直近の早慶戦の結果覆した早稲田が16連覇を達成、慶應は44年ぶりの王座奪還ならず [2021大学王座]
大学テニスの日本一を決める団体戦「2021年度全日本大学対抗テニス王座決定試合(男子75回/女子57回)」(愛媛県松山市・愛媛県総合運動公園テニスコート/11月8~12日/ハードコート)の大会最終日に行われた男子決勝で第2シードの早稲田大学(関東地区第2)が第1シードの慶應義塾大学(関東地区第1)を6勝3敗で破り、前人未到の記録をさらに伸ばす16連覇を達成した。
また関西勢同士の対決となった男子3位決定戦は、『王座出場校選出試合』でも勝利した第3シードの近畿大学(関西地区第1)が第4シードの関西大学(関西地区第2)を7勝2敗で下した。
◇ ◇ ◇
その光景は、想像していた以上に切なかった。
早稲田が勝てば前人未到の記録をさらにのばす16連覇、慶應が勝てば1977年以来44年ぶりの王座獲得という決勝戦。どちらが勝っても歴史的快挙である一方で、どちらが負けても胸潰れるような結末になることは最後の最後までもつれる展開を見つめていた誰もが予感していた。
朝の9時に始まった決勝は、夜の7時にまだ決着していなかった。この日も雨天のため男女それぞれ1面しかない室内コートでのスタートとなり、第1試合のD3で丹下将太/高畑里玖(早稲田大学)が白藤成/下村亮太朗(慶應義塾大学)を6-4 3-6 6-3で破って早大がまず1勝を挙げた。
雨は止み、第2試合以降はすべてアウトドアで複数コート展開に。まず残りのダブルスではD1でインカレ・チャンピオンでもある羽澤慎治/藤原智也(慶應義塾大学)が畠山尚/増田健吾(早稲田大学)を6-3 6-4で下し、D2は白石光/池田朋弥(早稲田大学)が佐々木健吾/成耀韓(慶應義塾大学)の4年生ペアに6-2 7-5で勝利をおさめた。こうしてダブルスは早大が2-1とした。
このあと慶大は、白藤と下村がダブルスの黒星を埋める勝利を挙げる。白藤は小久保蓮(早稲田大学)を6-4 7-5で退け、1年生の下村は3年の渡部将吾(早稲田大学)に6-7(5) 6-3 6-4の逆転勝ち。S5では2年生の高畑が4年生の伊藤竹秋(慶應義塾大学)が見せた終盤の粘りを振りきって6-3 7-5で勝利しており、下村には勝敗を3-3のタイにできるかどうかが託されていた。最終セットは両脚ともにケイレン寸前という状態に陥ったが、「1年生なのでのびのびやろうとは思いながらも、4年生の引退試合でもあるのでチームに貢献したい気持ちも大きかった」というひたむきな1勝が伝統の一戦を白熱させた。
残る3つのシングルスで2勝を挙げたほうが勝利という状況の中、S6で池田が成を6-4 6-2で倒して王手をかけた。最後に残ったのは、今年のインカレ・チャンピオンの2年生・藤原に2連敗中の丹下が挑むS1、そして昨年度のインカレとインカレ室内の2冠を持つ白石と慶大の主将・羽澤が激突するS2だ。
白石は「僕と丹下が最後に残った時点で、窮地には違いないと思った。相手を考えれば、このふたつは(星を)計算できないところだったので」と心境を振り返った。
先に進行したのはS2だった。第1セットはタイブレークの競り合いで白石、第2セットはがらりと流れが変わって羽澤が6-0と圧倒した。激しいラリー戦と巧妙な駆け引き。最終セットは羽澤が第1ゲームをブレークして優位に立ったが、第4ゲームでブレークバックした白石が第8ゲームをラブゲームで大きなブレークを果たした。サービング・フォー・ザ・マッチも40-0と羽澤に反撃の隙を許さず、最後はフォアハンドのボレーで決めた。
このとき隣のコートは丹下が1セットアップの5-3からブレークバックを許し、藤原のサービスゲームで15-15という場面だった。劣勢の中で必死に食らいつく藤原にまだ逆転のチャンスは十分にあったが、そこから1ポイントも奪えずに羽澤のあとを追うように敗れた。
気の遠くなるような長いラリーがいくつも繰り広げられる試合を制した丹下は、これまでの練習の成果とこの日の戦術に胸を張った。
「(藤原に負けた2試合は)自分の武器のフォアハンドで攻める展開を作れなかったことが敗因だったので、フォアの決定力を磨く練習、特に回り込みの逆クロスとストレートの打ち分けの精度を上げることに取り組んできました。しぶとい相手なので今日は攻め急がず、オフェンスとディフェンスのメリハリを心がけていました」
16連覇を決めたのは白石だったが、丹下にとっても同等の勝利だったに違いない。先月の『王座出場校決定トーナメント』で慶應に24年ぶりの敗北を喫した早稲田の、短期間での見事なリベンジだった。羽澤が「早稲田は王座の決勝を戦うときが一番強い」と言っていた通りだった。
単複で計9本も戦う王座の最終決着を決めるのは、単に星の数だけではない。一つひとつの戦い方、勝ち方、負け方、進行のすべてが相互に影響し合い、最後の瞬間に導かれる。
だから藤原はもう決着はついていたのに、負けてあんなに泣き叫んだのだろうか。ジュニアの頃からいつもどこか飄々として大きなタイトルを手にしてきた藤原の、それは思いがけない姿だった。
あの試合、もしも1セット目を取っていたら隣のコートで戦う二人の心理状態は違っただろう。ひょっとすると羽澤は負けなかったかもしれない。しかしそれは、10時間以上に渡って繰り広げられた9試合の中に無数にあったはずの「もしも」の中のひとつに過ぎないのだ。コートに崩れて動けないインカレ王者の姿は、確かに“王座”の重さを物語っていた。(ライター◎山口奈緒美/構成◎テニスマガジン)
撮影◎宮原和也 / KAZUYA MIYAHARA
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