末っ子最強説を探る!『日本男子トップ10中8選手が該当!』
同じ親、同じ環境で育ったのに、性格は同じではない。同じよりも、むしろ対照的である。なぜだろうか。兄弟同士の関わり合いというのは非常に大切で、その人の人格形成に多大な影響を及ぼすのだという。兄弟に見る性格の違い、パフォーマンスへの影響を考えてみよう。佐藤雅幸教授のメンタルNOTEBOOK_第1回 /末っ子最強説を探る!『日本男子トップ10中8選手が該当!』解説◎佐藤雅幸【テニスマガジン2013年3月号掲載記事】
日本男子トップの共通点とは?
デ杯日本代表を取材しながら、ずっと考えていたことがある。錦織圭、添田豪、伊藤竜馬、杉田祐一。彼らの共通点は何なのか。バックハンドが得意なこと? ここ一番の勝負強さ? いや、違う。そうではない。ある日、見つけた。ピンとくる共通点があった。その想いは、2月のインドネシア戦に向けて、守屋宏紀、内山靖崇と、さらに2人の候補選手が発表されたことで確信的なものとなった。
全員が「末っ子」なのだ。
表を見てもらえばわかるように、日本男子の実にトップ8までが末っ子なのである。さらに言えば、トップ8人中7人に、お姉さんがいる。偶然かもしれない。女子のトップ10はそうでもないのだから。しかし、日本男子に限れば、実に興味深いデータではないだろうか。
※2012年11月30日付の日本ランキング
そういえば、日本のスポーツ界のトップ選手には末っ子が多いと聞いたことがある。野球で言えば、長嶋茂雄(古い)やイチロー、引退したばかりの松井秀喜もそうだ。サッカーであれば三浦知良、これまた引退した中田英寿も末っ子。もしかしたら、末っ子という事実が、パフォーマンスに何かしらの影響を与えているのではないだろうか……。
そこで早速、修造チャレンジのメンタル担当であり、『きょうだい学』に造詣が深い専修大学の佐藤雅幸教授のもとへうかがうことにした。
兄弟関係の分類
「偶然ではないですよ」
データを見た佐藤先生が即答した。やはり、そうだったのだ。
「同じ親の下で育っているのに、兄弟で性格が違うのは不思議だと思いませんか? まるで対照的だったりしますよね。でもそれが普通なんです。なぜか。同じ親から生まれたのは事実ですが、育つ環境が違うからです。つまり兄弟だからです」
お兄さんが大人しい性格なのに対し、その弟は荒っぽかったり、お姉さんがおっとりしているのに対し、その妹は闘志をむき出しにしたりする(ヴィーナス姉妹や瀬間姉妹が思い浮かぶ)。
面白いのは、その逆が少ないことだ。お兄さんの気性は荒いけど、弟や妹はもの静か、なんて例はあまり聞いたことがない。やはり兄弟としての性格の違いがあるのだろう。佐藤先生が続ける。
「兄弟の生まれた順序と性格の間には大きな関係があって、しかもその関係というのは何年経っても、ほとんど変化しないものなんです」
では、兄弟それぞれの性格の特徴について教えていただこう。そこから"末っ子最強説"が見えてくるのは間違いない。
その前に、兄弟関係の分類をしておきたい。皆さん、どこに当てはまるだろうか。
●長子/兄弟の中で、一番最初に生まれた者
●末子/兄弟の中で、一番最後に生まれた者
●中間子/3人以上の兄弟がいて、兄や姉、弟や妹に挟まれている者
●一人っ子/兄弟がいない者
〈長子の特徴〉
倫理や道徳を守る。慎重で無理をしない
「親にとって初めての子供はかわいくて仕方がないもの。自分たちの愛情を一身に注ぎますが、初めての子育てですから、育児書を片手に育てているようなもの。自分の経験のすべてを与えなければならないという観念に陥ります。子供に対して、こうあってほしい、こうあるべきだ、という気持ちになりやすい」
佐藤先生が言うには、だから「親が目をかけすぎてしまい、トゥーマッチ(Too Much)になりやすい」。するとどうなるか。やや萎縮的傾向になり、何よりも「~しなければならない」という気持ちが働きやすくなるという。
「ただ、この時点では、まだ一人っ子。弟や妹が生まれたそのとき、持っている性格が変化していきます。長子は弟や妹の存在に嫉妬し、親をとられたくないという気持ちが働く。親の注意を自分に向けるために褒めてもらおうとし、親の言うことをよく聞く"良い子"になっていきやすいのです」
