トッププレーヤーたちが“テニスを始めた頃”を調査せよ! 後編
過去から現在までのトッププレーヤーたちは、どのようにしてテニスと出合ったのか。今回は特別版として、彼らの“テニスを始めた頃”のエピソードを調査してみた。テニス界の“謎”を大捜査_こちら、テニマガ捜査本部「トッププレーヤーたちが“テニスを始めた頃”を調査せよ!」後編(2018年5月号掲載記事)
CASE 11 モニカ・セレスの場合
駐車場の即席コートで日々練習
8つ年上の兄が先にラケットを握り、その姿に憧れてテニスの道へ。生まれ育った街は、テニスショップがひとつもなく、父親がイタリアまで車で10時間かけてラケットを買いに行った。
近くにテニスコートもほとんどなく、いつも駐車場で練習した。車と車の間にネットを張って本来よりも狭いコートで練習を重ねた。駐車場の地面はしっかりと舗装されておらず、イレギュラーなバウンドの中で必死にボールを追いかけた。
テニスを始めた当初は身体も小さく、フォアハンドもバックハンドも両手でないと打てなかった。兄はすぐに直そうとしたが、それを父親は制止。その握り方が一番力を発揮できると直感し、以降も打ち方を直すことは一切なかった。
CASE 12 マルチナ・ヒンギスの場合
スイス移住後は毎日1時間ほどしか練習しなかった!?
母親のメラニーが元選手だったため、2歳からテニスを始めるも、7歳のときに両親が離婚。その後スイスへと移住する。旧チェコスロバキアにいた際は、一日コートで4~5時間ほど練習していたが、スイスに住み始めてからは「一日に1時間くらい。でも、集中してね」と言うから驚き。好奇心旺盛な時期とあって、バスケットボールやサッカーに明け暮れる日もあったそうだ。
ただ、他競技に打ち込むのもすべてはテニスのトレーニングの一環と考えていた。身体の柔軟性を養うために週2回のエアロビクスも通った。乗馬は4歳からずっと続けている。16歳3ヵ月の最年少グランドスラム優勝記録を持つ彼女は、やはり天才少女だった。
CASE 13 ロジャー・フェデラーの場合
いたずら好きで癇癪持ち。典型的なわんぱく少年
スキーやバスケットボール、サッカーなどスポーツ全般を楽しんだ幼少期。テニスは8歳のときに母親が通うテニスクラブで本格的に始めたが、サッカーも11歳までクラブチームでプレーしていた。
フェデラーのエピソードとして有名なのが“癇癪持ち”。試合中に怒りを爆発させてラケットをあちこちに投げまくり、コートマナーの悪さが際立って、家族やテニス関係者も苦労させた。
あらゆるスポーツの素質を持ち合わせていたが、その性格が仇となって周囲を失望させることも多かった。家では年上の姉に対して悪戯ばかりして叱られていた。また、試合会場では落ち着きがなく、木によじ登って遊ぶようなわんぱく少年だった。
CASE 14 ラファエル・ナダルの場合
最初はサッカーに夢中。テレビでテニス観戦して戦術を学ぶ
テニスとの出合いは3歳。叔父のトニが働くテニスクラブへ父親と遊びに行ったのがきっかけ。たまたまトニが投げたボールを正確にとらえ、周囲を驚かせたそうだ。
もうひとりの叔父、プロサッカー選手のミゲル・アンヘル・ナダルの存在も大きく、小さい頃はサッカーに夢中。それもあって、トニが働いていたテニスクラブに訪問して一年後にやっとテニスを習い始めた。
昔はトニといっしょにテニスのテレビ観戦が日課で、その際に互いに感じたことを言い合う習慣ができた。これが戦術を学ぶ力となり、テニスを深く知るきっかけとなった。
CASE 15 ノバク・ジョコビッチの場合
名コーチとの偶然の出会いで始まったテニス人生
家族のほとんどがスキーを楽しみ、父親は元競技選手。テニスと出合う前はスキーに力を入れて取り組んでいた。
家族は夏になると、毎年訪れる場所があった。その近くにテニスコートができ、レッスンをしていたエレナ・ゲンチッチが声をかけて翌日から参加。たった数日で才能を見抜いたゲンチッチは、彼の両親に「モニカ・セレス以来の才能の持ち主」と説得。本人もテニスに没頭していった。
