丸山愛以(四日市商業)が全国大会のシングルスに初出場で初優勝の快挙 [北信越インターハイ]

丸山愛以(四日市商業)写真◎菅原 淳


 第78回全国高等学校対抗テニス大会および第111回全国高等学校テニス選手権(北信越インターハイ テニス競技/8月2~4日 団体戦、8月5~8日 個人戦/浅間温泉庭球公園、やまびこドーム、信州スカイパーク庭球場/砂入り人工芝コート)の7日目は男女シングルス決勝と男女ダブルス決勝が行われた。※決勝は3セットマッチ(第3セットは10ポイントマッチタイブレーク方式)。

 女子シングルス決勝は、ともに愛知県出身で、3年生の丸山愛以(三重・四日市商業)が2年生の伊藤あおい(東京・代々木)を7-6(2) 6-4で破り、全国の高校生女子プレーヤー2万9903人(2020年高体連テニス部登録)の頂点に立った。無観客となった今大会で、優勝が決まった瞬間の丸山は、両手を高く上げ、仲間や監督がいるベンチに向かって最高の笑顔を見せた。


丸山愛以(四日市商業)

 丸山は自身のテニスキャリアで今回初めてシングルスの全国大会出場を果たし、初優勝を飾るという快挙を達成した。「不思議な感じです。自分がこの頂点に立っていいのかな、と思っています」と優勝後の丸山。「こんなこと、あります?」と言ったのは金山敦思監督。おそらく前例はなく、とても珍しいことだ。

 全国でトップ争いをする四日市商業高校に丸山が入学したとき、レギュラーの座はまだまだ遠く、本人の言葉を借りれば“どべ”の選手だったという。そこから「毎日誰よりも一生懸命練習して、トレーニングして、力をつけてきた。そのことはみんな知っています」と金山監督。あまりの急上昇に驚いてはいるが、それを成し遂げるだけの基本は十分あるという。今年春のセンバツ(団体)で初めて全国大会に出場し、ダブルスをプレーしてチームの優勝に貢献した。そして、このインターハイの団体(ベスト4)でもダブルスをプレーして、両大会を合わせて9試合に全勝。つまり、まだ全国大会で負けたことがない。

 “初づくし”の丸山と決勝を争った2019年の全国中学生大会チャンピオンの伊藤は、今回2つ目の全国タイトルを目指していた。将来はプロとして活躍することを視野に高校を選び、激戦の都大会を勝ち上がった。部活に女子部員はおらず、通常は単独行動をしている。だから高校の大会に行くといつも“孤独(ひとり)”を感じ、寂しいと話す。今大会のベスト8進出者の中で団体戦に出場していないのは伊藤のみ、シングルス一本も伊藤だけだ。伊藤は関東高校ベスト8、関東ジュニアで準優勝しており、同世代のトップクラスに肩を並べている。


伊藤あおい(代々木)

 その伊藤との対戦は、丸山にとってもちろん初。今大会を勝ち上がっていけば、同地区の選手以外はほとんどが初対戦で、全国大会のトップ争いをする選手たちと顔を合わせる。4回戦で破った全日本ジュニア選抜室内(JOCカップ)準優勝の森岡きらら(神村大阪梅田)に対しては、自分が対戦する前提ではなく、普段の練習の参考に森岡の動画をよく見ていたという。金山監督はそんな丸山に最低限のアドバイスとして、「名前負けして、下だけは向くな。失敗してもくさった態度だけはするな」と言ったそうだが、のちに「関係ないみたいです。本人が自分の力で戦っている。僕はそれを見ているだけで」とテニスの内容は本人に任せてきた。

 伊藤のサービスで始まった決勝の第1セット第1ゲームで、丸山は前日の準々決勝、対中島玲亜(岡山学芸館)戦のスタートでミスを重ねたときとは違う、最初からいい当たりのリターンを放ってブレークに成功した。

 伊藤のテニスはトリッキーで、スピンやスライスを混ぜたラリーから突如ライジングを打ってネットに出たり、とらえる打点の高さを変えたり。それに丸山はしっかり対応した。スライスに対してスライスでより低く深くコントロールしたり、伊藤がネットについたときはローボレーを打たせたりパスを抜いたり、ロブも使った。守りから攻撃に転じるタイミングも素早く、最後はコートの隅までフォアで回り込んで強打していった。



 初めて全国大会を戦う選手と全中優勝の経験がある選手の比較は、この時点で必要ないものになった。

 丸山がサービスキープすれば5-3リードとなる第1セット第8ゲームで、伊藤の緩急の前にミスをして落とし、4-4のイーブンになった。次のゲームを伊藤がキープして5-4と、初めて伊藤がリードを奪う。そして第10ゲームの丸山のサービスゲームが鍵となった。15-40となり、伊藤が2つのブレークポイントをつかむ。得意のプレーを駆使してネットで仕留めようとするが、丸山が引かない。パスと、いいサービスでデュースへ戻す。そこから6度のデュースを繰り返し、その中にはもう1つ伊藤がブレークポイントを握る場面があったが、丸山はサービスのフリーポイントで奪い返した。伊藤はこの取れそうで取れないやりとりのあと、タイブレーク1-2から4ポイント連続で落とし、挽回する力を見せずこのセットを落とした。


伊藤はエンドチェンジでベンチにほとんど座らなかった。それは、「自分のプレースタイル的に、始まってすぐに動けないと嫌だから。動けないと最初のポイントでミスをする」からだという。


 伊藤は、イライラした態度をとろうと、やや雑にプレーしようと、それでもポイントを重ねていくポテンシャルの高さがある。第2セットは伊藤が4-2でリードした。

 丸山はそんな中でもむしろ、どんどん前向きに、いいプレーを出していた。「自分はスーパーショットが少ないから、相手に嫌だと思わせるくらい走って走って粘り強く、気持ちでもっていこうと思っていた」。苦しい場面でも、「ミスをしても次のポイントを取るという切り替えが、以前の勝てない自分よりできていると思います。以前の自分はミスをするとイライラして雑というか、何本もひきずったりしていましたが、今大会は自分の中で、次、次と気持ちを切り替えていくようにしました」。

 それができているきっかけは金山監督がかけてくれた言葉だと言った。「ピンチのときもチャンスのときも一つ一つ」と、いつもこれを思うという。「試合のときは苦しいポイントが何本もあって、一本一本重ねていったらポイントが取れる、大きいポイントが取れるということを本当にそうだなと、この大会で思いました」。

 そんなふうに戦う丸山に伊藤が根をあげてしまったのかもしれない。第2セット4-2のあと、伊藤は4ゲームを連続で失った。「自分が思うようにできなくて、肝心なところで守りに入ってしまった」と伊藤。「最後まで諦めていなかった。(丸山の)普通に守っていたかと思えば打ってきたり、回り込みフォアとか強いボールに引いてしまった」と、特に丸山のどこまでも回り込んでいくフォアの角度ある強いショットは、伊藤を前に入らせずライジングを難しくさせた。



 チャンピオンとなって違う景色が見えてきた今、丸山のこれからは何か変わりそうかと尋ねた。

「この試合をプレーできて、(次は)大学でもしっかりやって、その次も、テニスが好きなのでやろうと思っているのかなと、自分の中でちょっとずつ思い始めていて。勝負が好きなので、その分負けず嫌いですけど(笑)。テニスをやめようと思ったことは一度もないです」。次の舞台は大学テニスだ。

編集部◎青木和子 写真◎菅原 淳

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