10の戦術的ミスとそれを避ける方法_vol.03(彼らの失敗/モンフィス、ナブラチロワ、セレナ、ドン・バッジの場合)
トッププレーヤーたちも過去には失敗をおかし、それを乗り越えて成功を収めてきた。彼らの経験に学ばない手はない。3号連続でトッププレーヤーたちのおかした戦術的ミス(全10例)とそれを避ける方法を紹介する。【2015年11月号掲載】
Paul Fein◎インタビュー記事や技術解説記事でおなじみの、テニスを取材して30年以上になるアメリカ在住のジャーナリスト。多くのトップコーチ、プレーヤーを取材し、数々の賞を獲得。執筆作品はAmazon.comやBN.comで何度も1位となっている。テニスをこよなく愛し、コーチとしても上級レベルにある
写真◎小山真司、毛受亮介、Getty Images イラスト◎サキ大地
「完璧なスタイル、枯れることなきスタミナ、最高のストロークも、腕を操る脳がウイニングストロークを可能にする動きを計画できなければ、何の役にも立たない」 ── アンソニー・ワイルディング ※ニュージーランド出身の1910〜13年ウインブルドン・チャンピオン
戦術的ミス|7|
デッドゾーンや、深すぎる位置に立つこと
足元にボールがきたら
弱いリターンやミスになる
可能性が高くなる
英語で『無人地帯』と呼ばれる危険な地帯、デッドゾーンは、サービスラインとベースラインから90〜120cm内側のエリアの間を指す。この華やかな呼び名は相応しいものだ。というのも、もしそこに立ったなら、ボールがあなたの足元に入ってくる可能性は大であり、この状況でのハーフボレーや慌てて打ったグラウンドストロークは、弱いリターンやミスになりがちだ。『無人地帯』は長くうろつくべきエリアではないとはいえ、向かってくるボールが柔らかで短い場合には、そこから攻撃したり、そこを通って攻撃に移ったりするのに理想的な場所でもある。
深い場所にいすぎると
長い距離を走り
やるべきことが増えてしまう
あまりに後ろすぎる位置をとること――ラリーの最中に、ベースラインから60㎝以上後方にいること――は、前述したケースと逆の戦術的ミスだ。それは、攻撃的にプレーするチャンスを損なうことになり、特に相手のクロスショットに対し、非常に長い距離を走らされることになる。
まだ力を発揮していなかったキャリア早期のガエル・モンフィス(フランス)は、あまりに深い位置に立ちすぎていたせいで、ラリー中に、攻撃で相手にほとんどダメージを与えることができないでいた。ベースラインから1.5mも後方でプレーしていたら、あなたがラファエル・ナダル(スペイン)でもない限り、また別の大きな問題にも直面することになる。
いくつかの守備的なスポット、例えばベースライン後方1.5〜3mからボールを打つときには、どうやって深いショットを打つかを絶えず考え続けなければならないのだ。パワー、軌道、スピンを調整し続けなければならないからだが、それは簡単な任務でない。
そんなわけで、非常にパワフルで深いショットが、あなたをベースラインから60〜90cm後方に押しやっているとき以外は、あなたはベースライン近くに立ち位置を固守するよう心掛けよう。
反対に、あなたが深いショットで対戦相手をベースライン後方に押し下げたときには、ベースライン上、ときには少し内側にまで踏み込んでいい。予測力に長けたロジャー・フェデラーは、ベースラインのポジショニングのお手本的選手である。
「相手のボールがそれほど深くなければ、ベースライン近くに立つべきだ。あなたのボールが深ければ、あなたはベースライン上、または少し内側に踏み込むべきだ」
「ウィナーを打ち込むスリルについて考えているときは、テニスの試合は常にミスによって進む。プレースメントで勝ち取るものであることを思い出し、冷静さを保つように努めよ」 ── ビル・チルデン ※ビル・チルデン著書『よりよいテニスをプレーする方法』(1950年発行)
戦術的ミス|8|
攻撃の好機を逃すこと
守備にいる対戦相手を
ニュートラルな状況に
戻してはいけない
