セレナがその比類なき栄光のキャリアに終止符「楽しい旅だった」 [USオープン]
今年最後のグランドスラム大会「USオープン」(アメリカ・ニューヨーク/本戦8月30日~9月13日/ハードコート)の女子シングルス3回戦で今大会を限りに引退することを示唆しているセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)がスタジアムを埋め尽くした観客の前でアイラ・トムヤノビッチ(オーストラリア)に5-7 7-6(4) 1-6で敗れ、その輝かしいキャリアの幕を閉じた。
オープン化以降で最多となる23回のグランドスラム制覇を果たした40歳のセレナは、数々の比類ない記録を残してテニス界をあとにする。
彼女は2002年から2017年にかけて8度の違った期間に合計319週間に渡って世界ランク1位となり、2002~03年と2014~15年に4つのグランドスラム大会を連続で制した。オリンピックではダブルス3つを含む計4つの金メダルを獲り、また女子テニスの最高記録である9400万ドルの賞金を稼いだ。
シングルスのツアー優勝73回は167勝のマルチナ・ナブラチロワ(アメリカ)、157勝のクリス・エバート(アメリカ)、107勝のシュテフィ・グラフ(ドイツ)、92勝のマーガレット・コート(オーストラリア)に次ぐ歴代5位だが、セレナはそのような数字を超えて女子テニス界に多大なインスピレーションを与えた選手だった。
コリ・ガウフ(アメリカ)や大坂なおみ(フリー)など多くの選手たちから受けた敬意に応え、セレナは「自分が与えたインパクトや影響力を実感する時間を取ったことはなかったと思う。それがあったことは理解しているけど、そのことについて深く考えたことはなかった。でも今後はそのようなことをするための時間はたくさんあるわ」と話した。
「自分がそのような影響力を与えるなどと考えたことは一度もなかった。私はただテニスをしようとしている女の子だったけど、気付けば影響力を築いて発言力を持つようになっていたの。私は本当に自分らしくやってきたから、それは正真正銘のものだった」
世界でもっとも影響力のあるファッション誌『VOGUE』に掲載されたエッセーの中で、「私にとって、この話題(引退)には幸福感はありません。私が目指しているものを表現するのに最適な言葉は『進化(段階的変革)』です。私はテニスから離れ、私にとって重要な他のことに向けて進化していこうとしていると言うためにここにいます」とセレナは述べていた。
ここ数年はコートが持つ全時代を通しての最多記録となるグランドスラム獲得タイトル数『24』にセレナが追いつけるかということに注目集まっていたが、それはまた産休から戻ったセレナが何度にも渡ってあともう一歩というところまでに漕ぎつけていたからでもあった。
2017年のオーストラリアン・オープンで最後の栄冠に輝いたとき、35歳と124日だったセレナはグランドスラム大会の同種目で最年長のチャンピオンとなった。出産と産休を経て復帰したセレナはそのあと4度グランドスラム決勝に進出したが、37歳と291日だった2019年ウインブルドンではナブラチロワの記録を抜いて同種目における四大大会で最年長のファイナリストになった。さらに同年のUSオープン決勝でビアンカ・アンドレスク(カナダ)に敗れたとき、彼女は間もなく38歳になるところだった。
姉のビーナス・ウイリアムズ(アメリカ)とセレナのウイリアムズ姉妹は、ともにお互いのために道を敷き合って進んできた。名を成したのは姉のほうが先だったが、先にグランドスラム大会でタイトルを獲ったのはセレナのほうだった。1999年にセレナは17歳でUSオープンを制し、1958年のアリシア・ギブソン(アメリカ)以来となるアフリカ系アメリカ人のグランドスラム女子チャンピオンとなった。そして姉のビーナスがそれに続き、翌年のウインブルドンでグランドスラム初優勝を果たした。
セレナはまた、ファイティングスピリットでも姉に模範を見せた。ビーナスはのちに、「1998年のシドニーでのことよ。セレナはトッププレーヤーと対戦して1-6 0-5で負けかけていたんだけど、自分には明日はないかのように、これが地球最後の日であるかのように戦っていた。それを観て私は、自分がそれほどファイターではなかったと思ったの」と明かした。
「それ以降、私もファイターになった。それが、私がセレナのテニスから学んだことなの」
この日のラストマッチでもセレナは観客たちに記憶に残る戦いを披露した。観客たちは彼女にスタンディングオベーションで感謝を伝え、セレナはそれを見て涙ぐんだ。
3時間を超える戦いの末、トムヤノビッチは6度目のマッチポイントをものにした。セレナは第1セットと第2セットの双方で5-3から自分のサービスゲームを迎えたが、そこで取りきることができなかった。
最後のフォアハンドがネットにかかったとき、セレナはネットに歩み寄って握手をした。それから彼女はスタジムの観客に向けて手を振り、心臓の上に手を当てた。
オンコートインタビューで「ありがとう、ダディ(お父さん)。あなたが観ていることはわかっているわ。ありがとう、ママ」と両親にお礼を言ったセレナは、それから溢れる涙を拭って声を震わせながら「ビーナスがいなかったら、セレナはなかった。彼女はセレナ・ウイリアムズが存在した唯一の理由なの」と姉に言葉を送った。
そしてセレナはそのキャリアを、「楽しい旅だったわ」と表現した。
写真◎Getty Images
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