今年最後のグランドスラム大会「USオープン」（アメリカ・ニューヨーク／本戦8月30日～9月13日／ハードコート）が開幕し、初日はボトムハーフ（ドローの下半分）の男女シングルス1回戦が行われた。

　大坂なおみ（日清食品）が少しずつではあるが、最近になって気付き始めたことがある。それはもし他の人々が彼女についてたくさん考えているというのなら、彼女自身もそうするべきだということだ。

「小さな子供が私のことをお気に入りの選手だとかお手本だなどと言うのを聞くと、本能的に私の頭に浮かぶ最初の考えは『なぜ？』というものなの」とタイトル防衛に向けた初戦に勝利したあと、月曜日から火曜日に変わろうというときに大坂は説明した。

「私はもっと受け入れる必要があるように感じています。彼らがそのように言ってくれることは誇らしいことで、私は自分自身をもっと信じるべきなのです。自分自身を信じなければ、他の人々は信じてくれないと思います」

　メンタルヘルスの問題で休養期間を取ったあとグランドスラム大会に戻ってきた大坂は、1回戦で世界ランク87位のマリー・ブーズコバ（チェコ）を6-4 6-1で退けた。その試合の間、大坂はアーサー・アッシュ・スタジアムで小さな子供の甲高い声を聞いた。

　試合が終わったとき、大坂はちょっとした贈り物を持って行った。それはアスリートが収集しているオリンピックのピンバッジのひとつだった。東京オリンピックでは開会式で聖火台に点灯する栄誉に授かりながら競技では3回戦敗退に終わっていた大坂は、少し自虐的に「あまり長くいなられなかったからたくさん交換できなかった」ことを告げた。

　東京オリンピックは大坂にとって、5月30日に1試合だけプレーしたフレンチ・オープン以来の大会だった。フレンチ・オープン1回戦後に義務である記者会見をスキップした大坂は1万5000ドルの罰金を科され、さらにメディアを避け続ければ出場停止処分を受けることもあり得るとグランドスラム大会責任者から警告された。その翌日に大坂はメンタルヘルスの問題に対処するための休息が必要と判断して大会を棄権し、過去にうつ状態に陥っていたことを打ち明けた。彼女はその後、ウインブルドンも欠場した。

　明らかに内省的で思慮深い23歳の大坂は、自分の心に秘めた考えを他の人々と分かち合うことにだんだんと慣れつつある人物だ。日曜日に自身のSNSを更新して自尊心についての考え方を投稿した大坂は、その中で「自分自身と自分の成果についてもっと褒めてあげようとするつもりです。皆がそうすべきだと思います」「他人の期待で自分自身に重圧をかけることはもうできません」などと綴った。

　月曜日に彼女はいつものように1回戦に付きまとう緊張を感じながらセンターコートに足を踏み入れたが、それは勝たなければならないというプレッシャーとは違う感覚だったと試合後に明かした。

　それは勝ちたいというよりも、特にスタンドを埋め尽くす騒々しくて目が肥えたファンたちのためにいいプレーをしたいという願望に基づいたものだった。

「私は人々に、自分は完璧主義者なのだと言っています。私にとって完璧とは言えないものは、素晴らしいものかもしれませんが失望の対象となります。それは健全な考え方ではないので、本当に変えたいと思っていました」と大坂は語った。

「この大会で私は、とにかく自分がベストを尽くしたことを自覚できることに満足したいです。例え完璧なプレーができなくても、2セットで勝てたことを喜べればいい。それは人生でも同じです。私は人生を通してこの考え方を維持して前に進んでいけるよう願っています」

　グランドスラム大会で1勝11敗のブーズコバとの試合で、彼女は完璧ではなかったかもしれない。試合の序盤は拮抗し、大坂は第1セット4-4から最後の9ゲームのうち8ゲームを取って勝利を掴んだのだった。

　時速193kmに達したサービスに助けられた大坂は直面した8本のブレークポイントをすべてセーブし、ウィナー数は34対10と相手を大きく上回った。

「観客がいなかった昨年は、かなり孤独だと感じました。観客の中に小さな子供を目にすることができてうれしいです。もちろん大人の皆さんも同じです」と彼女は試合後のオンコートインタビューで微笑みを浮かべながら話した。

　この勝利で大坂は、USオープンでの22勝3敗を含めてグランドスラム大会での戦績を55勝14敗とした。彼女は今年、USオープンで連覇を果たした2014年のセレナ・ウイリアムズ（アメリカ）以来の女子選手になることを目指している。

　混沌とした2018年決勝でセレナを倒してグランドスラム初優勝を飾った大坂は、ニューヨークで昨年追加したタイトル以外にも2019年と21年のオーストラリアン・オープンを制している。

「私はこのコートで多くの試合をプレーしました。間違いなくここは、私にとって居心地のいい場所です」と大坂はアーサー・アッシュ・スタジアムの観客たちに向かって言った。

　大坂は2回戦で、ワイルドカード（主催者推薦枠）を得て参戦したアリシア・パークス（アメリカ）を6-3 7-5で破って勝ち上がった予選勝者のオルガ・ダニロビッチ（セルビア）と対戦する。（APライター◎ハワード・フェンドリック／構成◎テニスマガジン）