森井大治_技術はあっても練習しても、あなたが試合に勝てない9つの理由
試合に勝ちたいなら、もっと頭を使うことだ。あまりにも「わかっていない」人が多すぎる。あなたは本当にわかってプレーしているだろうか? 頭を使ってプレーすれば、もっと勝てる、うまくなる!『技術はあっても練習しても、あなたが試合に勝てない9つの理由』解説◎森井大治【テニスマガジン2017年9月号掲載記事】
CHECK1
自分のプレー、特徴を正しく理解しているか?
試合を見ていると「この選手は自分のことを、まるでわかっていないなあ」と思うことがよくあります。試合に勝ちたいなら、まずは自分をよく知らないといけません。自分のプレースタイル、ポイントの取り方、取られ方の傾向、パターン。何ができて、何ができないのか。自分の武器は何なのか。こうなるとこうなりやすい、こういう試合展開が多い……正しい自己分析が勝利への近道になるのです。
自分のことは自分が一番よくわかっていると思うかもしれませんが、これが意外とわかっていないのです。人間はどうしても自分を過大評価しがち。自分ではできていると思っていても、意外とできていないもの。試合で、できていないことをするのと、できることをするのと、どちらがポイントを取る確率が高いかは言うまでもないでしょう。わかっている選手といない選手の違いは、そこなのです。
自分だけでなく、指導者や仲間の声も参考にしながら、自分のプレー、特徴などを正しく、客観的に理解しておきましょう。自分よりも他人からの評価のほうが正しい場合もあります。
プレーだけでなく、自分の性格、癖なども把握しておくこと。自分の長所や短所、課題、考え方、行動の仕方。自分のデータを頭に入れ、それを正しく使いながら戦うのです。
CHECK2
相手のプレーや動きが見えているか?
Check01で「自分のことをもっと知る」と言いましたが、その一方で「相手を知る」ことも大切です。なぜなら、テニスは相手がいるスポーツだからです。まさに「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」です。
自分のプレーを貫くことも大事ですが、それは相手を見て戦うということが大前提。相手のプレー、特徴、傾向をつかむことができれば、これほど有利に戦えることはありません。それなのに相手には無関心で、相手を見ていない選手が多いのには驚きます。
今、相手は乗っているのか、集中力を切らしているのか。自分のどんなショットに手こずっているのか、逆に合っているのか。サービスが入らずに苦しんでいるのか、リターンは自信を持って叩いてくるのか。そうした情報を集め、考えながら戦っている選手と、相手をまったく無視して戦っている選手とでは、やはり試合に勝つ確率は違ってきて当然でしょう。
野球で言えば、打者がカーブを待っているのに、そこでカーブを投げようとする投手は少ないでしょう。投げるにしても、明確な意図を持って投げる必要があります。テニスも同じで、相手と駆け引きをしながらポイントを奪い合うスポーツなのです。
「相手は関係ない。自分のプレーだけする」というと格好よく聞こえますが、相手を知らずして、どうやって勝つつもりでしょうか。自分の力と相手の力を比べ、考えながら勝機を見出していくのです。
CHECK3
タイミングやテンポ、プレーに変化をつけられるか?
勝っているときは問題ないかもしれませんが、リードされているとき、劣勢のときでも、これまでと変わらず、まったく同じプレーしかできない選手が意外に少なくありません。「何も考えていないな。このまま進んで終わりだろうな」と思って試合を見ていると、本当にそのまま終わって笑ってしまうこともあります。
同じタイミング、テンポでしかプレーできないのです。なぜなら、あまり深く考えていないから。そういう選手は、自分の好きなタイミング、テンポで気持ちよく打っているだけで、ボールが入れば入るし、入らなければ入らないと、非常に淡白なプレーが特徴です。相手が戦い方やリズムを変えてきてもお構いなし。一定の戦い方しかできないのです。
タイミングやテンポを変えられる選手というのは、試合の内容、流れがわかっている選手とも言えるでしょう。相手がペースを上げてきたな、ここはわざと落としてきたな、といったことがわかり、だからこうしよう、こうしないぞ、といった判断ができるのです。
例えば、フォアハンドを打つのも同じ打点、同じリズム、同じスイングで打てばひとつのフォアハンドですが、打点を変えたり、タイミングを早めたり、遅めたり、いろいろと工夫をすれば、何通りのフォアハンドにもなるでしょう。そうした工夫を試合の中で実践していけるかどうか。同じこと、一定のことしかできない選手は変化に弱く、負けやすいのです。
CHECK4
ポイントの内容を正しく整理、理解できているか?
