砂入り人工芝コートでのプレー準備_丸山淳一コーチ
森田あゆみの専属コーチとして世界を駆け巡る丸山淳一コーチが、その経験から抽出したエッセンスをお伝えする。今回は砂入り人工芝コートでのプレーについて解説する。【2017年7月号掲載_丸山淳一のツアーなう第55回】
写真◎BBM、Getty Images
丸山淳一
PROFILE
まるやま・じゅんいち◎1965年4月8日、東京都生まれ。早稲田大学時代の88年にインカレ準優勝。95、96年全日本選手権混合複2連覇。元デビスカップ日本代表選手。現役引退後は杉山愛プロ(95~99年)、岩渕聡プロ(2000~03年)を指導。その間、フェドカップやシドニー五輪のコーチとしても活躍した。現在は、森田あゆみプロの専属コーチを務め、世界を転戦している
砂入り人工芝で勝つためのプレーは、ハード、クレーでマイナスになりえる
今回は、国内でもっとも多いと言われるサーフェス、砂入り人工芝でのプレーについて考えてみます。私たちは現役の頃からオムニコートと呼んでいましたが、これは商品名で外国では「シンセティックグラス・ウィズサンド」と呼ばれています。
砂入り人工芝でプレーする上で、知っておかなければならない2つのポイントがあります。ひとつは選手を育成する立場の指導者が気をつけるべきポイント、もうひとつは一般プレーヤーが砂入り人工芝で勝つための戦術、技術です。
砂入り人工芝で勝つことに特化すれば、有効なショットはスライスサービス、バックハンドスライス、ドロップショットです。ボールが高く弾まず、足元を取られやすいサーフェスなので、ネットプレーや苦しまぎれのディフェンスにおいてもドロップショット、ドロップボレーは有効な手段になります。
ただ、世界的に大会が行われるのは、ハードコート、クレーコート、グラスコートでATP、WTAともに砂入り人工芝での大会はありません。その中で砂入り人工芝でのプレーの特性を活かしてテニスができるのは、グラスコートだけです。残念ながら、砂入り人工芝コートで勝つための戦術は、ハードコート、クレーコートでの戦いに必要なクオリティの高いテニスを作る上では、少し違ったものになってしまいます。
プロを目指しているジュニア、学生、また一般プレーヤーの方でも自分のテニスのテーマを高いレベルで考えるならば、砂入り人工芝でプレーするときでも、テニスのクオリティを下げることなくテニスをすることを考えなければなりません。
ただ砂入り人工芝で勝つことだけにフォーカスするなら、弾まないでスライドするスライスサービスを打ち、スライスのショット、ドロップショットを多用することで勝てる試合は多いと思います。砂入り人工芝は足が滑るサーフェスなので、ドロップショットを追うための一歩目はほぼ滑ります。相手がポジションを下げたタイミングで打てば多少甘いショットになったとしても、打ち込まれることはありません。
相手を前後に揺さぶるドロップショットが有効、フットワークとシューズ選びも大事
これらの理由から、砂入り人工芝でのテニスは、気をつける意識がないとテニスのクオリティを下げてしまいかねません。普段テニスを磨く環境が砂入り人工芝であれば、そこを理解した上で練習内容、技術的、戦術的テーマを決めることをおすすめします。
砂入り人工芝で勝てるテニスを考えながらも自分のテニスのテーマを見失わずにバランスを取りながらのプレーはプレーヤーの引き出しを増やしてくれるメリットもあります。普段ハードやクレーで多用しているセカンドサービスに相手の予想外のスライスサービスを打ったり、ベースラインからのディフェンスでは深いショットと浅く弾まないショットを混ぜてみる。
ドロップショットでは攻めて相手を追い込んでから逆をつくことが基本ですが、砂入り人工芝ではディフェンスでやっと追いついたボールをドロップで返しても、形成が逆転してしまうこともあるのでアイディアとしては悪くありません。ハードやクレーでは高く弾んで相手のチャンスになってしまう甘いドロップショットも、砂入り人工芝ではバウンドも低く、しかも相手の1歩目が滑りやすくバランスを崩しやすいです。
