「ラッキーじゃないかな?」ナダルが奮闘の末にベレッティーニを倒して決勝へ [USオープン]
「あのとき僕は何とか生き延び…そのあと試合の流れは完全に変わった」
もちろんそうだった。彼はタイブレークの最後の4ポイントを連取し、それから第2セットで1ブレーク、第3セットでは3つのブレークを果たした。終わってみれば、彼はこの試合を通して一度もブレークポイントに直面しなかったのである。
「試合の大部分を通し、僕は自分がこのテストに見合うプレーをしていると感じていた」とローマ出身で23歳のベレッティーニは胸を張った。
「僕には、準備ができていた」
しかし、ベレッティーニはまだ学んでいる最中だ。一方のナダルは、ベレッティーニのコーチを務めるビンチェンツォ・サントパドレ(イタリア)が言った通り「本当の意味でのチャンピオン、超人」だ。
これはナダルにとって、27回目のグランドスラム大会決勝となる。彼はこれ以前に一度、8月のモントリオール決勝でメドベデフと対戦しており、その際には6-3 6-0で圧勝していた。
「彼はツアーでもっとも堅固なプレーヤーのひとりだ」とナダルは警戒した。
「彼は毎週、前進の一歩を踏んでいる」
金曜日の午後の準決勝でメドベデフはグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)を7-6(5) 6-4 6-3で下し、ツアー最多となる今季のマッチ50勝目を挙げていた。
23歳のメドベデフは最初、観客の憤怒を買うことでUSオープンでの知名度を上げた。金曜日のオンコートインタビューで彼は自分の『騒ぎにまみれた大会』について言及し、「僕は観客と敵対していたから、容易なものにはならないだろう」と語った。彼は大会を通して1万9000ドルの罰金を食らい、先週にはブーイングを浴びせてくるファンとやりあっていたのだ。
この日のメドベデフのテニスにはちょっぴりムラがあり、ナダルと同じくもう少しで第1セットを落とすところだった。彼は守備的なスタイルに終始したが、ディミトロフを下すにはそれで十分だった。ディミトロフは準々決勝で、5セットの末にフェデラーを倒していた。
「第1セットでの彼は、僕よりも上だったと思う。あのセットを取れたのは、ある意味でラッキーだったとも思う」とメドベデフは振り返った。
「それから、試合の流れは完全に変わった。そのあとには、僕は彼よりもいいプレーをしていたと思う」
1年前の同じころ、ナダルは膝の痛みのためにフアン マルティン・デル ポトロ(アルゼンチン)に対する準決勝を途中棄権していた。彼がここ何年か、特に体に優しくないと言われるハードコートで故障に苦しめられてきたのはよく知られたことだ。しかし今、彼はこれまでになく健康かつ頑強で、またハングリーであるように見えている。
33歳のナダルは――フェデラーが38歳となったことは特筆しておく価値があるだろう――今季、すべてのグランドスラム大会で最低でも準決勝に進出している。ナダルは1月のオーストラリアン・オープン決勝でノバク・ジョコビッチ(セルビア)に敗れ、6月のフレンチ・オープンで同大会12度目の優勝を遂げ、7月のウインブルドンでは準決勝でフェデラーに敗れた。
一方のベレッティーニは一度もグランドスラム大会で準決勝に勝ち進んだことはなかったが、ナダル戦の序盤での彼は威圧されているようには見えなかった。
10年の年齢差がある彼らにとって、これは初対戦だった。それゆえ、試合の序盤はベレッティーニのことをよく知らなかっただろファンたちと同じように、ナダルにとってもこの相手ついての知識を得ると同時に慣れるためのよい機会でもあった訳だ。
明瞭だったのは、彼の強みが最高時速209kmにまで至ったビッグサーブとポイントにとどめを刺すことのできるフォアハンドだということだ。
パッと見にはすぐにはわからないが、ベレッティーニのタッチはかなりのもので、彼は第1セットで見事なドロップショットによって何本ものポイントを取り、リターン時のナダルがベースラインよりずっと後方に立っていることにうまく付け込んでいた。
その樽のようにたくましい胸板、身長195cm、体重90kgの立派な体をフォアハンドにぶつけるようにして打つベレッティーニは、ストロークでも時速160kmを超えるショットを放った。
彼の体格はボクサーのようで、自分の試合について話すときに彼はよくボクシングの用語を使っていた。例えば彼は、骨身を削る5セットの死闘となった準々決勝で対戦相手のガエル・モンフィス(フランス)をボディブローでじりじりと憔悴させたと比喩的に表現した。
第1セット、いや、この準決勝全体のカギとなったのが、そのタイブレークだった。ベレッティーニは4-0とリードを奪い、それからフィニッシュラインに近づき続けた。彼は5-2とし、それから6-4としたが、踏ん張り続けたナダルが結局そのタイブレークをもぎ取ったのだ。
ベレッティーニは? これらの運命のかかった瞬間にあまり慣れていない彼には、重要な瞬間にその重要なポイントを何としてでも掴み取るという力がまだなかった。
窮地に立たされたナダルは沈むフォアハンドのパッシングショットでベレッティーニにかなり難しいボレーを打たせ、そのボレーはネットにかかった。セットポイントのひとつがこれで消えた。次にベレッティーニはドロップショットを試みたがうまく決まらず、やはりネットに引っかかった。これで2本目のセットポイントも無駄になり、ベレッティーニは口に手を当てた。
続く2ポイントは――セットの最後の2ポイントだったが――やはりベレッティーニのミスによってナダルの手に渡った。24本の長いラリーの末のバックハンドのネットミス、それにフォアハンドのアウトが続いた。ナダルは叫び、繰り返し拳を突き出すことでこれに反応した。ベレッティーニはガックリと肩を落とし、観客たちは立ち上がって歓声を上げた。
それでもベレッティーニはまったく諦めてはいなかったが、ナダルはより強く、対戦相手が最終的に屈するまで容赦なく戦い続けた。ベレッティーニが連続で9つのブレ―クポイントをセーブしたあと、ナダルは10本目をものにして第2セットを4-3とリードした。
そしてほどなくしてナダルはこのテストをあとにし、ネドべデフを倒すこと、そしてフェデラーを追い上げることを考え始めるのである。
「僕が今日いるところに戻ってくるというのは、非常に大きな意味を持つことなんだ」とナダルは言った。
(APライター◎ハワード・フェンドリック/構成◎テニスマガジン)
※写真はラファエル・ナダル(スペイン)
撮影◎毛受亮介 / RYOSUKE MENJU
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