18歳アルカラスが劇的な5セットの勝利で世界3位チチパスを打破「夢の実現」 [USオープン]
今年最後のグランドスラム大会「USオープン」(アメリカ・ニューヨーク/本戦8月30日~9月13日/ハードコート)の大会5日目は、ボトムハーフ(ドローの下半分)の男女シングルス3回戦などが行われた。
18歳のカルロス・アルカラス(スペイン)はこれまでも、最終的にスペインのトップ選手としてラファエル・ナダル(スペイン)の跡を継ぐだろうと人々に思わせるだけの早熟な能力と将来性を見せてきた。USオープンでのその金曜日にアルカラスは第3シードのステファノス・チチパス(ギリシャ)に対する劇的な5セットの勝利をおさめ、彼がどうして早くからこれだけの注目を集めているのかを示して見せた。
才能に匹敵する粘り強さとセット間に長すぎるトイレ休憩を取るチチパスの傾向にややうんざりしたアーサー・アッシュ・スタジアムの観客たちに後押しされ、4時間を超える死闘の末に6-3 4-6 7-6(2) 0-6 7-6(5)で勝利を掴んだアルカラスは1989年のピート・サンプラス(アメリカ)とマイケル・チャン(アメリカ)以降で最年少のUSオープン4回戦進出者となった。
キャリア10回目のグランドスラム本戦での試合を勝利で終えたあと、世界ランク55位のアルカラスは「コートで何が起こったのかわからない」とコメントした。
「こんな凄い試合でステファノス・チチパスを倒したなんて信じられないよ。夢の実現だ」
同日に18歳の選手が世界3位の選手から金星を挙げたのは、彼だけではなかった。このあと行われたナイトセッションの女子シングルス3回戦で、2018年と20年のチャンピオンである第3シードの大坂なおみ(日清食品)が18歳のレイラ・フェルナンデス(カナダ)に7-5 6-7(2) 4-6で敗れたのだ。
フェルナンデスとアルカラスはともに、試合後のオンコートインタビューで大きな声援を送ってくれたファンたちに対して感謝の気持ちを伝えることを忘れなかった。新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックにより無観客で開催された1年後、今年の大会は観客をフル動員して行われている。
観客たちは試合中に「レッツゴー、カルロス!」と叫び、タイブレークを終わらせる直前を含むいくつかのポイントではスタンディンオベーションで彼を称えた。そのポイントでアルカラスは腕を振って応援を要求し、スタンドは大いに盛り上がった。
「彼はグランドスラムのタイトルを狙うことができるだろう。彼はそうするためのテニスを備えている」と2021年フレンチ・オープン準優勝者のチチパスは賛辞を送った。
この試合でのアルカラスは、本当に多くのスキルを披露した。両サイドからの猛烈な強打についてチチパスは、「あそこまで強くボールを打つ選手はこれまで一度も見たことがなかった」と評価した。そしてそれは、統計によって裏付けれらてもいる。中でももっとも際立っているのは、アルカラスがフォアとバックから合計45本のウィナーを叩き出したのに対してチチパスは14本に留まったということだった。
もっともっとあった。時速215kmに達する威力抜群のサービス、対処が極めて困難なリターン、そしてドロップショット。彼は非常に多くのドロップショットを使っており、そのうちいくつかは完全にポイントを奪い、それ以外でものちにロブで抜いたり適切なアングルのパッシングショットによるウィナーを決めたりするためのお膳立てをした。アルカラスはあるポイントで、背中をネットに向け脚の間から打つショットでポイントをものにした。
これらすべては非常に印象的だったかもしれないが、もっとも際立っていたのはテニス界最大のスタジアムでトッププレーヤーに対してグランドスラム大会で第5セットの厳しい状況下で踏ん張り抜くために必要とされた彼の精神力だった。
「彼はあの状況に非常にうまく対処していた」とチチパスは脱帽した。
そしてアルカラスは、そのすべてを意図していた。シーン、舞台設定、かかっているもの。アルカラスは観客と言葉を交わしたり拳を突き上げたり「バモス!」と叫んだりしながら、そのプロセスを楽しみさえした。そしていくつかのベストショットを決めると、彼のコーチで2003年フレンチ・オープン優勝者のフアン カルロス・フェレロ(スペイン)のほうに顔を向けて自信に満ちた様子で頷いた。
試合がアルカラスのフォアハンドウィナーによって終わったとき、彼はラケットを放りだして仰向けに倒れると両手で顔を覆った。
「最後のポイントまでアグレッシブに戦わなければならなかった。そして僕はそうすることができたと思う」とアルカラスは振り返った。
しばらく胸を上下させながら寝そべっていたアルカラスは起き上がってネットに向かい、チチパスに肩をポンと叩かれたあと彼はふたたび手を目元に当てて瞳をきつく閉じた。
これは人々がいつかやってくれるだろうと期待していた類いの勝利であり、重要な意味を持つ瞬間はこれから何度も訪れるだろう。すでに彼は2005年のノバク・ジョコビッチ(セルビア)以降でグランドスラム2大会で3回戦に進出した最年少のプレーヤーだった。そして1989年のゴラン・イバニセビッチ(クロアチア)以来、同じ年に4つのグランドスラム大会すべてで1勝以上マークしたもっとも若い選手でもある。
さらに今度は、こんな記録も追加された。彼はATPランキングが創設された1973年以降、グランドスラム大会でトップ3の選手に勝った最年少プレーヤーとなった。
「僕は自分が勝つと思っていた。今日は負けてはいけない試合だった」とチチパスは悔しさを滲ませた。彼はアンディ・マレー(イギリス)との1回戦での出来事から、トイレ休憩で長くコートを離れ過ぎたことについてマレーや他の人々から批判を浴びていた。
今回もチチパスは第3セット終了後にコートを離れたが、ほんの数分で戻ってきた。アルカラスも同じくコートを離れたが、チチパスより30秒ほど早く戻ってきた。第4セットが終わったあと、アルカラスは治療のためにコートサイドにトレーナーを呼んで脚と背中にマッサージを受けた。
そして勝負の行方がかかった第5セットの終盤、アルカラスは自分よりも遥かに実績に勝る相手を上回った。
「自分が試合を支配していると感じていながら、最後の最後で自分に有利な方向に転ばなかった。ちょっぴり苦い後味が残るよ」とチチパスは肩を落とした。
アルカラスは次のラウンドで、ヘンリー・ラクソネン(スイス)との予選勝者同士の3回戦を3-6 6-3 6-1 6-4で制して勝ち上がったペーター・ゴヨブチック(ドイツ)と対戦する。(APライター◎ハワード・フェンドリック/構成◎テニスマガジン)
写真◎Getty Images
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