2セットダウンを2度克服したジョコビッチが19回目のグランドスラム制覇「この48時間のことを決して忘れない」 [フレンチ・オープン]
今年2つ目のグランドスラム大会「フレンチ・オープン」(フランス・パリ/本戦5月30日~6月13日/クレーコート)の男子シングルス決勝で最初の2セットを落としたあと、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)は自分自身と会話するためにコートを離れてロッカールームに向かった。
彼の一部は自分より若くて活力のある敵に対して2セットダウンのハンデを覆すには、自分が消耗し過ぎているのはと心配していた。そしてジョコビッチの別の一部は、自分はできると主張していた。
どちらの彼が正しかったろうか?
終盤にかけて非の打ちどころのないサービスの調子に助けられ、決意に満ちたジョコビッチは並外れた自身のベストテニスを呼び起こした。最終的に第1シードのジョコビッチは第5シードのステファノス・チチパス(ギリシャ)を6-7(6) 2-6 6-3 6-2 6-4で振りきり、ロラン・ギャロスで2度目の優勝を飾った。
これでジョコビッチのグランドスラム大会でのタイトル数は「19」(全豪9回、全仏2回、ウインブルドン5回、全米3回)となり、男子の最多記録を持つラファエル・ナダル(スペイン)とロジャー・フェデラー(スイス)の「20」にまた一歩近づいた。
「自分と話すときは、2つの声がある。そのうちどちらかを聞くかだ。今回は“ダメだ、終わった”という声もあった。第2セットのあとはそれが強くなっていたんだ」とジョコビッチは話した。
「だから僕はもうひとつの声に耳を傾け、悪い声をシャットダウンする必要があった。自分はできるはずだと自身を鼓舞して何度も心の中で繰り返し、体全体にいき渡らせるようにしたんだ」
少し跳び上がって決めたフォアハンドのハイボレーで試合を終えたあと、ジョコビッチは両腕を広げて胸を叩き、屈んでフィリップ・シャトリエ・コートの赤土を触った。サイドラインのほうに歩いていったとき、彼は試合を通して自分にアドバイスをくれていたという観客席の少年にラケットを手渡した。
第3セットが始まると感覚を取り戻してそれまでよりいいプレーをし始めたジョコビッチは、「そのあとには、もはや疑念はほとんどなかったよ」と振り返った。
そう、彼の勝利は危険にさらされた状態からお決まりの結末に向かって進み始めた。ジョコビッチは最後の3セットで、一度もブレークポイントに直面しなかった。
ロッド・レーバー(オーストラリア)とロイ・エマーソン(オーストラリア)に並び、34歳のジョコビッチは4つのグランドスラム大会を2度ずつ制した3人の男子選手のひとりとなった。今季の彼はオーストラリアン・オープンとフレンチ・オープンを制したことでもうひとつの類い稀な業績を目指し、6月28日に開幕するウインブルドンに臨むことになる。彼は同じ年に4大メジャーをすべて制するという真の『グランドスラム』達成の可能性を残しており、ドン・バッジ(アメリカ)とレーバーに続くテニス史上3人目の男子プレーヤーになることを目指している。
金曜日の夜にジョコビッチは、フレンチ・オープンを13度制した第3シードのナダルを4時間を要した準決勝で倒していた。彼はそのチャレンジの大きさを、「エベレスト山を登るようなもの」と表現した。
ナダルはロラン・ギャロスで108試合プレーしたが、3度目の敗北を喫した。ジョコビッチは2015年準々決勝でナダルを退けながら、決勝でスタン・ワウリンカ(スイス)に敗れていた。日曜日にも22歳のチチパスが優位に立ったとき、同じ運命が彼を待っているかに見えていたのだ。
「僕にとって、フィジカル的にもメンタル的にも容易ではなかった」とジョコビッチは打ち明けた。
しかし彼は最終的に今大会2度目、キャリア6度目の2セットダウンからの逆転勝利をやってのけた。4回戦で19歳のロレンツォ・ムゼッティ(イタリア)に最初の2セットを落としていたジョコビッチは、プロ化以降の時代で2度に渡ってセットカウント0-2とされてから栄冠に輝いた初の男子プレーヤーとなった。
一方のチチパスは第3セット以降のことについて、「僕は突然寒気を感じ、リズムを失ってしまった。ちょっぴり自分のテニスを失ってしまったように感じられた」と説明した。
これはチチパスにとって最初のグランドスラム大会決勝だったのに対し、ジョコビッチは29度目だった上に2016年フレンチ・オープンを含めて18回の優勝経験があった。またカギとなったのはジョコビッチが5セットマッチで35勝10敗の戦績を残しており、グランドスラム大会では男子最高記録である32勝を誇っていることだ。反対にチチパスは10回目の5セットマッチを戦い、5勝5敗となった。
「2セットを取ったからといって、それは何の意味もなさない」とチチパスは悔しさを滲ませた。
素晴らしいリターン能力と意志の強さを持つジョコビッチは、2セットを落としたあとは各セットの早い段階でブレークを果たした。
太陽が沈み始めてコートに影を落とすとジョコビッチは照明がついたことに関して主審に文句を言ったが、もっとも重要な瞬間に輝いた。ナダルに対する準決勝に続いてこの試合も4時間以上を要したが、ジョコビッチはまたもその任務を遂行した。
「僕はこの48時間のことを、残りの人生を通して決して忘れないだろう」と彼は語った。恐らく多くのテニスファンにとって、それは同じ想いだろう。(APライター◎サミュエル・ペトレキン/構成◎テニスマガジン)
写真◎Getty Images
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