ケルバーが3度目のグランドスラム制覇、セレナは24度目タイトルならず [ウインブルドン]


 イギリス・ロンドンで開催されている「ウインブルドン」(7月2~15日/グラスコート)の女子シングルス決勝。

 このウインブルドン決勝でアンジェリック・ケルバー(ドイツ)は、舞台の背景や、そこに懸かっているものに圧倒されていなかった。彼女はセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)に対し、何を期待すべきか、何をすべきかを知っていたのだ。

 同じセンターコートで、タイトルを目前にしてセレナに敗れた2年後、ケルバーはやってのけた。

 試合を通して非常に安定し、非常に正確だったケルバーは、6-3 6-3の勝利により、オールイングランド・クラブで初の、合計3つ目のグランドスラム・タイトルを獲る過程で、今回はセレナにほとんどチャンスを与えなかった。

「経験がものを言ったのだと思う。よいことも、悪いことも、すべてのことを通り抜けなければならず、そこから学ぶ必要があるのよ」とケルバーは言った。彼女は1996年のシュテフィ・グラフ(ドイツ)以来となるドイツ人のウインブルドン優勝者となった。

「セレナに対しては、特に重要な瞬間に自分のベストテニスをしなければいけないとわかっている」とケルバーは言った。彼女は2016年にオーストラリアン・オープンとUSオープンで優勝したが、同じシーズンのウインブルドンでは、セレナに敗れ準優勝に甘んじていた。

「特に重要な瞬間にね」と彼女は強調した。

 まさしくそれが、彼女がやったことだった。

「アンジェリックは本当にいいプレーをしたわ」とセレナは言った。「彼女は並外れていいプレーをしていた」。

 ケルバーはこの試合を通し、わずか5本しかアンフォーストエラーをおかさなかった。これは、セレナより19本も少ない。おそらくより印象的なのは、次の数字だろう。彼女は、セレナの9度のサービスゲームのうち4度でブレークを果たしたのである。

 そうすることによってケルバーは、セレナがウインブルドンで8度目、そして実現していればマーガレット・コート(オーストラリア)が持つ記録と並ぶはずだった、グランドスラム大会での24番目のタイトルを獲ることを阻止したのだ。

 現状では、セレナはプロ化以降の半世紀で最高となる「23」のグランドスラム・タイトルを擁しており、これはケルバーのアイドルであるグラフの記録よりひとつ多い。

 セレナは10ヵ月半前に出産したばかりで、そのあとに血栓の治療を受けていた。彼女はカムバック後、4つ目の大会だったウインブルドンの間、用心のために、血流をよくする効果のある特別な圧縮レギンスを履いていた。

 妊娠、出産のためツアーから離れていた長い時間のあとだけに、セレナは決勝に至ったことについて、自分に感銘を受けたと話していた。

「すべての母たちへ。私は今日、あなた方のためにプレーした。そして私はトライした」と表彰式の際に36歳のセレナは言った。式の間、彼女の声は震えていた。

 ケルバーはコート上のインタビューの際に、セレナにこんな言葉を手向けた。

「あなたは私たち皆にとってのインスピレーションよ。あなたがまもなく次のグランドスラム・タイトルを獲ると私は確信している。本当に心からそう信じている」

 前夜から持ち越された男子準決勝――ノバク・ジョコビッチ(セルビア)が5セットを戦い、ラファエル・ナダル(スペイン)に勝った試合の終わりを待たなければならなかったため、女子決勝の開始は2時間以上遅れた。日曜日にジョコビッチはケビン・アンダーソン(南アフリカ)と対戦する。アンダーソンは、金曜日の夜に自身第5セット26-24という大接戦の末、ジョン・イズナー(アメリカ)に対する準決勝に勝っていた。

 グランドスラム大会で本当に多くの成功をおさめ、ケルバーに対して6勝2敗の戦績を誇っていたにも関わらず、セレナは出だしから厳しい戦いを強いられた。

 最初の2ポイントを取ったあと、セレナは4ポイント連続でミスをおかし、サービスをブレークされた。これは彼女が9ポイントのうち8ポイントを落としたネガティブな時間帯の一部だった。そしてセレナはその大部分で、自分自身の失敗の原因となっていた。この決勝の最初の6つのアンフォーストエラーをおかしたのは、彼女だったのである。第1セットが終わるときまでに両者のエラーの数は、セレナの14本に対してケルバーは3本と差を広げていた。

 こんなふうではケルバーのような資質を持った相手には機能しない。守備力の高い彼女からボールをかすめとろうとすることは、レンガの壁を通り抜けようと努めるのと同種のことなのだ。そこに穴はない。

 左利きのケルバーは、頻繁にセレナのウィナーになるかに見えていたが、ポイントを終わらせるには十分でなかったショットに追いつくために、予測力とスピードのコンビネーションを使い、ベースライン沿いをそこへ、ここへと忙しく動き回った。ときには膝が芝につくほど、非常に体を低くして、ボールを返し続けたのだ。

 そして彼女がラケットを振るとき、その目測はほぼ常に合っていた。ケルバーは単なるディフェンダーではない。彼女はここ数年の間に、自分のテニスによりアグレッシブな要素を加え、サービスを上達させるために努力を積んできた。

「まだ私たちはベストのアンジー(ケルバー)を見ていない、と私は信じている」と彼女のコーチのウィム・フィセットは言った。

「ディフェンスは彼女の能力のひとつだが、彼女は今、ディフェンスだけではグランドスラム大会で優勝できないと知っている。私の意見では、それは非常に重要なことだ」

 ケルバーは、一度だけサービスブレークを許した。そして第2セットでは、4-2とリードするために必要だった最後のブレークをつかむため、フォアハンドのダウン・ザ・ラインのウィナーを数本打ち込んだ。

 ケルバーは顔を覆い、仰向けに倒れて白いウェアを芝にまみれさせることで、マッチポイントを祝った。彼女は小さな子供だったときに、テレビでグラフを見ながら夢見ていた瞬間を大いに楽しんだ。

 セレナと抱擁したあと、彼女はスタンドに登ってコーチのフィセットと家族を抱きしめた。その少しあとに、ケルバーはシャンパンをすすり、オールイングランド・クラブのメンバーであることを意味する紫色の丸いバッジを受け取った。

 彼女はバッジを自分の白いTシャツにきっちりとつけ、記者会見のスタート時には誇らし気にそれをもてあそびながら笑った。

「ここで優勝するということは、永遠なのよ」とケルバーは言った。

「今や誰も私からこのタイトルを獲り去ることはできない」(C)AP(テニスマガジン)

※写真はウインブルドンで初優勝を飾ったアンジェリック・ケルバー(ドイツ)(撮影◎小山真司)

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