幼少期から選手としての準備を怠らず、練習以外にも英語やドイツ語、イタリア語も勉強するストイックな少年だった。
CASE 16 アンディ・マレーの場合
年上とばかり対戦することで技術と同時に戦術も磨いた
母親ジュディはスコットランドで有名な元テニス選手のため、テニスは身近なものだった。兄のジェイミーよりも上達が遅く、さらに集中力もない上にすぐに怒る性格。ジュディは当初「テニスが合わないタイプ」と思っていたそうだ。
ただ、下手でもいいから試合に出たいと懇願するほど勝負事が好きで大の負けず嫌い。アンディの不屈の精神と諦めない心は幼少期から備わっていた。
昔から兄のジェイミーや近所でプレーしている大人とばかり対戦していた。自分よりも身体が大きい相手にどうすれば勝てるか。そのことばかり考え、ジュディもアンディに対して技術面より戦術を教えたと語っている。
CASE 17 マリア・シャラポワの場合
ナブラチロワが才能を見い出し、父とふたりでアメリカへ
ナブラチロワがロシアで開催したイベントに6歳のときに参加。100名以上も集まったジュニアの中からナブラチロワ本人が声を掛け、父親ユーリに対しては「この子はテニスの才能がある」と伝えられた。
その後、父親とふたりでアメリカに移住。フロリダのIMGテニスアカデミーに入り、間もなくニック・ボロテリーが才能にほれ込み、全額の奨学金を与えたと言われる。ユーリはレッスンの際はニック・ボロテリーのアドバイスをすべてメモに残していたとか。父娘の二人三脚で夢を追いかけ、プロ選手になった後も父親はツアーにコーチとして同行していた。
CASE 18 ウイリアムズ姉妹の場合
コートを離れるとテニスの話題は禁止。おかげで人生の視野が広がる
父親のリチャードがコーチとなり、徹底的に鍛え上げられた。家族にはひとつのルールがあり、それは「コートを離れたらテニスに関する話を一切しないこと」だった。
帰宅途中の車内で姉のビーナスが練習の話をしたところ、リチャードは車を止め、ビーナスを降ろしてそのまま帰宅する徹底ぶり。父親のブレない教育方針のおかげで、姉妹はテニスだけでなく、さまざまなことに興味を示し、視野を広げて多方面で活躍する唯一無二の存在となった。
CASE 19 ブライアン兄弟の場合
兄弟を競わせなかった母親。助け合う力を磨いて“最強ダブルス”誕生へ
母親は元プロ選手。ふたりの成長は母親がすべて取り仕切った。兄弟で競い合うよりも、双子の関係性を優先。ジュニア大会の決勝で両者が対戦する際は一方が棄権していたそうだ。どちらかが自信過剰になることを避け、ふたりで励まし合い、ともに成長できる環境をつくることをよりよいこととした。
ふたりが憧れたダブルスは90年代に活躍したジェンセン兄弟(ルーク&マーフィー)。彼らからはテニス選手としての“見せ方”を学び、ブライアン兄弟の“チェスト・バンプ”も観客を常に喜ばせるジェンセン兄弟からヒントを得た。「テニスはスポーツであると同時に、エンターテインメントでもある」。この言葉を胸に、今も男子ダブルスを盛り上げている。
CASE 20 錦織圭の場合
最初はゲートボール場で練習。習い事も多岐にわたる
テニスを始めたのは5歳のとき。父・清志さんが出張先のハワイで子供用のテニスラケットをお土産で買ってきたのがテニスとの出合いだったとか。
学生時代にコーチ経験があった清志さんは、4歳年上のお姉さんと圭を連れて神社にあったゲートボール場へ。まだふたりにテニスコートでの練習は早いと考え、土日だけの“特訓”をスタートさせた。しかし、この当初から我が子の秘めた才能を信じていたそうだ。
生後1年でスイミングスクール、3歳のときにピアノ講師を務める母・恵理さんの影響からピアノを習い始め、4歳から地元のサッカークラブに所属。サッカーは小学6年生までプレーし、チームの背番号10を背負って活躍した。小学校の上級生の頃は、テニスの練習を週に4回、サッカーは週に2回のペースで習っていた。
写真◎BBM、Getty Images
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