ふたり目の子が生まれたことで、親は長子に対して無意識のうちに「早く自立してほしい」という期待を寄せるという。「お前は、もうお兄ちゃんなんだから、お姉ちゃんなんだから」という台詞がそれだ。自分の役割を認識し、親の期待に応えたい。褒められたい。かくして、良い子、しっかり者になりやすいのである。
長子の性格・行動特性
・他人の面倒を見る
・行動する前には計画を立てる
・あまり感情的にならない
・行動は慎重である
・話はするより聞く方である
・欲しいものがあっても我慢する
・争いごとは好まない
・他人の気持ちを察する
・心の中は熱いが表に出さない
・規則や言いつけをしっかり守る
〈末子の特徴〉
考えるより行動する。チャレンジ精神が旺盛
「末子には、生まれたときからすでに兄や姉という存在がいます。目標であり、ライバルでもある。そんな環境で育つとどうなるか。年上にはかなわないけれど、負けたくないというチャレンジ精神が生まれやすい。親にとっても、ふたり目というのは緊張や感激が長子に比べると、どうしても薄くなります。末子はそれを敏感に感じ取り、長子よりも目立とうとする。気を引こうとするわけです」
追いつけ、追い越せ、という理想的な目標――兄や姉の存在が、末子に大きなエネルギー、競争心を与えていると、佐藤先生は言う。
例えば、かけっこをしたとき、末子は兄や姉に負けまいと頑張る。親にはその姿勢を褒められるだろう。長子がわざと負ける(譲る)こともあり、競争に勝つ。するとどうだ。伸びる力、プラスのエネルギーはますます加速していく。
だが、兄や姉を軽蔑し、エネルギーになった記憶などないと断言する人もいる。佐藤先生がうなずく。
「それも同じこと。反面教師にしているわけです。ああなってはいけない、なりたくないと肥やしにしている。その目標を乗り越えていこうとしている。やっぱり影響を受けているわけです」
また、親は長子に対して「早く自立してほしい」という期待を寄せると先述したが、末子には「幼いままでいてほしい」という気持ちを、これまた無意識に働かせてしまうものだという。
「まさに、そこが末っ子が甘えん坊、甘やかされて育つ要因のひとつ。親は長子に対しては目をかけすぎるほどかけていましたが、末子に対してはそれほどでもない。だから開放的になりやすく、見られていないことで伸び伸びできるようになるわけです」
末子の性格・行動行動特性
・甘えっ子である
・気が強い方である
・負けず嫌いである
・考えるより行動する方である
・好き嫌いがはっきりしている
・開放的である
・友達が多い
・警戒心が少ない
・挑戦的である
・わがままな方である
〈中間子の特徴〉
自己主張が強い。独特な自分の世界を持つ
「挟まれている中間子は、独特な自分の世界を持っています。長子と末子の資質が混在している性格です。兄や姉のように一人っ子だった時間はありませんが、弟や妹が生まれたときは嫉妬もします。しかし、兄や姉の役割は長子にとられているため、親に振り向いてもらうために、ときに問題行動を起こしてしまうことも……。人に頼らず、何でも自分一人で行動するような性格になりやすいですね」
自己主張が強く(内容がはっきりしているのが特徴)、やや反抗的な面を持っているのも中間子の要素であるという。上と下に挟まれ、自分という存在を強くアピールする必要があるのかもしれない。
「長子と末子の性格が混在しているため、バランスが良いともいえ、どんな立場の人ともうまくやっていけるのが中間子です。長子の気質もありますが、マイルドですよね」
ちなみに、佐藤先生には、周平、文平、一平と3人の息子がいる。真ん中の文平がプロとして活躍しているのは、ご存知の通り。文平の性格は、まさに中間子のそれだ。「猪突猛進タイプだけど、結構、周囲に気を使い過ぎるくらい使っている。だから伸びないのかなあ……」と佐藤先生は解説してくれた。
中間子の性格・行動特性
・自己主張がはっきりしている
・自分で何でも行動する
・一見、しっかり者である
・場の空気を一瞬で読む
・おだてられるとついつい度を越す
・ユーモアがある
・猪突猛進型である
・神経質である
・感情的になることがある
・空想することが多い
〈一人っ子の特徴〉
