ジョコビッチがズベレフに敗れ、ゴールデンスラムの夢が散る「今この瞬間にポジティブになることはできない」 [東京2020]
1年遅れでの開催となる世界的なスポーツの祭典「東京オリンピック2020テニス競技」(東京都江東区・有明コロシアムおよび有明テニスの森公園コート/7月24日~8月1日/ハードコート)の男子シングルス準決勝がセンターコートで行われ、アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)とカレン・ハチャノフ(ロシア)が金メダルをかけて対決することになった。
第1試合で第12シードのハチャノフが第6シードのパブロ・カレーニョ ブスタ(スペイン)を6-3 6-3で退け、第2試合では第4シードのズベレフが第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)を1-6 6-3 6-1で倒す番狂わせを演じた。
ゴールデンスラムの夢が散ったジョコビッチは対戦相手のズベレフが自分を慰めている間、ライバルの肩に頭をうずめた。今年のすべての大きな大会で無敵に見えていた世界ランク1位のジョコビッチは、東京五輪テニス競技の準決勝でズベレフに敗れた。
「僕は彼に君は史上もっとも偉大な選手だと言ったんだ。彼が歴史を追ってたことは知っている」とズベレフは明かした。
今大会でのジョコビッチは同じ年に4つのグランドスラム大会すべてのタイトルとオリンピック男子シングルスでの金メダルを獲り、『ゴールデンスラム』を成し遂げる最初の男子プレーヤーとなることを目指していた。彼はすでにオーストラリアン・オープン、フレンチ・オープン、ウインブルドンを制しており、ゴールデンスラムを完成させるために東京オリンピックとUSオープンで優勝する必要があるだけだった。
「たった今、本当に酷い気分だ。今この瞬間に、ポジティブになることはできないよ」とジョコビッチは語った。
1988年に成し遂げたシュテフィ・グラフ(ドイツ)は、ゴールデンスラムを達成した唯一のテニスプレーヤーであり続けることになる。それでもジョコビッチはUSオープンに勝で勝てば、『年間グランドスラム(同じ年に四大大会全制覇)』を達成することができる。それは1969年のロッド・レーバー(オーストラリア)以来、男子では誰も成し遂げられていない偉業だ。
「彼はグランドスラム大会で20ものタイトルを獲得した。すべてを手に入れることはできないよ」とズベレフはコメントした。
「結局のところ、彼は史上もっとも偉大な選手だ。グランドスラム大会でもっとも多くのタイトルを獲り、マスターズ大会でも一番多く勝つだろうし、もっとも長く世界1位に君臨した選手になるだろう。すべてが終わったとき、きっとそうなると僕は99%確信しているよ」
湿気の高いその夕方、ジョコビッチは力強いスタートを切ったあと身長198cmのズベレフがビッグサーブでフリーポイントを稼ぎ始める中で一連の『らしくないミス』を犯した。第1セットを先取したジョコビッチは第2セットで先にブレークしたが、そこから奮起したズベレフが最後の11ゲームのうち10ゲームを取った。
最後にズベレフがバックハンドのダウン・ザ・ラインを打ち込み、ジョコビッチが動くこともできずにそれを見送って試合に終止符が打たれた。それからジョコビッチはネットに向かって歩き、そこでズベレフから暖かい抱擁を受けた。ふたりはネット際で言葉を交わした。
「もちろん僕は勝ててうれしいよ。でも彼がどんな風に感じているかも分かっている」とズベレフはジョコビッチを気遣った。
「ただのスポーツだ。彼のほうがいいプレーをしたんだよ」とジョコビッチは振り返った。
「試合をひっくり返したことについて、彼を讃えなければならない。彼のサービスは非常によかった。ほとんどセカンドサーブを目にしなかったように思う。僕のサービスは劇的にレベルが落ちた。第2セット3-2からは、フリーポイントがほとんど取れなかった。僕のテニスはバラバラに崩れてしまった」
2ヵ月半前にイタリア国際でラファエル・ナダル(スペイン)に敗れて以来、ジョコビッチは負けていなかった。
「彼はここ数ヵ月まったく負けずに突き進んでいたから、彼にとっては大きな敗戦だろう。最終的には崩壊してしまったね」と男子ダブルスで銀メダルを獲得したマリン・チリッチ(クロアチア)は話した。
チリッチは大会を通して極端に暑く湿度の高かった有明の気候がジョコビッチに影響を与えたのかもしれないと指摘した。
「彼にとっては非常に不幸なことだが、それでも彼が信じられないようなチャンピオンであることに変わりはない。そして彼の前には多くの偉大なことを成し遂げるための時間がまだ年月もある」
今年のウインブルドンを制したジョコビッチは、四大大会獲得タイトル数「20」で長年のライバルであるロジャー・フェデラー(スイス)とナダルに並んだ。シーズン最初のグランドスラム3大会での優勝は、1969年に成し遂げたレーバー以来の快挙だった。彼は『ビッグ3』のメンバーで東京オリンピックに参加した唯一の選手であり、オリンピック村での経験を大いに謳歌していた。
しかしジョコビッチいなくなったことで、金メダルマッチはスターパワーを欠くことになった。ズベレフのキャリア最高成績は2020年USオープン準優勝で、ウインブルドンで8強入りしたばかりのハチャノフはキャリア最大の決勝に挑もうとしている。
ズベレフはそれを、「ここまでのキャリアでもっとも誇らしい瞬間」と呼んだ。
「僕は自分のためだけにプレーしているのではなく、両親や兄や家族のためにプレーしているだけでもない。僕はここにいるすべてのドイツ人アスリート、母国で観ている皆のためにもプレーしているんだ」(APライター◎アンドリュー・ダンプ/構成◎テニスマガジン)
写真◎Getty Images
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