コート内外ですでにスターの大坂なおみがより多くを見つめる
多くの人々が今の彼女に抱いている疑問は、「彼女がここからどこにいくか」ということだ。土曜日のオーストラリアン・オープン女子シングルス決勝でジェニファー・ブレイディ(アメリカ)を6-4 6-3で破ったあとの記者会見で、大坂に投げられた2つ目の質問がそのことだった。
本人によると飲むと「ちょっぴりおかしな気分になる」というお祝いのシャンパンを少し口にしたあと、彼女はフレンチ・オープンとウインブルドンでのパフォーマンスを向上させることについて尋ねられたのである。
彼女がここまでに優勝した四大大会はハードコートのUSオープン(2018年、20年)とメルボルン・パーク(2019年、21年)で、オールイングランド・クラブのグラスコートとロラン・ギャロスのクレーコートでは一度も3回戦を超えたことがない。
ハードコート以外で獲るグランドスラム優勝杯はどれになるだろうかと尋ねられたとき、「クレーコートであることを願っています。何故かというと、それが先に行われる大会だからです」と大坂は意味深い答えを返した。彼女は時間を費やしたり辛抱強く上達しようというムードではなく、どこを上達させる必要があるかについて考えてきたのだ。
「我々の今年の目標のひとつは、ハードコート以外でもいいプレーをするというものでした。彼女はまだ非常に若い。今はそれらのサーフェスで成長すべきときで、彼女自身もできると信じています。正しい準備をしていくつか戦術的および技術的な調整をすれば、いい成績を挙げられると私は確信しています。彼女は成長したいと願っている人間なのですよ」と大坂のコーチであるウィム・フィセッテ(ベルギー)は語った。
大坂を特別な存在にしていることのひとつは、彼女がチャレンジに進んで応じ、自分が支持するものが何かを知っていることだ。ここ数ヵ月の彼女は、コート内外でそんな感じだった。フィセッテ氏の言葉を借りれば、ラケットを手にした大坂は「ビッグマッチと重要な瞬間を愛する」プレーヤーなのだ。
例えば大坂は、グランドスラム大会優勝歴23回のセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)と準決勝で対戦することを切望していた。そこには恐怖心はない。
「なおみは試合前に興奮していた様子で、まるで私が自分の子供たちをおもちゃ屋に連れていったときのようだったよ。なおみはコートに出ていってセレナと対戦することにわくわくしていたんだ。それを見て僕は、とてもいいことだと感じたよ」とフィセットは話した。
「結局のところ、選手はそのためにトレーニングしているのですから。違いますか? 最大のステージでセレナのような史上最高のプレーヤーとプレーするためにね」
テニスから離れたところで自分の意見を言い、考えを表現するようになるのに時間がかかったと大坂は打ち明けた。彼女は日本で日本人の母とハイチ人の父の間に生まれ、3歳のときにアメリカに移住した。昨年8月に彼女はアメリカ・ウィスコンシン州ケノーシャで黒人男性のジェイコブ・ブレイク氏が警官に銃撃された事件に抗議するためにUSオープン前哨戦の準決勝を棄権する意志を表明し、同じく抗議のために試合をボイコットしたNBAや他のスポーツのアスリートたちに合流した最初のテニスプレーヤーとなった。
「アスリートである前に、私は黒人女性です」と当時の彼女はツイートした。
2020年USオープンでの女王返り咲きへの道程で、彼女は警官の暴行と人種差別の問題への注意を喚起するために不当な暴力の犠牲者となった7人の黒人たちの名前が入ったマスクを着けて各試合に登場した。
土曜日に大坂は、4度目のグランドスラム大会決勝での4勝目となった最新の勝利に関連して何らかのメッセージはあるかと尋ねられた。
「正直に言って、ニューヨークで起こったすべての出来事を経験したときに私は本当に怖くなりました。自分が一度も足を踏み入れたことのないスポーツとは関係ない脚光の中に身を置くことになってしまったと感じたからです」と彼女は明かした。
「それからは人々が唐突に私がまったく知らないトピックについて質問し始めたと感じています。私は自分がその話題について十分知識を持っているとき、少なくとも自分が話そうとしていることについてちょっぴりでも知っているときだけ話したいと考えています。だから今回の私は、純粋にテニスについてだけ考えながらこの大会に臨みました」
それでもトロフィーを獲得したあとの彼女には、より大きな役割について考える準備ができていた。多くの人々がセレナに対する彼女の勝利について、『責任の伝承』と受け取っていた。大坂は2018年USオープン決勝での対戦でもセレナに勝っており――誰があの試合を忘れられるだろうか?――何百万ドルというスポンサー契約を抱えたことでもっとも収入が高い女性アスリートとしても39歳のセレナを凌いでいた。
しかし大坂にとってセレナは変わらず、そしてこれからもずっと彼女があとに続きたいと願った模範でありアイドルでありインスピレーションなのだ。そしてそれに恩返しをする最良の方法は、他の選手たちのためにセレナが負ってきたような役割を担うことだと大坂は考えている。
「私がかつてのお気に入りのプレーヤーだったと言ってくれるような少女と対戦できるように長くプレーできたらいいと願っています。私にとって、それは自分に起こり得る中でもっとも素敵なことだと思います。そんなふうにしてスポーツは前に進んでいくんでしょうね」と大坂はコメントした。(APライター◎ハワード・フェンドリック/構成◎テニスマガジン)
写真◎Getty Images
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