「“氷上の牛”になるな」スライディングはフレンチ・オープンでの成功のカギ
フレンチ・オープンのタイトルから10年が経った2019年にロジャー・フェデラー(スイス)が短い期間クレーコートに戻る前、彼の自信のレベルは低かった。「もはやどうやってスライディングするかさえ覚えていないんだ」とフェデラーは口にしていたのだ。
マリア・シャラポワ(ロシア)はパリで優勝杯を獲得するのに必要なフットワークをついに理解する前に、さび色のサーフェスは自分を“氷上の牛”のように見せるとジョークを言っていた。
そしてラファエル・ナダル(スペイン)がクレーコートでプレーするのを見たことがある者は誰であれ、他の者にとっては不可能なショットに追いつくため地面を滑る彼の能力を知っているだろう。それは彼の鞭打つようなフォアハンドや疲れ知らずの闘志と同じように、彼が12度もロラン・ギャロスで栄冠に輝いた大きな理由でもある。
新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックにより従来の5月から9月に延期されたフレンチ・オープンでよく見かける光景のひとつに、プレーヤーがスライディングすることによってできたクレー上の跡がある。このサーフェスでの大きな成功の秘密は、ボールを打てるポジションに至り、それから次のショットに向かうため迅速に方向を変えることを可能にするスライディングのスキルなのだ。
「クレーコートのテニスには辛抱強さを伴う攻撃性、戦術、フィジカル的強さの融合が必要とされる。もしこのサーフェスでのナダルのように天性の動きのよさを持っているなら、それほど気にする必要はないかもしれない。でもそうでなかったなら…それは足場がしっかりしたハードコートでのプレーで選手が慣れているものとはまったく違っている」とグランドスラム大会で4度優勝した実績を持つジム・クーリエ(アメリカ)は語った。
「クレーコートには、ちょっとばかり違った精神姿勢が必要とされる。いつもより数本余計にボールを打つ覚悟があるようでなければいけない。スライドし、気合を入れて頑張り、守備的なプレーもする準備ができていなければいけない」
クーリエが1991年と92年にロラン・ギャロスでタイトルを獲ってから現在までの30年近くの間に、フレンチ・オープンで優勝した他のアメリカ人は1999年のアンドレ・アガシ(アメリカ)だけだ。
そこで優勝するのはほとんどがヨーロッパの選手――いうまでもなく通常はナダルだが――あるいはグスタボ・クエルテン(ブラジル)のような南米の選手だ。
「僕がフロリダで育ったのは幸運だった。フロリダでは若手がプレーする大会の多くが、緑色のクレーコートで行われているんだよ」とクーリエはコメントした。「だから僕はごくごく若いときに、どうやってスライドするかを学んだ。僕にとってそれは、すごく自然なことだったんだ。スライディングに関しては何の問題も抱えておらず、メンタル的にも不安はまったくなかったよ」。
ノバク・ジョコビッチ(セルビア)のような選手にとっても、それは同じだ。ジョコビッチはすべてのサーフェスでのスライディングを芸術的技巧に転じている。
しかし、人生のより遅い時期にクレーコートを経験した選手たちとってはそうはいかない。
2016年リオデジャネイロ・オリンピック金メダリストのモニカ・プイグ(プエルトリコ)は、スライディングは自然にできることかと聞かれて思わず吹き出してしまった。
「ダメよ。全然ダメね。そこら中ですっ転んだことを覚えているわ。初期のコーチたちと取り組み、練習したものだったわ。スライドしたときにケガしない方法を練習したくらいよ」とプイグは爆笑してテーブルを叩きながら答えた。
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