“マダム・セレナ”がグランドスラムでまず1勝 [フレンチ・オープン]
フランス・パリで開催されている「フレンチ・オープン」(5月27日~6月10日/クレーコート)の大会3日目、女子シングルス1回戦。
セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)が最後にグランドスラム大会に出場してからの16ヵ月の間に、多くのことが変わったが――彼女は今、結婚し、母になった――フレンチ・オープンでの彼女については馴染み深いこともたくさんあった。
例えば、今回は彼女に言わせれば、自分を戦士の女王と感じさせるように、赤いベルトの入った黒いボディスーツで表現したファッションによる主張。「カモン!」という叫び。13本のエースを提供したビッグサーブ。最終的に3連続のサービスブレークを生み出したリターン。
そしてもちろん、勝利。
娘のアレクシス・オリンピアを出産し、産後の体の問題に対処することを強いられたわずか9ヵ月後に、グランドスラム大会で初めて母として戦ったセレナは、世界ランク70位のクリスティーナ・プリスコバ(チェコ)を7-6(4) 6-4で破った。
すでに超越的なスポーツ界のスターであり、カルチャー的アイコンでもあるセレナは、今、働く母という新しい肩書きを擁している。
「私の優先事項はオリンピアよ。何が起ころうと娘が最優先だわ。私はテニスに多くを与えてきた。そして実際、テニスも私に多くを与えてくれた。感謝しても、し足りないけれど」とセレナは言った。
「でも今の私の優先事項は娘。すべて彼女を中心にして働いているの」
36歳のセレナは、2017年1月のオーストラリアン・オープンで23度目のグランドスラム優勝を果たし、プロ化以降のメジャー・タイトル獲得数でシュテフィ・グラフ(ドイツ)の記録を破って以来、グランドスラム大会でプレーしていなかった。
皆はあとで、彼女がそのときすでに妊娠していたことを知った。彼女の子供は9月に生まれ、セレナはオリンピアの父親であるレディット(Reddit)の創設者のひとり、アレクシス・オハニアンと11月に結婚した。
セレナはのちに、緊急の帝王切開を行い、そのあとに肺の塞栓症のために呼吸困難に陥り、さらなる手術を受けなければならなかったと明かした。
「何度かにわたり、文字通り、乗り切れるかどうかわからない状況に置かれていたの」とセレナは言った。
「多くの人々が、自分たちも同じような経験をしたという理由から、連絡してきてくれた。人々は、そういったことをあまり話さないのだと感じたわ。皆、赤ちゃんについて、そしてどんなに幸せかについては話すけれど、実際には、妊娠と出産には多くのことがともない、だからこそそれは『奇跡』と呼ばれるのよ」
彼女のカムバック第一戦は、姉ビーナスと組んでダブルスに出場した、2月のフェドカップだった。その翌月、彼女は2つの大会でシングルスに出場し、戦績は2勝2敗。それから、火曜日のパリでの1回戦まで2ヵ月の空白があった。
そんなわけで、何百週も世界1位の座で過ごしてきた彼女が、現在は451位で、フレンチ・オープンではノーシードとなっている。
セレナは次の2回戦でアシュリー・バーティ(オーストラリア)と対戦する。
「彼女は生粋のチャンピオンよ」とバーティは言った。「戻ってくるために彼女がやったことは、かなり驚くべきことだわ」。
火曜日のセレナの“帰還”は、彼女のパワフルなショットからウェアまで、複数の理由から非常に目を惹いた。彼女のウェアは、2002年USオープンで彼女が身に着けた『キャットスーツ』を思い起こさせた。
ほかにも多くの元グランドスラム・チャンピオンたちがプレーしていたとはいえ、ロラン・ギャロスのDAY3(大会3日目)でもっとも重要なイベントだった。
ラファエル・ナダル(スペイン)は雨で中断されていた試合を勝利で終わらせて、11度目の優勝を目指す進撃を開始し、マリア・シャラポワ(ロシア)はフルセットの末に勝利をつかんだ。2016年決勝でセレナを倒したガルビネ・ムグルッサ(スペイン)は、もうひとりのフレンチ・オープン・チャンピオンであるスベトラーナ・クズネツォワ(ロシア)を退けた。
しかしすべての視線は、セレナに注がれていたと言っていい。5本目のポイントで、彼女は時速181kmのサービスエースを叩き込み、その少しあとに主審は、「ジュ(フランス語でゲーム)、マダム・ウイリアムズ」と唱えた。未婚の選手に使うマドモアゼルから、マダムに変えて。
2016年USオープンでセレナを倒したカロリーナ・プリスコバ(チェコ)の双子の姉であるクリスティーナは15本の、セレナより多くのサービスエースを決めている。WTAによれば、それは2008年以来、セレナを相手に決めたエース数として最多だという。
実際、試合の序盤には、セレナはプリスコバのサービスを読めずに苦労しているように見えた。また、このところプレーしていなかった選手からは予想されるように、もう一つの変化もあった。セレナは7度ダブルフォールトをおかし、ほとんどウィナーと同じくらいの数のアンフォーストエラーをおかしたのだ。ウィナーが29本だったのに対し、アンフォーストエラーは25本だった。
しかし、彼女はただ技術力が高かっただけでなく、賢くもあり、重要な瞬間に物事を見極めていた。タイブレークで0-3と劣勢に立たされたあと、6ポイントを連続で取った。第2セットで一時0-2とリードされながら、結局3度、相手のサービスをブレークした。
もちろん、すべてが完璧だったわけではない。セレナは、ネットに向けてダッシュしたときに右足を滑らせて、背中から倒れた。サイドラインへタオルを取りに行くときには、少なくとも彼女は笑うことができていたが、観客席からは、こんな叫びが聞こえた。
「大丈夫だ、セレナ。君は変わらず素晴らしく見えるよ!」
ドロップショットよりも、おむつに気持ちを割き、彼女が「ものすごく、すごく長い」と呼んだ授乳や、赤ちゃんの昼寝のスケジュールに合わせて練習スケジュールを決めた数ヵ月のあと、セレナは自分の名声を築いた源へと戻ってきた。彼女が、2002年、2013年、2015年にトロフィーを勝ち獲った場所に。
火曜日にセレナは、娘とより多くの時間を過ごせるようにと、かつてよりも早く記者会見場に現れた。
「彼女に、私がそばにいないと感じさせたくないの。私はこの上なく密に関与したい母親なのよ。たぶんちょっぴり過剰なほど」とセレナは言った。
レポーターたちは、セレナがふたたびタイトルを獲れると信じているかを知りたがった。
「私は間違いなく競うためにここに来ているのであり、言うまでもなく、今できる限りのベストを尽くすわ。私は、通常やるように自分にプレッシャーをかけるような真似はしないつもりよ」とセレナは言った。
それから、おそらく、と言いながら自分の言葉に問いを投げたのだろう。一瞬、間を置いたのちに、笑いながらこう付け足した。
「心の奥深いところでは。私たちは皆、その答えを知っているのだと思うわ」(C)AP(テニスマガジン)
※写真はセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)(撮影◎毛受亮介)
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