ジョコビッチがナダルに手渡したフレンチ・オープン108試合で3度目の黒星「ロラン・ギャロスでプレーした最高の試合」
今年2つ目のグランドスラム大会「フレンチ・オープン」(フランス・パリ/本戦5月30日~6月13日/クレーコート)の男子シングルス準決勝で4セットと4時間以上の間ダッシュとスライドを繰り返し、体を伸ばしてボールを追いかけお互いの動きを読み合ったノバク・ジョコビッチ(セルビア)とラファエル・ナダル(スペイン)は素晴らしい試合を生み出した。
ジョコビッチはたまたま、ロラン・ギャロスでナダルを倒すには何が必要かを知っているテニス史上たった2人の選手のひとりだった。そして今、ジョコビッチはそれを2度やってのけたことになる。今回の彼はふたりのキャリア58回目の対戦を3-6 6-3 7-6(4) 6-2で制し、ナダルの14回目の全仏優勝と男子歴代トップで並ぶロジャー・フェデラー(スイス)を抜くグランドスラム21勝目を目指す進撃を終わらせた。
「永遠に心に残るであろう夜、試合のひとつだった」と世界ランク1位のジョコビッチは表現した。彼は第4セットで一時0-2と劣勢に立たされたがそこから6ゲームを連取し、このクレーコートのグランドスラム大会では6度目となる決勝に進出した。
「間違いなく、僕がロラン・ギャロスでプレーした中で最高の試合だった。僕の最大のライバルと彼がここ15年に渡って支配し、本当に多くの成功をおさめてきた場所で対戦したという事実とテニスの質を考慮すれば、僕にとってこれは僕の全キャリアを通してもトップ3に入る試合だったよ」とジョコビッチはコメントした。
「そして会場の雰囲気は――まさに電撃的だった」
これは決勝でジョコビッチに勝った2020年大会も含め、ここ4年に渡ってロラン・ギャロスを制してきたナダルにとってこの大会でプレーした108試合で3度目の敗戦だった。
フレンチ・オープンにおけるナダルの最初の負けは2009年のロビン・ソダーリング(スウェーデン)に対するもので、次は2015年のジョコビッチに対するものだった。
「彼と一緒にコートに足を踏み入れるたびに、ここでこの男に勝つにはエベレスト山を登るようなものだと分かっている」とジョコビッチは話した。
この対戦にトロフィーがかかっていなかったということを考えると、不条理な気さえする。34歳のジョコビッチにはまだ、22歳のステファノス・チチパス(ギリシャ)と対戦する最終日の決勝が残っている。第5シードのチチパスはこれに先立つもうひとつの準決勝で、第6シードのアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)を6-3 6-3 4-6 4-6 6-3で倒して初のグランドスラム大会決勝進出を決めていた。
対照的にジョコビッチにとっては29回目の舞台であり、彼はそこで2度目のフレンチ・オープン優勝と19回目のグランドスラム制覇を目指すことになる。それが実現すれば、男子の最多記録であるナダルとロジャー・フェデラー(スイス)の「20」にあと1勝と迫ることができるのだ。
チチパスとズベレフの若手対決も劇的な試合だったが、それもこの大一番の前座に過ぎなかった。ジョコビッチとナダルの長年のライバル対決は、フィリップ・シャトリエ・コートの騒々しい観客たちを激しく沸き立たせた。
第3セットの途中でジョコビッチは23本続いたラリーをフォアハンドのウィナーで取り、スタンディングオベーションと喝采を受けた。その次のポイントでは逆にナダルがフォアハンドのウィナーを決めて叫び、「ラーファ! ラーファ!」の掛け声とスタンドでのウェーブを引き起こした。
ダブルフォールトとボレーミスを含むタイブレークでのお粗末なプレーについて、ナダルは疲労が関係していたかもしれないと試合後に認めた。
「ミスというのは起こり得るものだ。でも勝ちたいのであれば、こういった類いのミスを犯してはいけないよ」と35歳のナダルは語った。
タイブレークに突入した第3セットはそれだけで1時間33分もかかり、新型コロナウイルス(COVID-19)の対策で設けられた夜間外出禁止令の開始時間である23時は迫りつつあった。ジョコビッチの前ラウンドは5000人の観客を退去させるために20分以上中断されていたが、金曜日には政府が試合の終わりまで観客が留まることに同意したということを知らせるアナウンスがあった。
このアナウンスに先立ち上がっていた「立ち去らないぞ!」というフランス語の叫びは、フランス国歌とフランスのエマニュエル・マクロン大統領へのお礼の歓声に代わった。
試合後にナダルは夜のより気温の低いコンディションでのプレーはボールのバウンドが低くなり、自分の左利きフォアハンドの重いトップスピンの効果が軽減されるということを意味すると指摘した。
「コンディションは彼にとってより有利だった。いずれにせよ、それは重要なことじゃない。それがテニスというものだ。コンディションによりうまく順応したプレーヤーが勝つんだ。だから間違いなく、彼は勝つに値したよ」とナダルは振り返った。
戦いの激しさは、試合の出だしから肌で感じられた。ナダルは第1セットで5-0とリードし、その時点では6-0 6-2 7-5で勝った昨年の決勝を彷彿させた。その時点でジョコビッチが戦ったグランドスラム大会での341試合でストレート負けを喫したのはそれが4度目に過ぎず、グランドスラム決勝では初めてのことだった。
しかしジョコビッチは2つのカギとなる戦略的変更を行い、それが功を奏した。彼はリターン時に通常より後方に位置を取り、ナダルのバックハンド側にサービスを集中させようと決めた。そしてじりじりと挽回していくことで、これが2人のレジェンドによる伝統的な熱戦となるだろうことを直ぐにはっきりさせた。
彼らはこの試合で、稀に見るディフェンス力を見せた。パワーとタッチの適切なコンビネーション、他の選手たちなら成功することはおろかトライさえしないような一見不可能なウィナーが随所に見られた。お互いにリターン力がずば抜けていることから、ブレークポイントはふたり合わせて38本にも及んだ。
1968年に始まったプロ化以降の時代で、このふたり以上に多くの対戦を重ねた者はいない。ジョコビッチはナダルとの対戦成績で、30勝28敗とわずかにリードしている。彼はお互いをよく知っており、お互いの強みと弱みやパターンを熟知し合っている。
ゲームからゲーム、ポイントからポイント、ショットからショットへと、彼らは行ったり来たりのシーソーゲームを続けた。10本、20本と続くラリーを通し、彼らは素晴らしいポイントを数え切れないほど生み出した。
彼らはお互いに「これを超えることができるか?」とでも言うように、繰り返し目覚ましいショットを生み出すことを強いた。そして答えは、「ああ、できるさ!」の繰り返しだった。そのどちらもが決して諦めなかったし、譲歩もしなかった。
序盤の劣勢を振り払ったジョコビッチは第3セットで5-6からのセットポイントをセーブし、ナダルは競った末にタイブレークを落とした痛手から立ち直って第4セットの出だしでブレークを果たした。しかしジョコビッチはブレークバックして2-2と追いつき、そのあとは波に乗った。
「あそこで何かのスイッチが入ったんだ」とジョコビッチはのちに明かした。(APライター◎サミュエル・ペトレキン/構成◎テニスマガジン)
写真◎Getty Images
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