デイビス&フルーリアン_目標設定と目標をクリアするための練習方法〜第32回(2018年)TTCスポーツ科学セミナーvol.02
昨年11月に開催されたTTCスポーツ科学セミナー。テニス選手にとって、選手人生の分岐点といっても過言ではないジュニアからプロへの移行期において、多くの選手がジュニア期と比べてのスケールの違いや選手としての成長に悩む中、コーチはどのように選手を導いてゆけばよいのか。“プロへの移行期の育成”について、ロバート・デイビス&ジャン-フィリップ・フルーリアンによるセミナーから、レポート第2回目は、「目標設定と目標をクリアするための練習方法」について。【2019年3月号掲載記事】
取材◎田辺由紀子 構成◎編集部 通訳◎稲葉洋祐(TTC) 写真◎川口洋邦、Getty Images 取材協力◎吉田記念テニス研修センター(TTC)
講師◎ロバート・デイビス
Robert Davis◎アメリカ出身。29年のATPツアーコーチ経験を持ち、テクニカルディレクターやナショナルコーチとしてペルー、パナマ、タイ、インドネシア、ミャンマー、シンガポールに貢献。自身のコーチ活動の傍ら、Global Professional Tennis Coach Association(GPTCA)カンボジア、インドネシア、マレーシア、ラオス、ベトナム、ミャンマー、シンガポールの会長も務める。また、テニス記者としてELITE Tennis Journal編集長を務めるほか、ATPやITFの出版物、TENNIS Magazine Australiaへ寄稿もしている。
講師◎ジャン-フィリップ・フルーリアン
Jean-Philippe Fleurian◎フランス領ニューカレドニア出身。プロテニスプレーヤーとして15年間活躍(シングルス最高37位)。全盛期には、ベッカーやエドバーグ、アガシにも勝利し、フランスのデ杯代表としても活躍。引退後は、USTA、カナダ、カタールテニス連盟でトレーナーを務めるほか、ITFの報道官や選手とのコミュニケーション担当、またGlobal Professional Tennis Coach Association(GPTCA)ではカナダとアメリカの会長も担っている。近年では、自身がトッププレーヤーになるまでの選手としての成長過程例をもとに、選手育成ツールの開発も行っている。
Theme コーチングを学ぶ
2 目標設定と目標をクリアするための練習方法
ロバート・デイビス(RD) 今回は、まずはジャン フィリップ・フルーリアン(JP)が培ってきた経験や教えをシェアできればと思います。ここからはJPへのインタビュー形式で進めていきますが、これをやる意図は、JPがどうやってテニスプレーヤーとして階段を上がっていったかというのを皆さんにお伝えするためです。
ジャン フィリップ・フルーリアン(JP) 私はフランス領ニューカレドニア出身。普通の少年でしたが、9歳のときにテニスプレーヤーになりたいという夢を持ちました。
RD ニューカレドニアにはあなたが参考にできるような選手はいましたか?
JP いいえ、そのような選手はいませんでした。14歳までニューカレドニアでプレーしましたが、小さい島なので、すぐにトップに上り詰めることができました。ただ、自分としては、プロになりたいという夢があったので、より強い選手と練習できる機会を求めてフランスに行きました。
RD フランスであなたが直面したことを教えてください。
JP フランステニス連盟の本部であるロラン・ギャロスに行きましたが、世界ランキングのない私は受け入れてもらうことができませんでした。
RD その後、家に帰ったあなたは、お父さんにある提言をしたとか。
JP 「学校をやめて、テニスに専念したいんだ」と。私自身の目標を達成するには練習時間が必要だから、学校をやめさせてほしいと父親に言いました。もちろん父は反対しましたが、私は「自分にはプランがある」と説得しました。当時、フランスのトップだったギー・フォルジェは、毎日4時間練習していました。私のプランは、彼の倍の8時間練習すること。「それによって彼を抜けると思う」と。
RD 当時から、あなたは自分に何が必要かわかっていたようですね。
JP そうですね。私は小さい頃から、自分の自己評価を自分でできました。通常、ビジネスでは強みと弱点を挙げて、そこでなるべく弱点を強みに変えていく作業をするんですが、当時、私のテニスは弱点しかなかったので簡単でした。まずは自己評価をすることです。
RD そのプランに対して、お父さんは?