1925年の著書『マッチプレーとボールのスピン』の中で、ビル・チルデン(アメリカ)は、「シングルスにおいて、多くの選手の主要なミスは、いつ守り、いつ攻撃すべきかについての知識を欠いていることだ」と指摘している。
90年後、チルデンの批判は、変わらず真実であり続けている。
「対戦相手が守備に回り、スローボールや山なりのボールで時間を稼いでいるときに、体勢を立て直してニュートラルな状態に戻ることを彼らに許してしまうことは、大きな戦術的失敗と言える」と指摘したのは、80年代のダブルスのスーパースターで、現在はESPNの解説者であるパム・シュライバー(アメリカ)だ。「ボールをバウンドさせる代わりに、空中でとらえてオープンコートに打ち込むべきなのよ。それは瞬時の判断なのだけど、すべてのレベルであまりに頻繁にこういうチャンスが見逃されているの」と彼女は言う。
短く弱いボールに対して
正しいショットの選択を
しなければいけない
オープン化の時代を通し、マルチナ・ナブラチロワ(アメリカ)、ジョン・マッケンロー(アメリカ)、ロジャー・フェデラー(スイス)らは、最高の戦術的洞察眼と、好機を素早くとらえ、浮いたボールを決めるための瞬時の判断力を見せてきた。
すべての短く弱いグラウンドストロークに対し、パワーショット、アプローチショット、対戦相手をコートから追い出すシャープなアングルショットなどで、攻撃するべきなのだ。ショットの選択は、あなたの強み、対戦相手の弱点、サーフェス、あなたのコート上のポジション、スコアにもよる。
例えば、重要ポイントで、ベースラインのすぐ内側からドロップショットを放つというのは、特にハードコート上で瞬足な選手に相対している場合は裏目に出かねない。世界ナンバーワンのノバク・ジョコビッチ(セルビア)は、それを身をもって知ったことだろう。
「相手が守備に回っているときに、相手に立て直す機会を与えてはいけない。短く弱いストローク、セカンドサービスは攻撃しなければいけない」
私が知る限り、オープン化後の選手の中で最高の戦術的洞察眼を持ち、好機を素早くとらえ、浮いたボールを決めるための瞬時の判断ができる選手は、次の3選手だ。
深さを欠いた
セカンドサービスに対して
正しい行動に出なければ
いけない
最後に、パワー、スピード、よいプレースメント、深さを欠いたセカンドサービスを攻撃することを、忘れてはいけない。セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)、マリア・シャラポワ(ロシア)、ペトラ・クビトワ(チェコ)、そしてジョコビッチらが、いかにして弱々しいセカンドサービスを叩きに出ているか、好機をつかむことに秀でたフェデラーが、どのようにしてそれらをチップ&チャージし、ネットに詰めているかを見てほしい。人によって、それぞれ違ったショットを選んでいるというわけだ。
有名なコーチ、ビック・ブレーデンは著書『ビック・ブレーデンの未来のためのテニス』の中で、「よいテニスとは、ポイントにトドメを刺し、対戦相手をプレーさせ続けないそれである」と強調している。
「ただしショットの選択は、あなたの強み、対戦相手の弱点、サーフェス、あなたのコート上のポジション、スコアにもよる」
戦術的ミス|9|
確率を考慮しないで
プレーすること
ワイドサービスは
危険度が高い戦術だという
ネガティブな主張を正す
ほとんどの選手は、デュースコートとアドコートのサービスボックスの外側の角を、十分なだけ頻繁に狙っていない。何年にも渡り〝専門家”であるはずの者たちが、外に逃げるサービスを打つことは、ネットの(センターに比べて)5cmほど高いところを通すことになるがゆえに、危険度の高い戦術である、という誤った主張をしていた。
それは、大した重要性をもたないネガティブな主張だ。
プレーヤーの身長はこれまでになく高くなり、したがってサービスはより高い軌道で飛ぶ。熟練したサーバーになれば、ボールをサービスラインを越えたところに打ち込むミスをおかしても、ネットに打ち込んだりはしないし、キックサービス、スピンサービスを選び、それはどんなときも大きな余裕をもってネットを越えていくのだ。
ワイドサービスが
レシーバーに与える
4つの効果
