大坂なおみがUSオープン敗退後、テニスからの一時離脱を考慮「最近は勝っても幸せだと感じない」

写真は大坂なおみ(日清食品)(Getty Images)


 今年最後のグランドスラム大会「USオープン」(アメリカ・ニューヨーク/本戦8月30日~9月13日/ハードコート)の女子シングルス3回戦で落着きを失ってリードを棒に振った戦いの末に敗れてタイトル防衛の夢が潰えたあと、大坂なおみ(日清食品)は自分のエージェントに敗戦直後にアーサー・アッシュ・スタジアムの廊下でふたりが個人的に話し合ったことを世界に伝えたいと言った。

 そして彼は、「もちろんいいよ」と答えた。

 それから大坂は金曜日の夜、目を涙で濡らして声が詰まるたびに間を取りながら「しばらくの間」もう一度テニスから距離を置きたいと考えていると打ち明けた。

「このところは勝っても幸せだとは感じず、ほっとするような気分になります。そして負けたときには本当に悲しくなる。それは普通ではないと思います」と大坂は世界ランク73位で18歳のレイラ・フェルナンデス(カナダ)に7-5 6-7(2) 4-6で競り負けたあとの記者会見で話した。

 記者会見の司会者はそこで打ち切ろうとしたが、大坂は続けたいと申し出た。

「これが何であるかをはっきりさせるのは非常に難しいことです」と大坂は左頬を手で支えながら言った。

「基本的には、現時点での私は自分が何をしたいのかを見つけ出そうとしているような気がします。正直に言って、自分がいつ次のテニスの試合をプレーするのかわかりません」

 泣きながら彼女は黒いサンバイザーを目の上に下げて謝罪し、それから両頬を軽く叩いた。

「ええ、私は少しの間プレーを止めてテニスから距離を置きたいと思います」と彼女は去り際に言った。

 パリでは記者会見に出席しないと発表したあとにメンタルヘルスの問題に対処するためフレンチ・オープン2回戦を前に棄権していた23歳の大坂にとって、このUSオープンはそのとき以来となるグランドスラム大会だった。彼女はフレンチ・オープンにあとにウインブルドンも欠場し、東京オリンピックには参加して日本でもっとも有名なアスリートとして聖火台に火を灯す大役を任された。

 金曜日の試合が大坂にとって完全に順調ではなかった最初の兆候は、彼女があるポイントを落としたあとにラケットをコートに叩きつけたときに現れた。その少しあとに大坂はラケットを無造作に投げ、それはバウンドしてネットのほうに滑っていった。それから彼女はベースライン付近で、今度は力を込めてラケットを打ち付けた。

 試合後に大坂はその自分の行動について、「小さな子供のような」振る舞いだったと表現した。

「落ち着くよう自分に言い聞かせていたけど、恐らく沸点があったかように感じました。いつもの私は、チャレンジが好きだと感じています。でもこのところ、物事が自分に都合のいい方向に進んでいないととても不安になってしまうんです」

 彼女のテニスは不調だった。スポーツ選手がプレー中に見せる真剣で決意に満ちた表情は彼女の顔から消え、最後にはコートに背を向けてポイント間に時間を使い過ぎる大坂に観客たちはブーイングを送った。そして間もなく、第3シードの大坂は大会から弾き出された。

 確かにこの日はそういった雰囲気があった。彼女の試合に先立ち、同じアーサー・アッシュ・スタジアムでもうひとりの18歳が第3シードを倒す驚きの番狂わせをやってのけていた。カルロス・アルカラス(スペイン)がフレンチ・オープン準優勝者のステファノス・チチパス(ギリシャ)を6-3 4-6 7-6(2) 0-6 7-6(5)で倒し、1989年以降でUSオープン男子シングルス4回戦に至った最年少プレーヤーとなったのだ。

 グランドスラム大会でマッチ16連勝という記録を手に大坂はこの大会に臨んだが、それでもフェルナンデスは「試合直前、私は自分には勝つことができるとわかっていた」と明言した。

 恐らく大坂にとって問題になったのは、ハイレベルの戦いから離れる期間が長かったことかもしれない。第2セット6-5から自分のサービスゲームを迎えたにも関わらずそこで勝負を決め損ねたことに関するもうひとつの要因は、大坂が月曜日からプレーしていなかったことも考えられる。1日おきに試合をする通常のグランドスラム大会のリズムは、2回戦の対戦相手となるはずだった予選勝者のオルガ・ダニロビッチ(セルビア)が体調不良で棄権したため崩されることになった。

「グランドスラム大会で不戦勝で勝ち上がったことは一度もなかったから、それは間違いなく奇妙な感覚でした」と大坂はコメントした。

 第1セット終盤の大坂は、かなりいいプレーをしていた。彼女は最後の9ポイントを含む13ポイントのうち12本を取り、1ポイントも与えず最初のブレークを果たして6-5とリードしたあと時速180kmを超える2本のサービスの助けも借りてラブゲームでキープした。

 第2セットでも6-5リードからサービング・フォー・ザ・マッチを迎えて同じような結末になるかに見えていたのだが、大坂のフォアハンドがサイドアウトした瞬間にフェルナンデスがこの日最初のブレークに成功して6-6と追いついた。

「私はついに、彼女のサービスのパターンを見つけたのよ。私はただ自分の本能を信じてボールを打ったわ」とフェルナンデスは振り返った。

 そしてそこから、大坂が負のスパイラルに陥り始めた。彼女はタイブレークでミスを連発して0-5とされ、過去にもときどきやってきたようにラケットを投げ出すことでフラストレーションを露わにした。

 主審のアリソン・ヒューズ氏はその時点で大坂に何も言わなかったが、のちにボールを客席に打ち込んだ際に警告を言い渡した。

「私はなおみにフォーカスしてはいなかったわ。自分自身、自分のテニスだけに集中していたの」とフェルナンデスは語った。

 さらに核心を突けば、大坂はベストの調子ではなかった。彼女は第2セット終了後に白いタオルを頭から被ってコートから出ていき、それから同じように他の世界から自分を切り離すようにしてコートサイドのベンチに座った。

 もっとも重要なポイントを取ったあとに右の拳を高く突き上げて微笑んでいたフェルナンデスは、もちろんこの結果に大きな一役を買っていたことだろう。

 第3セットでのフェルナンデスは19回あったファーストサーブからのポイントを18本取り、一度もブレークポイントに直面しなかった。フェルナンデスの膝を地面につくほど低く曲げてベースラインで素早く方向を変えるプレースタイルは、もうひとの左利き選手で2016年USオープンを含むグランドスラム大会優勝歴3回のアンジェリック・ケルバー(ドイツ)を彷彿させた。

 そして偶然にもそのケルバーは、フェルナンデスが次に対戦する相手なのだ。第16シードのケルバーはこの日、2017年チャンピオンのスローン・スティーブンス(アメリカ)を5-7 6-2 6-3で破っていた。

「今夜やったように、自分の力を見せるつもりよ。そしてどうなるか見てみましょう」とフェルナンデスは次戦を見据えた。(APライター◎ハワード・フェンドリック/構成◎テニスマガジン)

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