試合が進んでいけばいくほど情報が集まってきます。そこまでに自分がやっていること、相手がやっていること、その情報分析を正しく判断できるかが勝敗の分かれ目です。
自分がどうやってポイントを取っているのか、あるいは取られているのか。取られているのであれば、どうやって取られているのか。自分からのミスなのか、相手の調子がよくてミスをさせられているのか。この判断が正しくできる選手とできない選手は、その後の戦い方を見ていれば一目瞭然です。
自分からのミスが多いと気づいた選手は、もっとラリーを続けたり、リスクの低いショットで自分から簡単にミスをしないようにプレーするでしょう。しかし、気づかない選手はエースを狙いにいったり、無理してネットに出たり、見ているこちらが「えっ、どうして?」というプレーをし始めるのです。流れを変えたいのでしょうが、あまりに無謀で情報を正しく理解、整理できていない証拠です。
相手にミスをさせられているとわかった選手は、ボールを深く打ったり、スライスを混ぜるなどして、何かしら現状を打開する姿勢を見せてくれます。しかし逆に、それがわからない選手は、そこで相手をねじ伏せようと強打したり、ムキになってエースを狙いにいったり、プレーの選択がおかしいのです。完全な自滅パターンです。
リードされても慌てないこと。逆にリードしても油断しないこと。大切なのは、そこまでの自分のポイントの内容を正しく理解し、整理し、より確率の高いショットを選択して勝つ可能性を探ることです。
終わったポイントは過去のことですが、その情報をデータとして蓄積し、次のポイント、ゲームに活かせる選手が試合巧者、わかっている選手なのです。
CHECK5
敗因をすべてメンタルのせいにしていないか?
「あの大事な場面でダブルフォールトして、俺って本当にメンタルが弱いな」
「私も本当に接戦に弱くてメンタルを鍛えないといけないわ」
そんな会話を聞くたびに、「原因はメンタルではない。単なる技術不足、練習不足」と思わずにはいられません。
レベルの高い選手、強い選手は決して敗因をメンタルのせいにはしません。そこでどうしてそうなったかを徹底的に追求します。その原因を心技体とあらゆる側面から考えます。 しかし、冒頭のような会話をする選手は追求しません。メンタルのせいにして、すべてを終わらせてしまうのです。何の進歩もありません。
「練習では(サービスが)入るんだけどなあ。試合になると入らない。メンタルが弱いんだな」
それは大きな間違いで、何のプレッシャーもない練習のときなら、ほとんどの人は入るのです。そこに気づかなければなりません。Check01を読み返してほしいのですが、自分では入る(できる)と思い込んでいるのでしょうが、本当は入らない(できていない)のです。間違った自己分析のままでは、また同じミスをするでしょう。
すべてをメンタルのせいにする選手は、ほとんどが技術不足の、わかっていない選手なのです。
CHECK6
自分のプレーのイメージを持てているか?
自分のプレーのイメージが漠然としていては勝利は遠いでしょう。イメージできないということは、ショットの使い方も見えず、ポイントパターンもあやふやで、こうやって勝つんだという絵が描けていないということだからです。
もちろん自分が考えていたイメージ通りに試合が運ぶことは、なかなかありません。運んだら圧勝でしょう。ただ、そのイメージを描けているからこそ、試合の中でその違いを修正することができるのです。もっとこうする、逆にまったく違っていると、ズレを合わせていって、自分のイメージ、ポイントパターンに持っていくのです。
例えば、自分のイメージだと、このショットを打てば相手を追い込めるはずなのに、追い込めていないということは、もっと早いテンポで厳しいコースを突かないと追い込めないんだな、という具合です。
もちろん逆もあるでしょう。相手を追い込む前のショットで追い込めているなら、そこまでリスクの高いショットを打たなくても十分だとわかります。試合巧者、わかっている選手というのは、そこが抜群にうまいのです。ここは無理をしなくてもいい場面、ここはリスクがあるけれど攻めていくべき場面――自分(と相手)のプレーが、しっかりとイメージできているから、その判断ができるのです。
CHECK7
チャンスはあるのにネガティブになって自滅していないか?
1ゲームも奪えずに試合が進んでいく。気づけばあっという間に0ー4。1セットマッチなら苦しい展開とも言えますが、あきらめるには早すぎます。Check04を思い出して、正しい情報分析を行ってください。挽回のチャンスは十分にあります。
ここでの最大のミスは「もう無理だ」「今日の相手は絶好調だ」「何をやってもうまくいかない」と反撃の意欲を失ってしまうこと。自分で勝手にネガティブになり、もうノーチャンスと思い込んでしまうのです。そうなると身体も動きません。相手が絶好調で手のつけられないときもあるでしょう。そんなとき、私なら選手にこうアドバイスします。
「こんなプレーが最後まで続くわけがない。続いたら、このレベルにいるはずがない!」
リードされたスコアなど気にせず、自分のポイントの取り方、取られ方を正しく整理し、分析していきましょう。3セットマッチで0ー6 0ー6のスコアで完敗するときというのは、よほどのレベル差か、第2セットの途中で敗者が勝手にあきらめてしまうのです。テニスあるあるではありませんが、6ー0でセット先取したほうはしたほうで「このままうまくいくわけがないだろう」と深く考えてしまって緊張したりするものです。
1ポイント、あるいは何かのきっかけで試合の流れが突然、変わってしまうという経験は誰にもあるはず。先に攻められてリードされるとがっくりきて、あとは焦って自分のプレーができないまま試合が終わってしまう……そんな負けパターンからは脱出しましょう。あきらめる前にすることは山ほどあります。
CHECK8
サービスゲームの優位性が理解できているか?