JP あまり感心はしてくれませんでしたが、「あなたに4年間をあげよう」と。1年目はここ、2年目はここ、3年目はここというゴールセッティングをして、その基準をクリアしていけば、続けてもいいよということで、自分にこのプロジェクトを託してくれました。父がゴールセッティングをし、あとは目標を達成するためにどうするかは、「あなた次第」と私自身が当事者としてプロジェクトを進める主導権を与えてくれました。それがすごく良かったかなと思います。
RD その後は、ニック・ボロテリーのアカデミーに行ったとか。
JP フランスでは拒絶されたので、アメリカに行きました。ニック・ボロテリーのところでは、毎日みんなが5時間練習しているところ、私は8時間練習しました。朝1時間、昼も1時間、夜も1時間余計に練習し、フィジカルトレーニングも毎日2時間行いました。その成果もあり、技術的にはフランステニス連盟が設定したものに達するほど上達しました。
RD なぜ、それほど自分の成長を早めることができたのですか?あなたの練習相手も同じように練習しているはずですよね。
JP 私にとっては、それはそんなに難しいことではありません。私が使った公式というのは、昨日の自分よりもよくやるということだけです。これをやることによって、すごく成長速度が早まったと思うんです。昨日の自分よりもよくするためには、自分の練習に対して、ビジュアル化した基準、目視できる基準が必要です。私は、これを必ずつくって、練習していました。そうすることによって、昨日の自分よりも今日よくする、今日の自分よりも明日よくすると、取り組んでいました。その積み重ねが、30日後、あるいは一年後、あっという間にみんなを追い抜けた要因だと思います。
具体的にいうと、目標を立てることです。その目標に手をかけるために、一段、一段はしごをかけていくことで、その目標に近づける。これこそが、私がやっていったことです。その階段の役割を果たすのが、日々の記録になります。その記録というのは、必ず紙に書いておかなければなりません。目に見える形で書いておかなければ、それは煙や霞と同じです。
RD これこそが〈ティガメソッド〉という彼が考案したやり方です。
私が培ってきた経験や教えをシェアしよう!
(選手時代の)私の公式は、昨日の自分よりもよくやるということだけです。目視できる基準(目標)を必ず作り、その目標に手をかけるため、一段、一段はしごをかけていきます。その階段の役割を果たすのが日々の記録で、記録は必ず紙に書いておかなければなりません。
練習にも目標設定が必要── 「数字」と「記録」の大切さ
競技の成長段階で目標設定が重要であると同様に、普段の練習にも目標設定が必要です。その目標こそ基準となる「数字」です。今日の自分よりも、明日、その数字が向上していくように練習を積み重ねます。大切なのは、「今日の記録を書き溜めること」。他の選手と競うのではなく、今日の自分は昨日の自分と競うのです。
例えばこういう練習をしよう!
練習 1 ストロークのコントロールを磨く
❶ 10球中何球ターゲットに入れられるか
練習方法◎ターゲットをコート深くに設定し、ストレートラリーで10球中何球ターゲットに入れられるかを毎日記録する。日々、その数を増やしていけるようにプレッシャーをかけて練習する。
❷ 10球中全球ターゲットに入れられるようになったら、ターゲット自体を小さくする
❸ 1分間で何球ターゲットに入れられるか
練習方法◎ターゲットをコート深くに設定し、ストレートラリーで1分間打ち合う。ターゲットに入れることができた球数を毎日記録する。日々、その数を増やしていけるようにプレッシャーをかけて練習する。
❹ 左右振り回しで、1分間で何球ターゲットに入れられるか
練習方法◎ターゲットをコート深くに設定し、1対1でラリー。一方は左右に振り回される中で、1分間でターゲットに入れることができた球数を毎日記録。日々、その数を増やしていけるようにプレッシャーをかけて練習する。
練習 2 ボレーのコントロールを磨く
❶ 10球中何球ターゲットに入れられるか
練習方法◎ターゲットをコート深くに設定し、ボレーで10球中何球ターゲットに入れられるかを毎日記録する。日々、その数を増やしていけるようにプレッシャーをかけて練習する。
❷ 1分間ボレー対ストローク
練習方法◎ターゲットをコート深くに設定し、1分間ボレー対ストロークで打ち合う。ターゲットに入れることができた球数を毎日記録する。日々、その数を増やしていけるようにプレッシャーをかけて練習する。
❸ タッチボレー
練習方法◎ターゲットをネット際に設定し、タッチボレーを10球中何球ターゲットに入れることができたかを記録する。日々、その数を増やしていけるようにプレッシャーをかけて練習する。
練習 3 サービスのコントロールを磨く
練習方法◎サービスコートをTエリア(センター)、ボディ、ワイドの3つに分け、10球中何球コースに打ち分けられたかを記録する。レベル的に3分割が難しい場合は、2分割でもOK。
どのショットも「ゾーン」を狙って練習することが大切
サービス、リターン、グラウンドストローク、ボレー。ショットにかかわらず、いずれの練習も「ゾーン」を狙って打つことが大切です。どんなプレーでも、しっかりゾーンを狙うことができるようになれば、相手が世界1位でもそれを返すのは簡単ではありません。
試合では、もちろん、細かい戦術はありますが、まず基本的にはしっかりゾーンを設定して、そのゾーンに向かって打ち続けるというシンプルなことを心がけるのがテニスの基本戦術になります。
また、ゾーンを設定して、それを狙う練習をすることは、集中力を保つという意味でも効果があります。
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