ジョコビッチが『年間グランドスラム』達成への第一歩で18歳の新鋭ルーネに勝利 [USオープン]

写真はノバク・ジョコビッチ(セルビア)(Getty Images)


 今年最後のグランドスラム大会「USオープン」(アメリカ・ニューヨーク/本戦8月30日~9月13日/ハードコート)の大会2日目は、トップハーフ(ドローの上半分)の男女シングルス1回戦が行われた。

 比較的無名の10代選手を応援する「ルーーーネ!!!!」のコーラスがノバク・ジョコビッチ(セルビア)を煩わせたとしても、彼はそれを他者にわからせなかった。

 男子では1969年以来となる『年間グランドスラム(同じ年に四大大会全制覇)』達成と21回目のグランドスラム制覇を目指す歴史的挑戦を始める中、セットを落とす過程で彼が潜り抜けたややおぼつかない時間帯によってジョコビッチが揺るがされているという目に見えた証拠はなかった。

 本人が「僕のベストパフォーマンスではなかった」と認めた通りジョコビッチは完璧ではなかったが、そうである必要はなかった。彼に必要だったのはただ勝つことであり、ハードコートのオーストラリアン・オープンであれクレーコートのフレンチ・オープンであれグラスコートのウインブルドンであれ、今季のグランドスラム大会でプレーするたびにそうだったようにフラッシングメドウのハードコートにおける7勝の最初のひとつに勝つということを実行したのだ。

 第2セットで一時的な落ち込みを経験したあと迅速にコントロールを取り戻し、ケイレンを起こしている対戦相手を憔悴させたジョコビッチは予選を勝ち上がってきたオルガ ビートゥス ヌースコウ・ルーネ(デンマーク)を6-1 6-7(5) 6-2 6-1で退け2回戦に駒を進めた。

「言うまでもなく、いつも観客に自分を応援してもらいたいと願っている。でもそれが常に可能であるとは限らないからね。言えるのはそれだけだ。わからないよ。僕は自分がすべきことに集中していただけだ」とジョコビッチはコメントした。

 ジョコビッチは次のラウンドで、ヤン レナード・ストルフ(ドイツ)を2-6 7-6(3) 4-6 6-4 7-5で破って勝ち上がった25歳のタロン・グリークスプア(オランダ)と対戦する。世界ランク121位のグリークスプアはロジャー・フェデラー(スイス)が出場を取り消したおかげで本戦に入ることができた選手だ。

「コートに立ってどう感じるかを見て、冷静さを保とうとする。僕にできるのはそれだけだ」

 その蒸し暑い火曜日の夜、アーサー・アッシュ・スタジアムにいたふたりの選手の間には本当に多くの違いがあった。ジョコビッチが34歳でルーネは18歳、ジョコビッチが世界1位でルーネは145位。ジョコビッチがグランドスラム大会で20タイトルを保持する一方で、2019年フレンチ・オープンでジュニアの部を制したルーネはこの日まで一度もグランドスラム大会本戦でプレーしたことがなかった。ジョコビッチのキャリア獲得賞金総額は1億5000万ドルに及ぶが、ルーネは15万ドルにも満たない。

 青いIKEAのショッピングバック――「素敵なバッグだよ」と彼は説明した――に持ち物の一部を入れてコートに現れたルーネはツバを後ろに向けた黄色い帽子を被り、第1セットのあとにそれを青い帽子に替えた。この試合について説明した彼の言葉は、彼の年齢に見合った若者らしいものだった。全体的に彼は「クレイジーな経験だった」と「夢の実現」と感じ、観客の応援は「信じられないほど素晴らしい」「病みつきになる感じ」だと話した。

 ルーネはATPツアー下部のチャレンジャー大会とUSオープン予選で勝利を重ね、マッチ13連勝でこの試合に臨んだ。新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックで入場を禁じられた昨年を経て戻ってきたニューヨークのファンたちはルーネを熱心に応援し、彼のガッツポーズや第2セットでベストのレベルを見せた際に彼が求めた声援の要求に応えた。

 最初は双方の選手にブーイングのように聞こえたのは実際には『ルーニング(Rune-ing)』であり、ルーネはこの瞬間を楽しんだ。ゲストボックスで拍手をして微笑んでいた彼の母親も同様で、そこにはセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)のコーチとして知られるパトリック・ムラトグルー氏の姿もあった。ルーネはフランスのムラトグルー・テニスアカデミーでトレーニングしているのだ。

 今年は史上初めてすべてのコートのすべての試合は線審なしで行われており、人間の審判は主審のみとなっている。すべてのショットはボールの着地を察知すカメラを使った「ホークアイ・ライブ」によるエレクトリック・ラインコールシステムによって判定される。

 昨年の大会ではふたつのメインコート(アーサー・アッシュ・スタジアムとルイ・アームストロング・スタジアム)でのみ人間の線審が起用され、それ以外のコートではこの自動判定システムが使われていた。昨年のパブロ・カレーニョ ブスタ(スペイン)に対する4回戦でジョコビッチが第1セットでサービスゲームを落としたことに腹を立てて無造作に打ったボールが線審の喉に当たったため失格になるという事件が起きたが、この試合はアーサー・アッシュ・スタジアムで行われていた。

 このようにカッとなることもあるジョコビッチは1ヵ月前の東京オリンピックの銅メダル決定戦でカレーニョ ブスタに敗れた際にラケットを折って無人の観客席に投げ込んでいたが、この火曜日の対戦では1セットを落としたときもタイブレークで自分のミスに拍手喝采が起こったときでさえ落ちついた振る舞いを保っていた。もちろん目をぐるりと回したり頬を膨らませたり頭を振る程度のことはしたが、彼が激しい感情を外に見せることはなかった。

 ところでジョコビッチと何かと因縁のあるカレーニョ ブスタは、火曜日に驚きの初戦敗退を喫してしまった。彼は世界151位で予選勝者のマキシム・クレッシー(アメリカ)に7-5 6-4 1-6 4-6 6-7(7)で敗れたのだ。クレッシーは同日に第27シードのダビド・ゴファン(ベルギー)をストレートで下したマッケンジー・マクドナルド(アメリカ)と同じく、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で大学テニスをプレーしていた。(APライター◎ハワード・フェンドリック/構成◎テニスマガジン)

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