「こんなとき、どうする?」~スポーツ心理学の佐藤雅幸先生が悩める読者からの質問に答えます!
全国各地で行われているトーナメントで、編集部は悩みを拾い集め、スポーツ心理学の佐藤雅幸先生にぶつけてみた。同じように悩んでいる読者もいるのではないだろうか。佐藤先生のアドバイスを聞いて解決のヒントにしてほしい。 【2014年10月号掲載
解説◎佐藤雅幸 イラスト◎サキ大地
さとう・まさゆき◎1956年、山形県生まれ。82年日本体育大学大学院体育学科研究科修士課程修了。専修大学教授(スポーツ心理学)、同大学スポーツ研究所所長。同大学女子テニス部の監督を務め、92年は王座優勝を果たした。現在は同女子テニス部統括。1994年には、長期在外研究員としてカロリンスカ研究所(スウェーデン)に留学した。2016年4月よりHALEOスポーツサイエンスリサーチ
質問(1)
団体戦のメンバーに選ばれましたが、非常に不安です。チームの勝敗が自分の試合にかかったらと思うと最悪で、監督に交代を申し出てみたのですが断られました。どうしたらいいでしょうか?(16歳・高校生)
佐藤先生 非常に責任感が強いのでしょう。ただ、その責任を過剰に感じてしまっているように思います。自信よりも不安の方が先に立ち、プレッシャーでいっぱいなのでしょう。監督から「お前に任せたぞ」と言われたとき、「よし、やってやるぞ!」と意気に感じる人もいれば、「任されてしまった、どうしよう…」と不安になる人もいますが、きっと後者のタイプだと思います。
どうしたらいいでしょうか、という質問への答えはひとつしかありません。腹を決めて、やるしかないのです。勝つかもしれないし、負けるかもしれない。それは誰にもわかりません。であれば、あなたのやるべきことは、全力を出し切って戦うこと以外にないのです。
あなたは手を挙げて試合に出たいと立候補したわけではありません。監督があなたを選んだのです。なぜでしょう。それがチームにとって勝つためのベストメンバーだと思ったからでしょう。選ばれたことを誇りに思って戦うのです。
以前にも紹介しましたが、プレッシャーというのは逃げようと思えば思うほど追いかけてきます。勇気を持って立ち向かうこと以外、プレッシャーを克服する方法はありません。負けることを恐れ、あなたが誰かに代わってもらうことは逃げ以外の何ものでもなく、この先も同じ選択をしてしまうでしょう。プレッシャーは誰にもあります。そのストレスを背負いつつ、前に進む強い気持ちをもちましょう。
負けたらどうする? そんな結果を試合前から考えても仕方ありません。プラスとマイナスはオセロのような関係で、負けるかもしれないということは勝てるかもしれないということ。みんなの期待をひとりで背負うのではなく、みんなといっしょに戦うのです。
監督さんには、ここで選手を交代させないでほしいと思います。「自信のない選手は使えない」と判断するのではなく、「誰だってプレッシャーはある。そこを乗り切って戦ってこい!」と選手の背中を押してコートに送り出してください。それが本当の強さにつながっていくと思います。
質問(2)
テニス部の顧問をしています。大会が近づいているのに、選手の雰囲気が今ひとつ盛り上がりません。シード選手、シード校と早いラウンドであたるドロー運の悪さで、「どうせすぐに負けてしまうから」「勝てるわけがない」というあきらめムードなのです。何かアドバイスをください。(34歳・指導者)
佐藤先生 ノーシードである自分たちの立場から相手のシード校を見れば、確かに強いと感じるかもしれません。では相手のシードの校の立場になって、自分たちを見てみましょう。絶対に勝てると思っているでしょうか。たぶんそうではなく、負けたらどうしょうという不安があることによって、気を引き締めて臨んでくると思います。
どうせ勝てないと思っている自分たち。試合は何が起こるかわからないと気を引き締めてくるシード校。この2校が対戦すれば結果は明らかだと思いませんか? そのままの実力が反映されるでしょう。
この結果を変える方法は、自分たちがどのようにするかにかかってきます。自分たちの力を信じ、必死になって戦うことです。「どうせ勝てない」と思うのか、「何が起こるかわからない」と思うのか。勝つための努力ができるかどうか、それがすべてだと思います。
勝って当然、ノーシードには絶対に負けられない、初戦が危ない――シード校にもプレッシャーは必ずあるのです。シード校というブランド、格を外して見てみると意外と余裕がないものです。少なくとも、こちらが悲観しているほど楽勝とは考えていないはず。楽勝にさせているのは、やる気のない自分たちなのです。
まだまだ練習、修業が足りない、未熟だと思うと気持ちと、自分たちはこんなものではない、今は未熟かもしれないけれど、これとこれを鍛えればシード校を倒して優勝できる、という2つの気持ちを持つことが重要です。自分はまだ未熟だ、だけど鍛えれば絶対に強くなる、そう思って練習に励みましょう。
弱い相手には勝ち、強い相手には負ける。それで満足ですか? 楽しいですか? 強い相手にも隙があり、弱点があります。そこをあの手この手を使って突き、相手を追い込んでいく。そういう楽しさ、面白さを追求してください。「番狂わせ」はそこから始まります。
質問(3)
いつもダブルスを組むパートナーがいます。本当は組みたくありませんが、相手が組みたがっているので気の小さい私は断ることができません。それとなく伝えているのですが、まったく気づいてもらえません。どうしたら相手にわかってもらえるでしょうか。(45歳・会社員)
佐藤先生 相手は永遠に気づかないと思います。それとなく気づいてくれるような人なら、あなたもこんなに悩んではいないでしょう。
断ろうと思っても断れない。よくある話です。断ると角が立つ。自分が引いて丸く収まるのならば、まあ、いいかと思ってしまう……。
あなたの結論は「組みたくない」のです。この結論は、どんなことがあっても揺らがないようにしましょう。「やっぱり組んでもいいか」と揺らいでしまってはいけません。そこからあなたの意見を主張、展開していくのです。組みたくない理由ではなく、他の人と組みたい、組んでみたいという理由に持っていくのです。
違う人と組んでもっと勉強したい。違う人と組んで刺激を得たい。違う人と組んで攻撃的なパターンを増やしたい。あなたが他の人と組みたい理由をはっきり告げることです。
断ることが悪いことだと思っていませんか。それは大きな間違いです。物分かりのよい人が好かれる、反論はいけないこと、そういう間違った思い込みを捨ててください。パートナーに意見があるように、あなたにも意見があるのです。
男女の恋愛もこれに似ているかもしれません。別れたいのに言い出せず、ズルズルと付き合ってしまう。別れを切り出されたほうはつらいかもしれませんが、その先にもっといい出会いがあるかもしれません。気持ちもないのに嫌々と付き合っているほうが不幸だとは思いませんか?
自分さえ我慢すればと思わないこと。自分だけ不幸を背負う必要もありません。断るのは悪いことだと思うのではなく、今後のお互いのためにそうするのだと考えてみてください。
今月の教訓
「結果ばかりを気にしないで、自分のやるべきことに集中する。望む結果は力を出しきったあとにしかついてこない」
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