競争心が少なく、おおらか。唯我独尊タイプ
「親とのつながりが一番深いのは、言うまでもなく一人っ子です。そのため、それ以外の人との関わりが希薄になりやすい面があります。兄弟がいないため、競争意識があまりなく、おおらかな心を持っています。ただ、自分が決めた目標を達成するために、並外れた集中力を発揮して突き進んでいきます」
競争意識があまりないのは、競争する必要性がないからだ。家庭内では、すべてが自分のものであり、兄弟から侵害されることはない。長子だったが、弟や妹が生まれなかったため、長子としての特徴にはならず、一人っ子としての"マイワールド"が完成されてしまうのだろう。
「少子化傾向というころで、以前に比べて一人っ子が増えています。少しわがままで唯我独尊タイプ。芸術家などに多く見られます。誰かと競争するよりも自分を高めていく方が合っていると言われています」
一人っ子の性格・行動特性
・わがままな方である
・甘えん坊である
・友達が少ない
・一人でいることが苦痛でない
・物事に集中できる
・競争よりも自分を高めることに興味がある
・凝り性である
・自立している
・特定のことに関して頑固である
・他人のことが気にならない
兄姉がいる末っ子が最強
兄弟の性格・行動特性について紹介したが、この中で、どのタイプが生存競争の激しいプロの世界で力を発揮しやすいか、もはや明白だろう。佐藤先生が言う。
「末っ子ですよね。小さい頃から兄や姉という目標がいて、自分よりも上のレベルで争うことが多く、競争意識が芽生えやすい。刺激を受ける機会、伸びるチャンスがたくさんあるわけです。ここぞというときに、なりふり構わず、自分の力を発揮しやすい特性を一番備えているのは、いつも我慢してしまう長子、バランスのよい中間子、おおらかな一人っ子ではなく、自分の我を出せる自由奔放な末っ子なんです」
かくして"末っ子最強説"は裏付けられることになった。しかし、問題が残る。末っ子以外は、どうすればいいのだろうか。今さら親に「兄や姉を作って末っ子にしてくれ」と頼んでも無理な話。佐藤先生が笑う。
「空想の中で自分の兄や姉を作ればいいんです。近所のお兄ちゃん、学校のお姉ちゃん、そういう理想の存在を見つければ、その問題は、そんなに深刻ではありません」
なるほど。長子や一人っ子だからといって、悲観的になる必要はないということか。それに、これはあくまでも傾向であり、絶対ではない。必ずしも「末子以外は伸びない!」と断言する企画ではない。くれぐれも誤解のなきよう。長子のために心強いデータも紹介しておこう。世界王者のノバク・ジョコビッチは3人兄弟の長子であり、ラファエル・ナダルもダブルスで世界1位になった杉山愛さんも妹がいる長子。心配しないように。
せっかくの機会なので、佐藤先生に日本男子のトップ8人中7人に、お姉さんがいることは何らかの関係があるのかを聞いてみた。
「テニスというストレスフルな競技には、女性(お姉さんが持っている)特有のおっとりとした雰囲気と粘り強さ(粘着気質)みたいなものが必要であり、もしかしたらそこからよい影響を受けているのかもしれませんね」
最後に、末っ子の中でも、どんな兄弟構成が理想的かも訊ねてみる。
「最強というなら、お兄さん、お姉さん、両方のいる末っ子が一番だと思いますよ」
冒頭の表を見直してみる。一人いた。クルム伊達公子だ。男子は見当たらない。残念。しかし、ピンとくる人物が一人、思い浮かんだ。我らがシューゾー、松岡修造氏である。なるほど、納得である!
〈追記〉大坂なおみ選手も2人姉妹の末っ子なんである!
構成◎牧野 正(編集部) イラスト◎サキ大地
佐藤雅幸|プロフィール
さとう・まさゆき◎1956年、山形県生まれ。82年日本体育大学大学院体育学科研究科修士課程修了。専修大学教授(スポーツ心理学)、同大学カレッジスポーツ戦略委員、同大学女子テニス部統括、同大学社会体育研究所所長。20年以上にわたり、同大学女子テニス部の監督を務め、92年は王座優勝を果たした
※トップ写真は、兄と姉の両方がいる松岡修造さん(左)と伊達公子さん(写真◎菅原淳)
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