さらにずっと重要なことに、次の4つの形で、ワイドに逃げるサービスを受ける側はパーセンテージを落とし、彼らにとって不利となるのだ。
第一に、ワイドサービスに対するレシーバーは、アレーの中(シングルスとダブルスのサイドラインの間)か、その外側でボールをとらえることを強いられ、リターンのレディポジションからはるかに離れた場所で打球することになる。反対に、サービスがセンターに打たれた場合には、レシーバーは理想的なポジションに位置することになるわけだ。
第二に、ワイドサービスに対するレシーバーが、ダウン・ザ・ラインへのリターンを狙った場合、ネットの中央0.914mよりも約14cm程高い、ネットの外側、もっとも高い位置を通過させなければならないのだ。
第三に、ワイドサービスに対するレシーバーが、もしも遅れてボールをとらえたならば、おそらくその選手はアレーにいて、そこでミスをおかすことになるだろう。
第四に、ワイドサービスに対するレシーバーが、ナダルのようにベースラインから1.5m以上下がったポジションをとっていたら、そこから放つクロスリターンは非常に長い距離を飛んでいかなければならないため、ショットが短くなる恐れがある。
今日、スライスサービスをワイドに打つことに秀でた最たるプレーヤーは、フェデラーと、敵をアレーの外に追い出す左利きのルーシー・サファロバ(チェコ)だろう。身長2mの弾丸サーバー、ジョン・イズナー(アメリカ)、そしてセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)は、ともにサービスボックスのコーナーに、すさまじいパワー、正確さ、一貫性をもって、ワイドサービスを打ち込んでいる。
クロスショットを打って
ネットに出れば
クロスパスの餌食になる
一方、クロスのフォアハンドやバックハンドを打ってネットをとることは、もっとも低確率の戦術と言える。しかし驚いたことに、史上最高のボレーの名手、ナブラチロワは、頻繁にこの失敗をおかしていた。おかげで彼女は、特に80年代前半、世界2位のアンドレア・イエガー(アメリカ)が放ったトップスピンクロスのパッシングショットによって、多くのポイントを失うことになったのである。
あなたがウィナーや、ウィナーに近いクロスショットを打てるような選手でない限り、ネットをとるときは、ダウン・ザ・ラインへ非常に深いアプローチショットを打って、ネットに詰めるべきだ。
トリックショットは
完璧に身につけて
打つべきときに打つべきだ
特に重要なポイントで、マスターしていないショットを試すというのは、リスクが高く、成功率の低いテニスである。これは、ドロップボレーやドロップショットのような、難しいタッチのショットについて言えることだ。
スーパースターのセレナでさえが、これらのショットを完璧にうまくやってのけることができない。それはまたトップスピンロブ、パワフルなセカンドサービス、ダウン・ザ・ラインへのバックハンドについても当てはまる。フェデラーでさえも慎重に選び、多くは避けているものだ。
とはいえ言いたいのは、こうしたショットは、十分に練習して使うべきものであるということだ。足の間から打ったり、ネットに背を向けて打つような、エキサイティングなトリック・ショットについてはどうだろうか。プロ選手が、観客を喜ばせるこの手のショットでポイントを勝ち取ることがどれほど稀であるかを見てみるといい。
絶望的状況に置かれたときには、高いロブを上げればいいのだ。そうすれば、想像しているよりもずっと多くのポイントを勝ち取ることができるだろう。
「現代においてワイドサービスは重要だ。かつて言われたネガティブな主張に耳を貸すべきではない。ワイドサービスはキックサービス、スピンサービスを選べば、大きな余裕をもってネットを越え、レシーバーを苦しめるものとなる」
戦術的ミス|10|
サーフェスに適した
プレーをしないこと
セレナのおかした間違い
クレーコートで
ハードコートのテニスをした
「今日の試合はまったく驚くべき試合だったわ。私はクレーコートの上で、ハードコートのテニスをしようとしていたのよ」
