シングルスの引退試合を戦ったツォンガ「これ以上のものは望めない」 [フレンチ・オープン]
今年2つ目のグランドスラム大会「フレンチ・オープン」(フランス・パリ/本戦5月22日~6月5日/クレーコート)の男子シングルス1回戦で、このロラン・ギャロスを最後に引退することを決めていた37歳のジョーウィルフリード・ツォンガ(フランス)が悲しくも感動的な試合でそのキャリアを閉じた。
第8シードのキャスパー・ルード(ノルウェー)と対戦したツォンガは7-6(6) 6-7(4) 2-6 6-7(0)で最終的に敗れたが、第4セット5-5からブレークして6-5とリードしたときには勝負をファイナルセットに持ち込むかに見えていた。
しかし正にそのゲームの終わりに肩を押さえるような仕草を見せたツォンガは、続く自分のサービスゲームでもはやまともにサーブを打つことすらできなくなった。泣きながら緩いサービスを入れ、アンダーサーブまで試してそのゲームを落としたツォンガはタイブレーク前にトレーナーを呼びはしたが、もはや自分の運命を悟ったかのように涙ぐんでいた。
「キャリアをコートの上で終えたかった」という想いから棄権はせずプレーを続けたツォンガが、ある場面で右腕を上げることができずラケットを左手に持ち替えて返球したことから見ても、肩の状態がいかに酷かったかが伺える。
第4セット6-5までの、破壊的ストロークでルードを苦しめウィナーをもぎ取ったツォンガの姿はもうなく、彼はタイブレークで1ポイントも取れず試合を終えるとネットに歩み寄った。
長くケガに苦しめられ、「意欲は手つかずだ。ただ悲しいことに、身体がついてこない」と話していたツォンガの引退理由を映すような結末だった。躍動的な、観ていてワクワクするテニスは変わらずそこにある。しかし、体が彼にプレーし続けることを許さなかった。
試合を通して母国の観客の熱狂的な声援に後押しされ続けたあと、試合後の記者会見で試合の終わりにスタンディングオベーションを受けたとき何を感じたかと尋ねられたツォンガは、「この上なく大きな感動だ。試合を通してずっとそうだった。今日の観客たちは、信じられないようなやり方で僕を応援してくれた。彼らは僕に戦う理由を与えてくれた。凄く心を動かされたよ。この出来事は、一生僕の記憶に残り続けるだろう。ある意味で、僕は自分が望んでいたようにキャリアを終えたんだ」と答えた。
「長い道のりを通し、すべての瞬間がいい瞬間だった。悲しいときも、辛いときも含め、すべての瞬間が経験するに値した」とツォンガは感慨深げに振り返った。
2003年のUSオープン・ジュニアで優勝したツォンガは2004年に19歳でツアーにデビューし、2008年オーストラリアン・オープンで決勝に進出して世界を魅了した。彼は2012年に世界ランク自己最高となる5位に至り、2つのATPマスターズ1000タイトルを含めATPツアーで18勝を挙げた。そのエネルギー溢れるプレーは、多くの若者にインスピレーションを与えた。
彼はまた、アンディ・マレー(イギリス)とフアン マルティン・デル ポトロ(アルゼンチン)に並び、世界1位だったラファエル・ナダル(スペイン)、ロジャー・フェデラー(スイス)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)を倒したことがある3人の選手のひとりであり、グランドスラム大会で『ビッグ3』を倒したことがある3人の選手に含まれている。
肩のケガについて、「第4セット6-5としたゲームのブレークポイントで、本当に最後のフォアハンドを打ったときに痛めてしまった。自分のサービスゲームに向かったとき、もはや肩を上げることができないことに気付いたんだ」とツォンガは説明した。
ラブゲームでブレークしたその第11ゲームで、ツォンガはフォアハンドの逆クロスでゲームを締めくくっていた。
「フィジオを呼んだけれど、いずれにせよ、僕は“最後のポイントまでコートに残る”と自分に言った。持てる力をすべて出し尽くし、コートの上でキャリアを終えたかったからだ。僕はいけるところまでいったと思う」
対戦相手のルードは試合後にコート上で「厳しい試合だったが、まずはジョーについて話したい。貴方は僕にとって、そして他の多くのプレーヤーにとって、インスピレーションの源だった。思い出をありがとう」とツォンガに言葉を送った。
9歳のときにオーストラリアン・オープンでツォンガが決勝に至った試合を観たという23歳のルードはまた、「ジョーをテレビで観て育ち、多くのいい思い出がある。彼はコート内外で本当に素晴らしい人だった。彼はプレーヤーがこうあるべきといういいお手本だ」と言葉を続けた。
一方のツォンガはルードのような実力者を相手に最後の試合を戦えたことを喜び、「この試合にはすべてがあった。劇的なシナリオ、故障、非常に堅固な対戦相手――それらもまた、僕のキャリアの一部だった」と心境を語った。
「僕はキャリアを通し、素晴らしい選手たちと対戦してきた。トップ4(フェデラー、ナダル、ジョコビッチ、マレーの『ビッグ4』)はもちろん、デル ポトロやマリン・チリッチ(クロアチア)、スタン・ワウリンカ(スイス)など、皆が絶対に諦めない気骨のある選手たちだった。確かに僕は、今日、キャスパー・ルードと対戦したことをうれしく思っている。彼は成績に一貫性のある、非常に真剣な選手だ。僕にとって、自分の最後の試合で彼のような堅固な強豪選手を相手に戦えたというのは、正に僕が期待していた通りのことだった。僕は故障しようとしまいと、こんなふうにコートの上ですべてを出し尽くして終わりたかったんだ」
試合後にはコート上でとツォンガの送別セレモニーが行われ、歴代コーチや家族に加え、彼とともに『新四銃士』(元祖“四銃士”は1920年代から30年代に活躍したフランスのジャン・ボロトラ、ジャック・ブルニョン、アンリ・コシェ、ルネ・ラコステ)と呼ばれたリシャール・ガスケ(フランス)、ガエル・モンフィス(フランス)、ジル・シモン(フランス)、またデビスカップ代表のチームメイトであるピエール ユーグ・エルベール(フランス)とブノワ・ペール(フランス)も駆けつけて彼のキャリアを称え、幸多き前途を祈った。
選手としての生活でもっとも懐かしむだろうことは何かと聞かれたツォンガは、「このような大きなコートで沸き上がってくるアドレナリンだろう。1万5000人の人々が自分の名を呼ぶときのアドレナリンだ」と返答した。
「告白するけど、このところ体調はよくなかったから、今日起きたのは信じられないようなことだった。もう長いことこんな感覚は味わっていなかった。これは熱狂のおかげ、毎日僕を側で支えてくれた人々のおかげ、スタンドの観客たちのおかげだ。キャリアを通して体験した中でも、もっとも素晴らしい雰囲気のひとつだった。これ以上は要求できない。勝つことができたはずだったということを除けば、これよりいいシナリオは望めなかった。僕がなくなって寂しいと思うのは、この観客たちとの触れ合いだ」
写真◎Getty Images
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