驚きの試合----ジョコビッチはたじろぎ、チェッキナートは空高く舞う [フレンチ・オープン]
どちらがよりありそうもないことか、見定めるのは難しかった。「フレンチ・オープン」(フランス・パリ/5月27日~6月10日/クレーコート)の男子シングルス準々決勝で、グランドスラム大会を12回制したノバク・ジョコビッチ(セルビア)が揺らいだのか、それとも、先週までグランドスラム大会で一勝も挙げたことがなく、一時は意図的に負けた疑いで活動停止処分の危機にもさらされていたマルコ・チェッキナート(イタリア)が、大舞台で秘めていた力を爆発させたのか。
いずれにせよ火曜日の結果は、ふたりの男たちの双方にとって、そして見る者みなにとっても驚くべきものだった。首と脚の問題に煩わされていた様子のジョコビッチは、2セットダウンから巻き返し、もう少しで勝負を第5セットに持ち込むところまでこぎつけたが、彼はいくつかのチャンスを無駄にしてしまい、その多くの熱いラリーとドラマに満ちた試合で、世界ランク72位のチェッキナートに3-6 6-7(4) 6-1 6-7(11)で敗れた。
「消化するのが難しい敗戦だ」と、短かった記者会見の際にジョコビッチは暗い表情で言った。その試合後の会見で、彼はぶっきら棒な答えを返し、来たるグラスコート・シーズンにプレーしないかもしれないと言いさえしたのだ。
チェッキナートはここ19年でもっともランキングの低いフレンチ・オープン準決勝進出者であり、グランドスラム大会でここまで勝ち進んだ40年ぶりのイタリア人選手だった。
「僕の人生で最良の瞬間だ」と25歳のチェッキナートは言った。
ジョコビッチが第4セット5-3から、自分のサービスを迎えたときーー「僕のロラン・ギャロスは終わろうとしている、と思った」とチェッキナートは振り返ったものだーーが、2016年フレンチ・オープン・チャンピオンは、そこでブレークされてしまう。その後、もつれ込んだタイブレークでジョコビッチは3つのセットポイントを握ったーー「幽霊を見たよ」とチェッキナートはジョークを言ったーーが、彼はそれをものにすることができなかった。
「残念だよ」とジョコビッチは言った。
ジョコビッチが握った3つのセットポイント。タイブレークの7-6でジョコビッチはバックハンドをアウトした。次の8-7はチェッキナートが20のショットを交わすラリーを、ドライブボレーのウィナーで締めくくった。最後の9-8では、ジョコビッチがフォアハンドをミスして、しゃがみ込み、祈るように手を合わせ、「このうち1本を僕にくれ!」と嘆願するかのように人差し指を上げた。
「特にタイブレークの終わりのほうで、僕はとても勇敢だった」とチェッキナートは言った。
「僕は冷静で、頭が明晰だった。心臓は時速1000kmで鼓動していたけどね。容易ではなかったよ。手は少し震えてさえいた」
チェッキナートは、4つ目のマッチポイントをものにした。ジョコビッチがサーブ&ボレーで驚かせようと前に出てくる中、彼はややループ状のバックハンドリターンをストレートに打ち、ショットはウィナーとなった。
チェッキナートはクレーコートの上に背中から倒れ、それからジョコビッチと挨拶を交わすと、サイドライン沿いの椅子に座って、頭を下げて泣いた。
コート上のインタビューで、夢を見ているわけではない、と言われたチェッキナートは、「それは確かかい?」と答えた。
チェッキナートが、クレーコート以外のサーフェスで、ツアーレベルの試合に勝ったことがないことを考えれば、そんなふうに思うのも無理はない。彼は(ツアー・レベルでの)キャリア通算成績4勝23敗で今年に入り、グランドスラム大会での成績0勝4敗で今大会に至っていた。
さらに、こんなこともあった。シチリア島出身の25歳は、2016年7月、その一年前にモロッコで行われたチャレンジャー大会で、わざと負けて八百長をした疑いでイタリアテニス協会から18ヵ月の出場停止処分と4万ユーロの罰金を言い渡されていたのだ。チェッキナートは上訴し、最終的にイタリア五輪委員会は、処罰が取り消した旨を発表していた。
彼はこの問題について、パリで話すことを拒否してきた。
金曜日にチェッキナートは準決勝を戦う。相手は第7シードのドミニク・ティーム(オーストリア)だ。
ティームは、第2シードのアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)を6-4 6-2 6-1で破り、3年連続の準決勝進出を決めた。スコアが見せるように、その戦いは、ジョコビッチ対チェッキナートほど白熱したものではなかった。それは部分的には、試合が始まって10分ほどでズベレフが左腿に痛みを訴えたからでもあるだろう。彼はトレーナーを呼んでテーピングを施してもらい、最後まで試合をした。
ズベレフは準々決勝に至るまでに、3つの5セットマッチを戦っていた。まだ21歳と若いとはいえ、彼の体は、またもカムバックをやってのけることはできなかったのだ。
「彼はツアーでもっとも体のコンディションのいい選手の一角だ」とティームは言った。「そして、そんな彼にとってさえ、3つの5セットマッチを戦うことは、やや過剰だったのかもしれない」。
チェッキナートの準決勝進出は、非常に予想しがたい結果だった。彼は1回戦で世界ランク94位のマリウス・コピル(ルーマニア)に対して最初の2セットを落とし、それから挽回して第5セットを10-8で制するという、長い道のりをたどってきたのだ。
「もう1ヵ月くらい前のことのように感じるよ」
記者会見で、イタリア語、スペイン語、英語で記者たちの質問に対応したチェッキナートは、笑いながらこう言った。
スムーズで美しい片手打ちバックハンドを打つ彼は、その後、第8シードのダビド・ゴファン(ベルギー)や第10シードのパブロ・カレーニョ ブスタ(スペイン)も倒し、この日、ジョコビッチをリストに加えた。
右肘の故障のため2017年後半を棒に振り、今年2月にマイナーな手術を受けたジョコビッチは、明らかに本調子ではなかった。実際、第20シードという彼のシード順位は、ここ約10年のすべてのグランドスラム大会でもっとも低いものだったのだ。
チェッキナートは、ジョコビッチについて「序盤、彼は自分に確信を持てていないように見えた。自信がない感じだったんだ」と言った。しかしながら、ジョコビッチはじりじりと調子を戻し、最後には、ポイントは非常に競り、緊迫し、中には30ショット続いたラリーもあった。ジョコビッチは実際、獲得ポイントの総数では、144対140で勝(まさ)っていたのだ。
しかしチェッキナートは、もっとも重要なポイント、最後のポイントを勝ち取った。
「僕は押さなければならなかった。リスクをおかさなければならなかった」とチェッキナートは言った。
「何故って、もし僕が、ただつなげるためにプレーしていたら、決してジョコビッチを倒すことはできなかったからだよ」(C)AP(テニスマガジン)
※写真はノバク・ジョコビッチ(セルビア)(撮影◎毛受亮介)
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