「夜中1時から午前9時まで尋問された」オーストラリアで拘束時のことを明かすジョコビッチ

セルビアのベオグラードの建物に描かれた(左から)ジョコビッチの最初のコーチであるエレナ・ゲンチッチ、ジョコビッチ、ジョコビッチの祖父ウラジミール・ジョコビッチ(Getty Images)


 オーストラリアン・オープンへの出場が叶わず、セルビアへ強制送還されたノバク・ジョコビッチ(セルビア)が沈黙を破った。セルビアの首都ベオグラードにある『ノバク・テニスセンター』でBBCのインタビューに応じ、オーストラリアでホテルに拘束されていた時期に大会コートで練習したこと、家族と決勝戦を観戦したときのことを語った。

君に同情する訳ではないが、オーストラリアでホテルに拘束されたのはいい心地がしなかったはずだ。実際どんなものだった?

「当然、心地よくはなかった。だが、ここに座ってあの拘置所についての不平を言いたくはない。僕は7日間くらい滞在したけど、何年もあそこに閉じ込められている人もいる。メルボルンの拘置所にいる人たちが経験していることを考えると、僕の心は激しく揺れてしまう。僕の苦労など、これらの人々に比べたら何でもないことだ」

無力に感じた?

「ああ、無力に感じた。到着後は3~4時間携帯の使用を禁止された。夜中1時から朝9時頃まで30分ごとに尋問を受け、寝られなかった。最初の公判が行われるまで4~5日滞在した。いい結果を待ち望んでいた。ビザは再度有効とされ、4日間は自由になって練習することができた。でも、グランドスラム大会で普段やっているような練習とは程遠いものだった。ロッド・レーバー・アリーナで行われたすべての練習で上空にはヘリコプターが飛び、あらゆるところにカメラが構えられ、レンズが僕や仲間たちに向けられていた。物凄く傷ついたよ。テニスコートやその周辺で僕らに向けられた視線、エネルギーが物凄く感じられたからだ。メディアで報じられていることから、彼らがどんな目で僕のことを見ていたのかはわかっていた。でもオーストラリアの裁判所の決断、オーストラリアン・オープンの邪魔をしたくなかったから、メディアの前に出て自分の意見を発信しなかった。本当は皆の前に出て状況を説明したかったんだ。僕は人々との関係をとても大切にしている。特に今後何年もの間、関係のある人たち、選手、自分の家族よりも頻繁に顔を合わせる人たちとは話したかった。その頃の気持ちは凄く心地悪く、苦しかった」

新型コロナウイルス(COVID-19)のワクチンが自分の体にどんな影響を及ぼすか、透明さが足りないと言った。もしワクチンについての新たな情報が出て、君が嫌がっているような悪い影響が体にないことが判明したら、自分の今の考えを変えることはある?

「先々に変化する可能性は常にある。今はツアーを回らないことに決めているが、状況が変わることを望んでいるし、そのときのために自分の考えは常にオープンにしておくつもりだ。今後何が起こるか見てみよう」

長いスパンで見て、ツアーを回るための国際的なルールが変わり、大会にも出場できるようになることを願っている? 

「強くそう願っている。僕は本当にテニスがしたいんだ。僕はプロのテニス選手なんだ」

だが、君はフレンチ・オープンを欠場する。それが君が払う代償なのか?

「ああ、その代償を払うつもりだ。でも、状況が変わることを祈っている。それと同時にあと何年もプレーを続けられることを願っている。だからこそ、体のケアは何よりも重要なことと捉えてきた。それが長くプレーを続けられることに繋がるんだ。テニスに対する情熱や炎が燃え続ける限り、体をしっかりケアしておけば今欠場している大会にもたくさん出られるようになると信じている」

ということは、ウインブルドンも欠場するという代償も払う?

「そういうことだ」

ではグランドスラム最多優勝回数を更新して、数字上で史上最高のテニス選手になるチャレンジは今後も続けるつもり?

「ああ。そうするつもりだ」

何故だ? 何故なんだ、ノバク?

「何故なら、自分の体にとっての良し悪しをきちんと判断することは、どんなタイトルよりも重要なことだ。どんなことよりも重要なんだ」

君がこれまで達成したことを見て、多くの人が尊敬の眼差しを向けている。そしてまだ34歳で今後も多くの大会でプレーする機会があるだろう。でも、他の人たちを見てみなよ。多くの人がワクチンを接種した。3回接種しても痛くない、後遺症がない。でも、ここにはグランドスラム大会で30回優勝できる力があるのに、21、22、23回程度で終わってしまう可能性のある選手がいる。“選ぶ権利”があることを物凄く重要視するがためにだ。多くの人はこの考え方を理解し難い。

「自分では本当に理解しているし、この考えを尊重している。僕の考えを理解できない人がいたとししても、少なくとも尊重はして欲しい」

 君は通常はグランドスラム決勝の舞台に立つことが多いから、オーストラリアン・オープン決勝でラファエル・ナダル(スペイン)とダニール・メドベージェフ(ロシア)が対戦している姿を不思議な感覚だったのではないか? テレビで実際に観たのか?

「試合を観たくなかったんだ。そのコートに立ちたかったし、観るのが辛かった。本当にそこに立ちたかったから、どちらかを応援する気持ちにもなれなかった。でも、面白いことが起きたんだ。妻はメドベージェフを応援して、子供たちがナダルを応援していた。ラファがポイントを取るたびに、息子のステファンが飛び上がってガッツポーズをするんだ」

君がナダルと対戦していれば、彼は君を応援してくれるんだよね?

 「わからないけど、そうなることを願っているよ! でも数日前、彼を寝かしつけているときに言われたんだ。“次にお父さんが出場する大会でラファも出場するのは、いつになるの?”とね。答えに困って、“まだわからないけど、早くそうなればいいね”と答えたんだ。それで、何故そんなことを聞くのか聞いてみた。すると“ラファと一緒に写真を撮りたいんだ!”と言っていたよ。間違いなく、その場は用意してあげないとね」

君は今34歳でこれから先、テニスのキャリアも長いし人生も長く続く。どんなことを目指していく?

「自分のキャリアで残してきた成績に加えて、これからも記録を作って記録を打ち破りたい。でも、一番大事なことはそれじゃない。僕がテニスを続ける理由は、自分の中にいる子供との繋がりを感じているからだ。4歳の少年で初めてラケットを握り、“テニスが大好きだ! 1日中プレーし続けたい!”と言った子供だ。自分が選手、コーチ、指導者となった今でも、セルビアに戻ったときは自分のテニスセンターでほとんどの時間を費やしている。いつも年齢の異なるジュニアたちを指導しているんだ。そこで僕はいつでも質問をされても答えるようにしている。何でも知っている訳ではないから、質問することは重要なんだ。強さとモティベーションを正しい人物、つまり僕から受け取ることは重要だ。それはつまり、テニスに対する愛情と情熱だ。そこから生まれるエネルギーは、今後オンコートやオフコートでの困難を乗り越える力になるはずだからね」

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写真◎Getty Images

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