前日練習なしにジョコビッチ戦へ、独創的な指導で育てたコーチのギルバート氏がブルックスビーについて語る [USオープン]

写真はジェンソン・ブルックスビー(アメリカ)(Getty Images)


 今年最後のグランドスラム大会「USオープン」(アメリカ・ニューヨーク/本戦8月30日~9月13日/ハードコート)の大会8日目は、トップハーフ(ドローの上半分)の男女シングルス4回戦などが行われる予定になっている。

 2021年シーズンのグランドスラム大会でノバク・ジョコビッチ(セルビア)を倒す方法を誰も見つけられないでいる中、今度はジェンソン・ブルックスビー(アメリカ)がその難問にトライする番がきた。そして彼と彼のコーチが事前に行った準備の方法は、ブルックスビーのプレースタイルと同じくらい独創的なものだった。

 今季を世界ランク300位以下で始めたカリフォルニア州で20歳のブルックスビーは今、キャリア最高の99位につけている。彼はこの驚きに満ちたUSオープンにワイルドカード(主催者推薦枠)で出場した。彼は月曜日の夜、アーサー・アッシュ・スタジアムで準々決勝進出をかけて第1シードのジョコビッチと対戦する。

「僕は間違いなく、自分が最後まで勝ち進むためのテニスを備えていると信じている。自分の心の中でそれを疑うことはない。同時に僕は、2週までいくなどといったどんな期待も課していない。僕はそんなふうには考えないんだ」とブルックスビーはコメントした。彼のコート上でのアプローチは独特な両手打ちスライスによって際立つように、スピンとアングルを主体に構成されている。

「僕は出場するどの大会でも、本当に先のほうまで勝ち進めるという自信を持っている。もちろん次の試合はもうひとつのビッグマッチだ。でも他のすべての試合と同じやり方で準備するよ」

 では彼は一体どんなふうにして、2万3000人収容可能なスタジアムでのグランドスラム大会2週目デビューとレジェンドのひとりに対する試合の準備をするのだろうか? 練習に長い時間を費やし、ゲームプランの詳細を練るのだろうか?

 いや、そんな風ではないのだ。

 7歳のときから変わらずブルックスビーを指導しているコーチのジョー・ギルバート氏は、日曜日を休息に充ててコートから完全に離れることにした。そして彼らはいつも通り、ブルックスビーがジョコビッチとプレーするためにロッカールームから出る直前まで、戦略について話し合うことはない。

 AP通信のインタビューに応じたギルバート氏は、「これはすべて新しいことです」と話した。

「でも私は彼と非常に長く一緒にやってきたので、彼が試合の準備を整えるには何が必要かを知るのはかなり簡単です。彼の世界では、彼が17歳のときの(18歳以下ナショナル選手権)決勝は非常に大きなものでした。これはずっと大きな感じですが、よく似ています。『これは新しい。ワクワクする』という感じのものですね」

 ふたりはギルバート氏がブルックスビーの両親にテニスのレッスンをした際に出会った。ジュニアの育成を行っているサクラメントのJMGテニスアカデミーで指導しているギルバート氏は小さなジェンソンの壁打ちを見て彼の集中力に感銘を受け、頭の中で誰に対してプレーしているのかと彼に尋ねた。ジェンソンの答えは、ラファエル・ナダル(スペイン)だった。

 このようにして、コーチングするのと同じくらい助言者となる教育的な関係が始まったのである。

 アドバイザーであるアムリット・ナラシマン氏によれば、2019年USオープンでブルックスビーがナダルの試合を間近で観たときがアーサー・アッシュ・スタジアムに入った唯一の機会だった。

 今年の出だし、ブルックスビーはATPツアー下部のチャレンジャー大会でほぼ無敵だった。そして今、彼は2002年のアンディ・ロディック(アメリカ)以降でUSオープンで4回戦に進出した最年少アメリカ人男子プレーヤーとなって今年のグランドスラム大会で24勝0敗のジョコビッチと対決する。

 グランドスラム大会で男子歴代トップタイとなる20回の優勝を誇るジョコビッチは、男子では1969年のロッド・レーバー(オーストラリア)を最後に誰もやってのけることができていない『年間グランドスラム(同じ年に四大大会全制覇)』達成まであと4勝と迫っている。

「対戦前に彼の経歴を見たら、間違いなく負けてしまうよ」とギルバート氏は笑いながら言った。

 対するブルックスビーの経歴には2年前に予選を突破して本戦に至ったあとに2010年ウインブルドン準優勝者のトマーシュ・ベルディヒ(チェコ)を倒したこと、今季に起きたチャレンジャー大会での優勝3回およびATP250大会のニューポートでの決勝進出とATP500大会のワシントンDCにおけるベスト4進出がある。

「ジョコビッチに対する彼の試合を観るのは興味深いよ」と月曜日の4回戦でロイド・ハリス(南アフリカ)と対戦する第22シードのライリー・オペルカ(アメリカ)は語った。

「彼はトリッキーだから、ジョコビッチを大いにびっくりさせることができると思うよ」

 ビッグサーブと強力なフォアハンドから始まる方程式で勝つオペルカのような選手とは違い、ブルックスビーはより繊細なアプローチと器用なタッチを駆使するスタイルでプレーする。彼が知っているのは、本質的にはそれがすべてだ。というのもコーチのギルバート氏は、最初からそのアプローチを開発してきたのである。

「彼はパワーでプレーしてはいません。彼は『サービス+もう1本』でプレーするタイプではないのです。彼は巨大な武器を生み出してはいません。彼が話す多くのことは、パターンです。その部分で彼は優位性を持っていると私たちは考えています」とギルバート氏は説明した。

「私は他の選手を観て『ここに穴がある。これがこの穴につけ入るための最良の方法だ』と言い、彼の仕事はそれを実行に移すことなのです」

 ギルバート氏はそれを、他のチームとの対戦を有利に進める方法を探してそれを活用することを目指すバスケットボールのコーチに例えた。ギルバート氏がそのエリアを発見すると、彼はそれをブルックスビーがプレーする5分か10分前まで自分の中で温めておくのだという。

「そのようにするのが最良の方法なんです。そうすれば、彼が過剰に分析することはありません。それは彼が試合前に聞く最後のことであり、頭の中で新鮮です」

 土曜日の夜に第21シードのアスラン・カラツェフ(ロシア)を5セットで倒したあとに「ノバク・ジョコビッチのキャリアと彼のプレーの仕方について考えたとき、どのようなことがあなたの頭を通り抜けますか?」と尋ねられたブルックスビーは、「正直なところ、あまりよく知らないんだ。僕はあまり試合を観たり、そういうことについて過剰に考えたりはしないタイプだから…」と答えた。

 その答えを聞いたときにギルバート氏は、「でも私は考えるよ」と思いながらやさしく微笑んだ。(APライター◎ハワード・フェンドリック/構成◎テニスマガジン)

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