ネットプレーでも考え方は同じです。普通ならネットに出たら、質の高い深いファーストボレーからよりネットに近いところでセカンドボレーで仕留めることが基本ですが、砂入り人工芝ではファーストボレーであってもドロップボレー、アングルボレーなどのタッチショットが有効に働きます。
また砂入り人工芝での特性を活かし、スライドフットワークを駆使してスライスのディフェンスを使いたければグリップ力の強すぎないシューズが必要です。ディフェンス力を高めるにはエンデュランス、つまり耐久力、持久力を高めるフットワークトレーニングにも挑戦してみてください。
砂入り人工芝でのテニスに有効なトレーニングを考えると、バランスを崩さないための一歩目のステップワーク、強さとバランスが大切です。前後左右のフットワークを磨きながら瞬発系、持久系の両立を目指してください。
先ほどシューズのことについて少し触れましたが、サーフェスに応じたシューズ選びもすごく大事です。砂入り人工芝といっても一括りにはできません。砂入り人工芝でもポジションを前にとり、素早い切り返しと隙あらばネットをうかがうような速いテニスにはグリップ力の高いシューズが必要です。自分のテニススタイルはスライドしたいのかグリップしたいのか、または両立したいのかを考えてシューズを選んでください。
自分のテニスができなかった場合、悪いところはひとつだけ考えて修正する
最後に、前号の内容からもつながりますが、試合後の振り返りを自分のレベルアップにどうつなげいくのかをお話しします。前回話したように、引き出しをいくつか持って試合に臨むと、自分がやりたかったテニスを結果に関わらずどのくらいできたかが体感できます。
「今日は自分の目指すテニスが90点くらいでき、結果もついてきた」と大きな成果を上げられれば、次はそれをビルドアップして次のステップに進みます。そしてさらにクオリティの高い練習をして試合に挑む。
その繰り返しでその選手の技術、フィジカル、メンタルのすべてのクオリティが高まります。このプロセスが繰り返されることによって成功するためのメンタリティ、練習、トレーニング、試合のスケジューリングを含めた生活習慣が噛み合い出します。
それでも時には、これだけ練習してトレーニングもして、相手に対する作戦もしっかり準備したのに全然自分のテニスをさせてもらえず、「今日の出来は30点だった」と落ち込むこともあるでしょう。そのようなときはまず自分のパフォーマンスを発揮できなかった原因をひとつだけ考えてみましょう。悪いところはたくさんではなく、ひとつ考えれば十分です。そのひとつがすべてをよい方向に導いてくれることは少なくありません。
一般のプレーヤーなら、例えば今日の試合を振り返って「大事な場面で緊張してダブルフォールトをたくさんしてしまった」と反省する。それなら、そこに焦点を絞って、次の試合でどう改善するか。それをテーマにしていきます。なぜ緊張してダブルフォールトをしてしまったのかを考えると、基本的には技術力がないから不安になり、不安からプレッシャーが発生し、ミスにつながったと言えます。
まずは技術を改善して自信を芽生えさせる。これが重要です。もし指導者や周りで見てくれる人がいれば、指導者が絶対にやってはいけないのが、気持ちやメンタルが弱いと指摘することです。それは大方間違った指摘です。自分に自信があるのに気持ちが弱くなる人はいないものです。気持ちの弱さ、メンタルを磨くには、弱く見えてしまった要因となる、技術力の欠如にフォーカスすることです。
緊張したらサービスを入れる自信がなくなるのは、気持ちの弱さでなく、技術力の不足だと言うところが、まだまだ日本のテニス界で正しく認識されていません。「根性がない、気持ちが弱い」だけで片付けてしまうのではなく、その原因はどこにあるのかを突き詰めていく。もしかしたら、その技術を発揮するためのフィジカルが足りないのかもしれません。持久力がなくなって疲れて、不安定になってしまうこともあります。
負のスパイラルに陥るのではなく、ポジティブな思考に持っていく。勝っても負けても次につなげて、必ずその経験を強さに変えていく。そのために、準備をし、試合を分析することが大事なのです。
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