ジョコビッチ3年連続6度目のウインブルドン制覇でグランドスラム20勝目「信じられないような旅だった」
2年ぶりの開催となる今年3つ目のグランドスラム大会「ウインブルドン」(イギリス・ロンドン/本戦6月28日~7月11日/グラスコート)の男子シングルス決勝で、第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)が第7シードのマッテオ・ベレッティーニ(イタリア)を6-7(4) 6-4 6-4 6-3で倒して3年連続6度目の優勝を飾った。
1877年に始まったウインブルドンで初めて女性であるマリア・チェチャック氏が男子シングルス決勝の主審を務め、雲の間から青空が覗く中で試合は始まった。
最初のゲームではお互いにナーバスになってる様子が見られ、特にジョコビッチは2本のダブルフォールトといくつかのアンフォーストエラーを犯してブレークポイントに直面しながらも何とか凌いだ。
「間違いなく、僕は通常よりもナーバスになっていると感じていた」とジョコビッチは認めた。
身長195cmと長身で逞しい胸板を持つベレッティーニのパワフルなサービスを前に、線審は頭を危険な軌道からそらすために絶えず体を捻らなければならなかった。ジョコビッチがときどき体をかばったり屈んだり、体のほうに飛んでくるサービスをブロックするための盾か何かのようにラケットを使う場面も見られた。
時速220kmのサービスをリターンして最終的にポイントを取れる対戦相手は多くないが、第1セットでのジョコビッチは少なくとも2回はそれをやってのけた。そしてベレッティーニがほとんどの選手を抜き去るフォアハンドも、ジョコビッチは何度も返球した。
「フィーリングがよくなかったからまずいプレーをした訳じゃない。彼が僕にまずいプレーをさせたんだ」とベレッティーニは振り返った。
それこそ正に、ジョコビッチがやったことだった。彼は各ポイントで、対戦相手がポイントを取るために非常にハードに働かなければならないよう仕向ける。ジョコビッチ相手には試合やセット、ゲームはもちろん1ポイントを取るためにも大いに奮闘しなければならないのだ。
とはいえこの試合は、もっと早く終わってもおかしくないはずだった。ジョコビッチは第1セットで4-1とリードしていたし、第2セットでは一時4-0、第3セットでも3-1と常に先行していた。しかし第1セットでの彼は5-2からのセットポイントを無駄してしまい、5-3からブレークバックされてもつれ込んだタイブレークでは最後の5ポイントのうち4本を落とした。
ベレッティーニは時速222kmのサービスエースで第1セットを終わらせた瞬間に叫んだが、1万5000人の観客が大歓声を上げたせいで自分の声が聞こえていなかった。
しかしジョコビッチはファイター以外の何者でもない。彼はベレッティーニがいくら奮闘してもその効果を鈍らせ、ファンの気持ちも徐々に勝ち取っていった。すべてが終わった瞬間にジョコビッチは芝の上に仰向けに倒れ込み、手足を広げた格好で歓声のシャワーを浴びた。少ししてから彼は立ち上がって天を仰ぎ、腕を広げて自分が成し遂げたことへの評価に身を浸した。
「彼はこのスポーツの歴史を刻んでいる。だから称賛に値するよ」とベレッティーニは賛辞を送った。
それはいくつかのマジカルなポイントがあり、壮観な試合だった。あるポイントでベレッティーニは股下からロブを打ち、それを追ったジョコビッチはコートに背を向けてそれをはたき返したが返球はネットにかかった。別のポイントではジョコビッチがスライドしてやっとのことで守備的なバックハンドを返してベレッティーニがドロップショットで応戦したあと、前方にダッシュしてウィナーを決めた。
ジョコビッチは「俺がナンバーワンだ」とでも言うように指を立て、ベレッティーニはラケットをくるりと回してそれを掴んで笑みを浮かべた。
彼にそれ以上何ができただろう? ジョコビッチに対しては、誰もあまり多くのことはできないようだ。彼は直近のグランドスラム12大会のうち8度優勝しているが、すべて30歳を過ぎてからのことだ。若い世代がいつ前に出てくるかの話題が盛んに飛び交っている中、ジョコビッチはひとりでこれらの若手たちを押し返してきた。
2021年に開催された3つのグランドスラム大会で、ジョコビッチは21勝0敗という驚異的な戦績を残している。オーストラリアン・オープン決勝で25歳のダニール・メドベージェフ(ロシア)を退け、フレンチ・オープン決勝で22歳のステファノス・チチパス(ギリシャ)に競り勝ち、そして今度は25歳のベレッティーニに勝ったのである。
この勝利でジョコビッチがグランドスラム大会を制したのは通算20回目となり、男子の最多記録を持つラファエル・ナダル(スペイン)とロジャー・フェデラー(スイス)に並んだ。
決勝でのジョコビッチは21本しかアンフォーストエラーを犯さず、31本のウィナーを決めた。彼のリターンは誰よりも優れ、両手打ちバックハンドは常に脅威となっている。予測してショットに追いつく彼の能力は目覚ましく、彼は必要なことは何でもトライするのだ。ジョコビッチはネットに出たときに48回中34ポイントを取り、サーブ&ボレーをしたときには9回のうち7でポイントを奪った。
しかしジョコビッチを何より際立たせているのは、統計では導き出せない能力だ。彼自身はそれを、「プレッシャーに対処する能力」と呼んだ。緊張感と心拍数が上がったとき、ジョコビッチはそのようなことに動じないか動じていないかのようにプレーするのである。
それは経験であり、グリット(やり抜く力)とガッツだ。才能であり、ハードワークでもある。
今年は10年に渡る成功に加え、ジョコビッチによる支配の年となっている。
「ここ10年は信じられないような旅だった。それはここで止まりはしない」と彼は語った。(APライター◎ハワード・フェンドリック/構成◎テニスマガジン)
写真◎Getty Images
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