「ビッグ3を追い越す選手の出現を期待していた人たちは、実際には追い抜くことを望まなかった」準優勝の失望を語ったメドベージェフ [オーストラリアン・オープン]

オーストラリアン・オープン決勝でラファエル・ナダル(スペイン)に敗れたダニール・メドベージェフ(ロシア)(Getty Images)


 今年最初のグランドスラム大会「オーストラリアン・オープン」(オーストラリア・ビクトリア州メルボルン/本戦1月27~30日/ハードコート)の男子シングルス決勝で第6シードのラファエル・ナダル(スペイン)に6-2 7-6(5) 4-6 4-6 5-7で敗れた第2シードのダニール・メドベージェフ(ロシア)が、試合後の記者会見で語った。

「少しコーチと試合を振り返った。でも、今回の会見は少し違ったものになる。短くしたい。テニスで大きな夢を抱いた少年の話だ。6歳でラケットを手にしたときから、時間があっという間に過ぎた。12歳では練習してロシアの大会に出場した頃にテレビでグランドスラム大会を観て、ビッグスターがプレーしてファンが応援する姿を見た。そこに立つことを夢見たものだ。そこからヨーロッパの大会にも出るようになった。ユースオリンピックにも出場した。ユースオリンピックフェスティバルとかいう名前だったと思う。決勝にいけて最高だった。センターコートのようなものがあった。トルコだった。観客は2000人くらいかな。そこにいるのは最高の体験だった。そのような大きな舞台で戦う瞬間を夢見るものだ」

「それからすべてのジュニアにとって目標になるのがジュニアグランドスラム。そこではプロを間近で見ることができる。USオープンでは同じレストランで食事ができる。こういう小さいことさ。自分のことを知らない人でもジュニアの選手たちを応援してくれる人がいる。ありがたいことだ。そういうときこそ、世界最高の選手たちとグランドスラム大会で戦いたいと思う。僕はいつかのUSオープンでジョン・イズナー(アメリカ)とすれ違ったのを憶えている。テレビで観るより実物のほうがはるかに大きかった。凄くいい思い出だ」


2014年のフレンチ・オープンジュニアに出場したダニール・メドベージェフ(ロシア)(Getty Images)

「そのあとは多くのフューチャー大会、チャレンジャー大会に出て、徐々に上に上り詰めていく。そしてツアー最高峰の大会に出られるようになる。この少年はキャリアの中で、これらの大きなことを夢見続けるべきかどうか、何度も迷っていた。一度はフレンチ・オープンで2度、非常に厳しい敗戦があったときだ。僕はフランス語が話せる。その時点では、同年齢の中ではトップ5に入っていたと思う。悪くない成績だ。僕の年代は強い選手が多く、そのときは現在トップ100にいるバンジャミン・バンジャマン・ボンジ(フランス)と対戦した。一人のロシア人記者が部屋にいた。いや、本当にグランドスラム大会にいるんだなと実感した。トップ50に近づいている頃で、驚いた。5分くらい彼と話したんだ。記者と話すのは好きなんだ」

「2019年のフレンチ・オープンではピエール ユーグ・エルベ―ル(フランス)に2セットアップから逆転された苦い敗北がある。でもいい試合だったし、彼は素晴らしかった。僕もああいう試合が好きだし、テニスをプレーしている意味がそこにある。トップ10入りできるかどうかのところだった。同年代では3番目くらいかな。アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)と少し年上だけどドミニク・ティーム(オーストリア)が上にいたから」

「その敗戦後の記者会見だった。僕はファンやいろんなことにイライラしていた。短く終わらせたいから、二言くらいしか答えなかった。でも、見てわかる通り、君らと話すのは好きなんだ。イタリア人の記者に質問されて二言答えて終わりだった。ロシア人記者にも少し聞かれた。そのときも、大きな夢を諦めようかと迷っていた」

「うまく説明できないけど、この決勝戦で今後もテニスを続けるのだなと思った。ここでは記者についてではなく、小さな少年が大きな夢を見ることをやめようと思った瞬間のことを話している。この決勝戦はそのうちのひとつになった。何故かは言えない」

「今後、僕は自分のため、家族のため、僕を信頼してくれる人のため、もちろんロシア人のためにプレーする。彼らはたくさん応援してくれるからね。今後、フレンチ・オープンやウインブルドンの前にモスクワのハードコートでの大会があるなら、そちらを優先する。グランドスラムを逃したとしてもね。小さな少年は夢見るのをやめた。自分のためにプレーすることを決断した。以上。それが僕のお話だ。聞いてくれてありがとう」

