【『ペア競技の復元力』発売前特別企画】中身チラ見せ6連載|連載4|戦術とは「相手に考えさせる行為」である



ペア競技の復元力 技術・戦術・メンタルを一本につなぐ、ダブルスの本質
朴 相俊  パク サンジュン 著(国際ソフトテニス指導者・プレーヤー・スポーツメンタル教育者)
※詳細プロフィールは最下部

ソフトテニスの緻密なペアリングから学ぶ、すべてのテニスプレーヤー必読の書

8月18日発売(全国の書店、ネット書店で予約受付中)
A5判並製 312頁
本体価格2000円+税
ベースボール・マガジン社刊


|連載4|
(書籍『ペア競技の復元力』172_175ページ掲載)

第3章 戦術とは「配球」ではなく「心理操作

なぜ「よい配球」をしているのに勝てないのか
Section❷戦術とは「相手に考えさせる行為」である

 戦術という言葉は、しばしば「配球の工夫」「決まりごと」「パターンプレー」として理解されがちである。しかし、競技の本質においては、戦術の正体はそれらではない。戦術とは、相手に考えさせる行為そのものである。逆に言えば、相手が考えずに処理できている限り、どれほど多彩な配球や動きを用いても、それは戦術として機能していない。

■ 相手の思考に負荷をかける

 試合を優位に進めているプレーヤーを観察すると、必ずしもショットの威力や技術量が突出しているわけではない。それでも主導権を握っているプレーヤーには共通点がある。

・相手が一瞬迷う ・相手の判断が遅れる
・相手の準備が間に合わない
・相手が「どこにボールが来るかわからない」状態に置かれている

 つまり、相手は考えさせられている状態にある。戦術とは、自分がうまくやることではなく、相手の思考に負荷をかけることなのである。

 競技においては重要な原則があって、人は考えた瞬間に遅れるということだ。判断が必要な状態に置かれたプレーヤーは、必ず反応速度が落ち、動作の精度も下がる。逆に、考えなくてよい状況にいるプレーヤーは、反応が早く、動きも安定する。

 すなわち戦術とは、相手を考えなくていい状態から引きずり出し、考えざるを得ない状態に押し込む行為である。

■ 戦術が機能している状態とは何か

 戦術が機能している試合では、次のような現象が起こる。

・相手の構えが遅れる
・相手前衛が中途半端な位置に立つ
・相手後衛が一瞬、判断を止める
・ペア間の声が減る、または増える

 これらはすべて、相手の思考が乱れているサインだ。重要なのは、必ずしもこちらがポイントを取っていなくても、この状態がつくれていれば戦術は成功しているということだ。

■ よい戦術ほど「静か」である

 ここで誤解してはいけないのが、相手に考えさせるとは、複雑な配球や奇抜なプレーをすることではない。むしろ逆である。「同じ配球が続くのか、変わるのか」「次も来るのか、来ないのか」「前衛が出るのか、出ないのか」など、「わからなさ」を残すことがもっとも強い戦術になる。戦術とは、相手に「確信を持たせない」設計である。

 すぐれた戦術ほど派手さはない。「ミスが減る」「相手の攻撃が弱くなる」「ラリーがこちらのリズムになる」というように、試合が静かにこちらへ傾いてくる。それは、相手が常に考えさせられ、思い切った判断ができなくなっているからである。

■ 指導において見直すべき視点

 指導現場では、「どこに打つか」「どう動くか」が先に教えられることが多い。しかし本来、先に教えるべきは次の問いであり、この問いを持たない限り、戦術は配球の暗記に堕してしまう。

・その一打で、相手に何を考えさせたいのか
・どの判断を迷わせたいのか
・誰の役割を曖昧にしたいのか

■ 戦術とは「相手の思考を奪う行為」

 戦術のゴールは明確で、相手が「自分で決めた」と思えなくなる状態をつくること。考え続け、迷い続け、結果として消耗していく。この状態を生み出すことが戦術の本質である。

 戦術とはボールを操る技術ではなく、相手の思考と判断を操る行為。相手が考えている間、こちらは一歩先を進んでいる。その差が試合を分ける。

イラスト◎サキ大地



著者プロフィール
朴相俊

パク・サンジュン◎1975年、韓国生まれ。小学校から高校までエリートコース(スポーツ強化)でソフトテニス競技に参加し、韓国ジュニア代表としてプレー。1995年、20歳で競技を離れた。大学3年時に休学して兵役に就き、任務を終えたのち1998年に来日。2010年に東京大学大学院教育学研究科身体教育学コースで修士・博士課程を経て、現在は長野県にある佐久大学で基盤教育を行い、並行して国内外のソフトテニス振興・普及活動を行っている。教育学修士、環境共生学博士、日本自殺予防学会編集委員、信州公衆衛生学会理事、日本認知・行動療法学会認定行動療法士。2010年からプレーを再開しており、全日本クラブ選手権や関東オープン(35歳の部)、全日本社会人ソフトテニス選手権(45歳の部)、東日本ソフトテニス選手権(45歳の部)などで優勝。指導者としては、韓国代表も含め、国内の大学・高校チームのメンタルサポート、自ら立ち上げたソフトテニスの地域クラブ「PSJクラブアカデミー(小中学生対象)」代表兼コーチ、実業団「ウェル・トレード・プロワカ」チーム監督。さらに、ソフトテニス普及活動を目的とした「一般社団法人World Challenge Project」を立ち上げ、普及活動家兼指導者として、指導者を対象にソフトテニス技術指導、スポーツメンタル教育、チームビルディング指導のほか、JSPO資格のコーチ講師を務める。国際ソフトテニス連盟ランキング委員会副委員長、日本ソフトテニス連盟特別委員会委員などの活動もある。
Instagram @seagullpark_2028


試合で崩れても残る技術がある。
判断を誤っても立て直せる思考がある。
不安になってもやり直せるメンタルがある。
それらは才能でもなければ、偶然でもない。
試合は設計できるものであり、指導できるものだ。


ペア競技の復元力(朴相俊 著)
818日発売
A5判並製 312頁
本体価格2000円+税

目次
はじめに
第1章 技術は「正しさ」より「再現性」で考える
第2章 前衛・後衛の役割は「配置」ではなく「判断」
第3章 戦術とは「配球」ではなく「心理操作」
第4章 試合を分けるのは「技術差」ではなく「認知の差」
第5章 メンタルは「才能」ではなく「設計」
第6章 ペア競技における信頼とズレのマネジメント
第7章 競技が止まった日、人生が再起動した
第8章 怪我を経験した指導者だから伝えられること 
―技術・戦術・メンタルを超えた「人を育てる視点」―
私の履歴書
おわりに



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Cover写真◎篠原秀典(日本体育大学ソフトテニス部監督/ソフトテニス全日本ナショナルチーム男子監督)

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