テニスはサービスから始まります。ですから、この一球目を先に打てるほうが絶対的に有利なスポーツなのです。その優位性をどれだけ理解しているかが実は重要で、それはレベル差にもつながっているように思います。
先にサービスを打てるということは、主導権はまずこちらにあり、それをどこへ打つかは、すなわち組み立ての第一打。ポイントを奪うために、サービスをどこへ打ち、相手のリターンを予測し、それをまたどう打つべきか――そう考えても、やはり第一打は非常に大きな意味をもっていることがわかります。
サービス力がある、ない、ではありません。サービスというショットをうまく組み立てて試合を運べる選手は、やはりわかっているのです。サービス力があってもそれがわかっていなかったり、力任せのサービス一発だけで押そうとする選手は、入らなければ脆いのです。サービスからの組み立てがうまい選手は、ほかの組み立てもうまく、試合巧者と言えるでしょう。
サービスゲームもリターンゲームも関係ない。確かに同じ1ゲームですが、その考えではなかなか上には行けません。サービスゲームは捨ててもリターンゲームで頑張る。それはそれでひとつの戦い方かもしれませんが、主導権のある第一打を有効に打てない(練習しない)選手は優位性を放棄しているわけですから、もったいないし、わかっていないと言わざるを得ません。
CHECK9
「これで負けたら仕方ない!」という術があるか?
敗色濃厚で相手に追い込まれたとき、これで負けたのなら仕方がないと思える術、すがれるものをもっておくことは大きいと思います。何の反撃もないまま終わるのではなく、最後はこれと腹を括れるものです。
バックのクロスラリーしかしない、エースをとられてもいいけど自分からミスは絶対にしない、相手のバックにしか打たない、とにかく中ロブでつなぎまくる、ネットへ出る……。ひとつのことを徹底することで、やることが明確になりますし、あれもこれもとやるよりは開き直りの境地になることができます。
手を尽くして追い込まれると、もう何をどうしてよいのかわからなくなり、投げやりになってしまうときがあります。そんなときに最後の一手、切り札として何かを持っておくと安心です。いよいよ困ったときはこれしかない。試合の序盤で使うことはありませんが、これはメンタル的にも効果があると思います。
〈おまけ1〉
わかっている選手といない選手
あなたの周りにもいると思います。そんなにすごいショットがあるわけではないのに勝負強い試合巧者が。彼らの共通点は、頭を使って考えてプレーしていること、そして戦術や戦略などが正しいことだと思います。攻める場面では攻め、守る場面では守り、決して無理をせず、状況に応じたプレーをしているはずです。勝つために自分のするべきことが「わかっている」のです。
逆に、技術も高く、もっと勝てるはずなのに不思議と試合に勝てない選手もいるでしょう。わかっている選手の逆で、わかっていない選手です。状況に応じたプレーができず、高い技術があっても、その効果的な使い方がわからない。,それほど深く考えないでプレーしているのではないでしょうか。技術を磨くのは大切ですが、同時にその正しい使い方も身につけていかないと試合には勝てません。
〈おまけ2〉
錦織選手の何がすごいのか?
錦織選手の最終セットに入ったときの勝率が抜群に高いのは、この9項目のすべてができているからだと思います。特にCheck04、ポイントの内容を試合中に正しく整理し、分析できる能力がズバ抜けて高く、だからデータとして最終セットに活かせるわけです。本当に自分のことをよく知っていて、相手もよく見えて、今何が起きているのか、どうすればポイントを取りやすいか、それがわかっている選手だと思います。
テンポの速いストローク、特にバックハンドのダウン・ザ・ラインは錦織選手の大きな武器だと思いますが、それ以上に錦織選手の武器はゲームメイキング、頭を使ったプレーの組み立てにあるでしょう。他のトッププレーヤーに比べて体格的に見劣りはしますが、それを頭脳的なプレーで十分にカバーしています。
写真◎Getty Images
(プロフィール)
解説/森井大治
千葉県出身。八千代高から早稲田大に進学し、89年全日本学生テニス選手権(インカレ)優勝。卒業後にプロ転向し、サーブ&ボレーを武器に活躍した。日本ランキング最高位は単7位、複9位。引退後はユニバーシアードのコーチ、監督を務め、2004年に早稲田大テニス部ヘッドコーチに就任。2012年4月から日本体育大学体育学部体育学科専任教員(准教授)として採用され、現在は同大学テニス部の部長兼監督を務める
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