「テニスでも、何でもいいから質問を受け付けるよ。でも、今話した物語については、答えない」

明らかに落胆しているようだが、今はどんな気持ち? 数日後にはここで達成したことに感謝すると思うんだが。

「テニスの面ではそこまで落胆していない。物凄い試合だったからね。細かいポイント、ディテールを見ると、勝つために自分がもっとうまくやれることもあった。でもそれがテニス、それが人生だ。ラファは信じられないようなプレーを見せた。レベルを上げた。2セットアップで、“もっと攻めていけ、もっといけ!”と自分に言い聞かせた。第5セットでは彼を走らせていた。それでも彼は信じられない粘りを見せた。4時間が経過しているのに、本当に強く、そのプレーには驚いた。でももちろん、ラファが粘り強いのは誰もが知っている。彼は6ヵ月間プレーしていなかった。練習も十分できなかったと試合後に教えてくれた。信じられないよ」

「プレー面ではあまり後悔はない。今後も自分のベストを尽くすだけだ。いつか、このような偉大な大会でチャンピオンになれるよう、今後もさらに努力するつもりだ。繰り返すが、敗戦や自分のテニスには失望していないよ」

観客にやられた?

「物語については話さないよ」

コートに出てきたらブーイングが聞こえたはずだ。

「もうひとつだけ、例を上げよう。ラファがサービスを打つ前、第5セットで誰かが“カモン、ダニール!”と叫んだんだ。僕も驚いたよ。1000人くらいがシューっと言っていた。僕のサービスの前は何も聞こえなかった。残念だ。敬意を欠いているし、残念だ。30年後もテニスをプレーしたいと思うかわからないよ」

「自分の周囲の人々次第だ。彼らが何と言うのか、この旅路をともにどのように進んでいくのか。この決勝のあとには、夢見ていた少年はもう自分の中にはいなくなった。このようなときにテニスを続けるのはとても困難だ」

第3セットで3つのグレーくポイントがあり、勝利目前だったが、そこからどう気持ちとプレーが変わったのだろうか?

「3つのブレークポイントがあったときは、凄くいいチャンスだった。3つのポイントの詳細は憶えていないけど、3つともリターンを返せたはずだ。タイトなポイントだったが、それがテニス。もっといいプレーができたはずだ。ウィナーを打てたはずだ。試合も勝てたはずだった。戦術的には何も変えなかった。正しいプレーをしていると思っていた。でもラファがレベルを上げてきた。フィジカル面で少し不安定だったから、そこでは彼に負けていたと思う。第3セットから、自分の体重が後ろにかかっているポイントが何度かあった。そういうとき、ラファが主導権を握るんだ。もっと練習しないといけない」

今、どんなことを感じているのか? 少年の話は以前から感じていたのか、それとも今夜出てきたものなのだろうか?

「自分のキャリアの中で順応できたときもあった。少し話し忘れたエピソードがあったよ。トップ20、30に入れるようになり、ロジャー・フェデラー(スイス)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)やラファと対戦できるようになった。タフな試合が何度かあった。まだ彼らを追い抜いていない。たくさんの議論があった。正しい内容ではなかったと思う。若い世代が追い越さなきゃいけないと言われ、若い世代がもっともっと強くなって欲しいという話もあった。僕もやってやろうと思った。彼らを追い込めるように頑張ってみようとね。でも、この人たちは嘘をついていたと思う。彼らとのビッグマッチでコートに立つとき、いつも僕が勝って欲しいと願っている人は少なかった」

では今夜だけのことじゃない?

「そうだね。ずっと続いていたものだ。この決勝戦は何と言うか、その山のてっぺんのようなもの」

これは国籍の問題なのか、君のほうが若く、彼らほど世に知られていないからだと思う?

「国籍はあると思う。ロシアテニスは一時期落ち込んでいた。でも今はかなり盛り上がってきている。僕の他にもアンドレイ・ルブレフ、カレン・ハチャノフ、アスラン・カラツェフが大きなことを成し遂げている。素晴らしいことだ。もっと応援してもらえるように努力したい。でも、自分以外の国同士の選手が対戦しているとき、当然ロシアではないほうを応援する人がかなり多いと思う」

フェリックス・オジェ アリアシム(カナダ)を相手に2セットダウンのとき、ノバクならどうするか考えたと言っていた。今日、ラファが2セットダウンから盛り返したのを見て、どこから何を学びたい?

「ラファはレフティーだ。もし次に自分が2セットダウンになったら、“ラファが自分との対戦でしたようにやればいいんだ!”と自分に言い聞かせるだろうね。彼が今日見せたプレーを“ファイト”と言う言葉で片付けたくない。ラファがファイトするのは誰でも知っている。突然ラファがグランドスラム決勝でファイトし始めたと言っても誰も驚かない。彼がすべてのセットを通してプレーを構築してきたのは、新たな歴史を作るため。彼が意識しないようにしても、頭のどこかには必ずあったはずだ。とてもリスペクトしている。僕はベストを尽くしたから、そんな自分を倒したことをリスペクトしている。僕は全力を尽くした。皆、ありがとう」

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写真◎Getty Images

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