4月のフェドカップでイタリアのクレー巧者、サラ・エラーニを4-6 7-6(3) 6-3で破ったセレナ・ウイリアムズは、緊迫した戦いに辛勝したあとにこう認めた。
「家に帰って、本腰を入れてトレーニングをしなきゃ。思い込んでいたほど、というか、クレーコートシーズンの準備がまったくできていないことがわかったわ。次回は準備万端にして、何をすべきかわかっているようになるつもり。必要とあらば何千というショットを打つ心構えで、プレーしなければならないわね」
この試合のセレナは、ウィナーについては70対7と膨大なリードを築いたが、アンフォーストエラーは61もおかした。これはセレナが過去7回対戦して7回倒しているエラーニのそれと比べ、3倍近い数だ。プロツアーで17年も戦い、2度フレンチ・オープンで優勝を遂げたにも関わらず、セレナはいまだ、クレーでのプレーは違うゲームだということを学んでいなかったようだ。
クレーコートでは
多彩なショットと適切な選択、
我慢強さ、スタミナ、
闘志が必要…
セレナのすさまじいパワーは、スローなクレーコートの上では効果が弱められ、一方、クレーの戦い方を心得ているエラーニは、セレナよりもうまくクレーに対応し、さらに強風に対して、より確率の高い、重いトップスピンのグラウンドストロークを使った。
クレーでも、パワーは成果を上げはするが、グラスコートやハードコートほどの効果はない。クレーでのプレーには特別な武器が要求される。ドロップショット(セレナにはこれが欠けている)、ドロップボレー、アングルショット、チェンジ・オブ・ペース、スピン、そして対戦相手からのこれらのショットに対処するスキル。同様に重要なのは、クレーでのプレーには、我慢強さ、ときに3時間以上にわたり、長いラリーのために走り続けるスタミナ、聡明なショットの選択、そして、いつになく試されることになるだろうファイティング・スピリットが必要とされる、ということだ。
「クレーでのプレーには特別なショットが要求される。対戦相手からはこれらのショットに対処するスキル。我慢強さ、スタミナ、聡明なショット選択、そしてファイティングスピリット」
グラスコートでは
トップスピンの
度合いを減らし
パワーを駆使する…
もうひとつの特殊なサーフェス、グラスコートもまた、それに巧く適応した選手に褒美を与えるコートだ。
1930年代の名選手、ドン・バッジは、当時、主要なサーフェスだったグラスの上で低く滑るボールを扱うには、自分のウエスタングリップは不適切であるということに気づいた。もともと使っていたイースタングリップに戻ったあと、バッジのテニスは著しく向上し、1938年に彼はテニス史上初のグランドスラムを達成したのだ。
ビヨン・ボルグ(スウェーデン)とナダルは、ともに、10代にクレーコートのスターとしてキャリアをスタートさせた。彼らはウエスタングリップをキープしたが、グラスコートでは、サービスにパワーを加え、概してよりアグレッシブにプレーしつつ、トップスピンの度合いを減らし、よりパワーを駆使してショットを打つことをした。ボルグは5つのウインブルドン・タイトルを勝ち獲ることによって、懐疑論者を黙らせるとともに驚かせ、一方ナダルは、ここまでのところ同大会で2タイトルを獲得している。
「グラスコートでは、サービスによりパワーを加えアグレッシブにプレーしつつ、トップスピンの度合いを減らし、パワーを駆使してショットを打つ」
ハードコートは、
バウンドが予想しやすく
速度も適当…
ハードコートは、その予想しやすいバウンドと、中程度のスピードゆえ、適応の努力の必要性がもっとも低い。クレーでのナダル、グラスでのフェデラーの戦術と技術を研究し、それを、これら種々のサーフェスにおけるあなたのテニスの中にできるかぎり組み入れてはどうだろう。
◇ ◇ ◇
「ミスをおかすということは、人間的らしいことだ。しかしすべての競技レベルの『聡明なプレーヤー』は、これらの戦術的ミスを避けている。彼らは滅多に自らのミスで自分の足を引っ張るようなことはせず、それゆえ、より頻繁に、対戦相手を打ち負かすことができるのである」
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