メドベージェフとオジェ アリアシムを分けた小さな何か [オーストラリアン・オープン]
今年最初のグランドスラム大会「オーストラリアン・オープン」(オーストラリア・ビクトリア州メルボルン/本戦1月27~30日/ハードコート)の男子シングルス準々決勝で第4シードのステファノス・チチパス(ギリシャ)が第11シードのヤニク・シナー(イタリア)を6-3 6-4 6-2で退け、昨年に続いてベスト4に進出した。
試合後にチチパスはグランドスラム大会で何度か準決勝に進み決勝も経験したことから得た学びについて尋ねられ、「そういった試合の経験は助けになる。このような雰囲気の中でタイトルを獲ろうと戦った経験はね。僕がそこから学んだのは、一貫性が必要だということ、常に謙虚さを保たなければいけないということ。いま僕は準決勝に至ったけど、それは始まりに過ぎない」と答えた。
20歳のシナーと23歳のチチパスという若手同士の試合だったが、グランドスラム大会の終盤まで勝ち残った経験という意味でチチパスは少し余計に鍛えられていた。昨年のフレンチ・オープン決勝でノバク・ジョコビッチ(セルビア)に対して2セットを先取しながら巻き返され、最終的に敗れた経験がチチパスにこの教訓を与えたに違いない。
「いいプレーをしているときには、自分が無敵であるように考えてしまうものだ。でも地に足をつけ、やってのけたいことを達成する瞬間まで努力し奮闘し続けなければならないんだよ」とチチパスは語った。
そしてそれはそのあと行われたこの日2つ目の準々決勝、恐らくここまでの大会ベストマッチだったダニール・メドベージェフ(ロシア)とフェリックス・オジェ アリアシム(カナダ)の試合にも当てはまることだった。
この試合で第9シードのオジェ アリアシムは最初の2セットを取り、メドベージェフのサービスが幾分よくなり始めていた第3セットでも勢力図はまだ変わっていなかった。しかしここで、既に2度グランドスラム大会決勝で敗れたあと優勝していたメドベージェフの経験が、そのまま負けないための何かを作動させたのだった。
「僕はいいプレーをしておらず、フェリックスは素晴らしかった。圧倒され、どうしたらいいのかわからなかったけど、僕は――『ノバクだったらどうするか?』と考えたんだ。ノバクや或いはロジャー、ラファはこういった(苦しい)試合に何度となく勝ってきた」と第2シードのメドベージェフは試合後に振り返った。
「僕はただ、『よし、とにかく相手を苦労させてやろう』と思った。もし彼が勝ちたいなら、彼は最後のポイントまで戦わなければならない。それがうまくいった。僕は特に第3セットのタイブレークで、自分のプレーレベルを上げることができた」
しかしオジェ アリアシムも最後まで崩れなかった。ラファエル・ナダル(スペイン)にフルセットで敗れた同胞のデニス・シャポバロフ(カナダ)は最終セットで勢いを落としたが、彼は3-5となってからも気迫で負けるどころかアグレッシブな姿勢を強めて最後まで相手にプレッシャーをかけた。最終的な6-7(4) 3-6 7-6(2) 7-5 6-4というスコアが示す通り、本当に勝利の直ぐ近くにまで迫っていたのだ。勝負を分けたのは、本当にわずかな経験の差…。そんな印象を与えた。
スポーツ専門放送局『ユーロスポーツ』でこの試合の解説をした元世界ランク1位のジュスティーヌ・エナン(ベルギー)も、「オジェ アリアシムにはゲームプランがあり確信を持ってプレーしており、今回は本当に(勝利に)近かった」と考えていた。
メドベージェフは第4セット4-5から一度マッチポイントをセーブしていたが、エナンの意見ではオジェ アリアシムの負けを引き起こした瞬間はそこではなく第3セットにあった。
「彼の敗因は恐らく、第3セットでブレークポイントをものにし損ねたことだったと思う。彼はまずいプレーはしていなかったけど、試合のその他の場面と比べてあそこではほんの少し勇気が足りなかった。やや安全にプレーしてしまった」とエナンは分析した。
とはいえ追い詰められた最終セット終盤には気迫のこもったプレーを見せ、最後まで戦ったオジェ アリアシムは「僕は胸を張ってオーストラリアから去るよ。そして僕には世界最高峰の選手たちと互角に戦うことができるのだと知りつつ、これからのシーズンに臨むつもりだ」と前向きなコメントを残した。
「僕はずっと、自分には今夜やったようなプレーを生み出すことができると信じていた。僕はそれを示して見せた。でももちろん、自分の中にこのような力があると知っていることと、それを実際に発揮して勝利まであと1ポイントまで迫ることの間には違いがある」
この日勝負を分けたものは何かと聞かれ、「彼は僕よりも少し余計にしぶとく、ときに僕よりも少し余計に堅固だった」とオジェ アリアシムは返答した。
「彼が今いる位置にいるのは驚きじゃない。彼は戦い、解決策を見つける。必要な瞬間にいいプレーをする。それが大きな違いだ」
しかしこの経験は、オジェ アリアシムはの未来にとって貴重な布石となるだろう。
「もう一度このような状況に身を置けるときを楽しみにしているよ。(次は)一線を超えられると信じている」とオジェ アリアシムは前を向いた。
「僕はこの経験をポジティブに受け止めたい。もちろん勝ちたかったけどね。プレーするたびに勝ちたいよ。最後に負けるのは辛いけど、それが人生だ。ただ受け入れなければならないのさ」
写真◎Getty Images
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