伊達公子が説く「気づく力と考える力」の大切さ【ジュニア育成プロジェクト2期生第2回キャンプ】
伊達公子が「新たなチャレンジ」としてスタートさせた女子ジュニア育成プロジェクト「リポビタンPresents伊達公子×YONEX PROJECT~Go for the GRAND SLAM~」。グランドスラム・ジュニア出場を目標に掲げ、2年間で計8回の強化キャンプとプログラムを通じて世界で活躍するジュニアを育て上げる。その2期生プロジェクトの第2回キャンプが9月21、22日に開催された。
1期生プロジェクトとの大きな違いは参加メンバーの人数だ。4人から8人に枠が拡大されたのは多くのジュニアたちにチャンスを与えるとともに、「より競争心を芽生えさせることで、さらに目標に近づける」という期待を込めてのものだったが、想定以上の効果があったと言っていいだろう。
今夏、全国中学生大会で個人シングルス優勝を果たした林妃鞠は「1期生に友達がいて、凄くうらやましかったので、選ばれて凄くうれしい」と顔をほころばせる。林以外にも夏のジュニア大会で好成績を残した選手が続出したように、参加メンバーのレベルは向上した。1期生プロジェクトは手探りの中でスタートした部分があったが、2年間を経て認知度が格段に上がり、全国のトップジュニアたちが「参加したい」と思うキャンプになったことは大きい。
高校1年生が1人、中学3年生が6人、小学6年生が1人。世代トップクラスから原石まで、多彩な8人のメンバーがライバルとして仲間として切磋琢磨していく
キャンプのスタッフは世界を知る伊達公子、浅越しのぶをはじめ石井弥起、近藤大生、さらに日本テニス協会のサポートによる派遣コーチが加わる分厚い陣容。各コート2、3人の選手たちが、まるでプライベートレッスンのように細かなアドバイスをもらいながら指導を受けていく。「選手たちのモチベーションも高いし、言ったことに対する理解度も深い。『吸収したい』という思いが姿勢に表れていた」と伊達も目を細める。
1期生プロジェクトのときはキャンプごとに「テーマ」が設けられていたが、今回はテーマを設定せずにスタートが切られた。「メディアにとってはテーマがあるといいんでしょうけど」と笑いながら、「限られた時間の中で、どうコミュニケーションを取り、ジュニアたちが響いたことをホームコートに持ち帰り、継続してやっていけるかが大事なので」。
ただテーマを与えるのではなく、ジュニアたちがいかに自分で自分に必要なものに気づき、考えていくことができるか。伊達だけではなく、浅越や近藤も「たくさんのアドバイスをもらったと思うが、その中で自分に合うものをピックアップして、自分のテニスにプラスしてください」と言葉をかけていた。キャンプだけでレベルアップは図れない、大切なのはホームコートでの時間。それだけに「気づく力、考える力もこの2年で育てていきたい。そのためにも『気づきのポイント』をたくさん作ってあげたい」と伊達は話す。
限られた時間の中でいかにコミュニケーションを取り、ジュニアたちに多くの気づきを与えられるか
ジュニアたちにとってわかりやすい「気づき」のひとつだったのが、川田真琴トレーナーとの時間だっただろう。キャンプ2日目は2人1組で4セッションのプログラムが組まれていたが、1セッションは川田トレーナーによる正しい体の動かし方のエクササイズだった。伊達が選手ごとに気づいたポイントを川田トレーナーに伝え、それを元に選手ごとに必要な体の機能を向上させるためのやり方を施していく。
ホームコートでフィジカルトレーニングはしていても、正しい体の動かし方を意識してトレーニングをしている選手は少なかった。川田トレーナーも「全体的に改善の余地があるけど、それはやったことがないから仕方のないこと。知って、学習する。まずはそれがスタートになる」と話す。そうした一つひとつがジュニアにとっての「気づき」になるし、継続していくことができるかは選手次第。最後はそれぞれに、次回キャンプまでの「宿題」も課されていた。
川田トレーナーによるトレーニングもジュニアたちにとって「知って、学習する」最初の一歩となるはず
メンバーが8人となって最初のキャンプに、伊達自身もポジティブなものを感じていたことは間違いないが、一方で「目標に近づくために緊張感を持って、さらにモチベーションを上げてほしい」と口にする。8人全員が、2年間のプロジェクトに最後まで参加できる訳ではないということを冒頭に伝えたのはそのためだ。
「ちゃんと伝わったのかな? 遠回しに言い過ぎたかもしれない」と苦笑いしながら、伊達はその意図をこう説明する。「キャンプに参加することができた、認められたというのはジュニアにとってはうれしいこと。でも、それがゴールになってしまってはいけないし、ここでいろいろなことを吸収して成長すること、グランドスラムに出場できるレベルになることがひとつのゴール。そのためには常に緊張感が必要かなと」。
そして、こう続けた。「そのことを理解して取り組んでいければ2年間、最後まで8人でやれると思います」。参加メンバーに求められるのは目の前の結果だけではない、「世界の舞台で活躍する」という思いとそのための目的意識、何より大好きなテニスに打ち込む姿勢。その先にそれぞれの成長が待っているということだ。
次の第3回キャンプまでにどうホームコートで過ごすかが成長の大きなカギとなる
次回キャンプは11月下旬、プロジェクトが創設した愛媛でのITFジュニア大会の直前に行われる。大会に出場できるだけのITFジュニア・ランキングを持たない選手もいるが、プロジェクトのメンバーだからというだけで大会への出場が約束されたわけではない。この2ヵ月をホームコートでどう過ごし、次のキャンプでいかにその成果を見せることができるか。「2年間のプロジェクトの中でも大きな意味を持つ」と伊達が言う2ヵ月で、選手たちは必ずや確かな成長を遂げてくれるはずだ。
取材◎杉浦多夢 写真◎菅原淳
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