイスもくれた。
「面識のない少年だったけど、彼の声が試合中ずっと僕の中に響いていた。特に2セットダウンのときはよく声をかけてくれて、凄く勇気づけてくれたんだ。実際、戦術的なアドバイスもくれたよ。“サービスをキープして、最初の簡単なボールを叩け、予測して相手のバックハンドを攻めるんだ”とね。すごく可愛かったね。応援してくれた感謝を伝えるために、ラケットを渡したんだ」
この優勝でゴールデンスラムを狙うチャンスがある。
「すべては可能だ。これまでのキャリアで経験してきたことや乗り越えてきたことを考えると、ここまで本当に素晴らしい冒険で、多くの人が僕には無理だと思っていたことを達成してきた。だからすべてが可能だ。オリンピックを含めたゴールデンスラムを達成する大きなチャンスがあると思う。しかし2016年も同じ状況だったが、ウインブルドンは3回戦で敗退した」
グラスコートに順応する時間があまりない。
「今年は、今からウインブルドン1回戦まで2週間しかないのは理想的ではない状況だ。まったく逆の特徴を持つサーフェスでこのトランジションをできるだけ早く、効果的に行うのは非常に難しい。この勝利を祝ってから、数日後にはウインブルドンについて考え始める」
ウインブルドンでは3連覇を狙う。
「当然、ウインブルドン優勝を狙っている。昨年中止になったこともあり、今年開催されることを本当にうれしく思っている。2018年と19年に優勝しているし、その調子を持続したい。グラスコートでのプレーは好きだし、そこでの自分のプレーをかなり向上させてきた。いま感じている自信をウインブルドンでも活かせたらいい」
ラファエル・ナダル(スペイン)、ロジャー・フェデラー(スイス)に追いつく可能性は十分にある。
「ラファ、フェデラーに追いつくのが“ミッションインポッシブル”だと思ったことはない。まだ1つ足りないし、彼らもまだ現役だ。2人とも素晴らしいレベルにあるし、特にラファは現在トップレベルにある。3人ともウインブルドンや他のグランドスラムを獲るチャンスがある。3人ともこの素晴らしいトロフィーを獲るために戦い続けるだろう。僕は彼らを追い続ける。それと同時に自分の独自の道も歩み続ける。3人ともそれぞれの道を歩んでゆくだろう」(テニスマガジン)
写真◎Getty Images
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