「自分の呼吸する音が聞こえる」無観客で開催される初のグランドスラムはUSオープンを変えるか?
2019年USオープンの記憶に残る映像のひとつは、2020年USオープンでは起こりえない。最終的に準優勝したダニール・メドベージェフ(ロシア)が悪役となり、彼に野次を浴びせる観客を挑発してなじり返したシーンだ。
大会が終わる頃までにカリスマ的なメドベージェフは彼らの心を掴み、2万3771人収容のアーサー・アッシュ・スタジアムで熱狂的で積極的な応援を受けながら最終セットまでもつれたラファエル・ナダル(スペイン)との決勝を戦い抜いた。
序盤のブーイングも終盤の激しい応援も、月曜日に開幕する今年のUSオープンで耳にすることはないだろう。会場にいるプレーヤーや関係者たちが新型コロナウイルス(COVID-19)に感染したり感染を広めたりすることを防ぐために取られた措置の一環として、すべての観客はビリー ジーン・キング・ナショナルテニスセンターへの入場を禁止された。
「ニューヨークの観客がいないなんて、本当に悲しい雰囲気になるだろう」とメドベージェフは残念がった。「もちろん僕たちにとっても、本当に奇妙なものになるだろうね」。
実際には皆にとってそうであり、この大会の基本構造を変えてしまうことにもなることなのだ。プレーヤーは観客の声援によるエネルギーで後押しを受けることはできないが、対戦相手に対する声援に苛立ったり大観衆の前でプレーするプレッシャーに思い悩む必要もない。
コーチたちは選手に何か叫ぶほうが簡単だと感じるだろうし、反対に数列離れたところから余計な口を挟まれることで煩わされることもないだろう。審判は興奮した観客たちに「静粛に!」と声をかけたり、ポイント後に歓声が鎮まるまでサーブクロックの開始を待ったりする必要もない。
そしてもちろん、ファンたち自身もそこに行く必要はない。彼らはテレビで観ながらポイント後が奇妙なまでに静かだと思い、空席の上に布が張ってあるのを見るのは奇妙だと感じることだろう。
「私は絶対に、観客たちのためにプレーするのが大好きよ。たくさんの人々が来てくれて、私たちのパフォーマンスを楽しんでくれるのが一番だわ」と第9シードのジョハナ・コンタ(イギリス)はコメントした。「でも言うまでもなく、それは今の私たちが手にしている現実じゃない」。
彼女や他の選手たちは、ウエスタン&サザン・オープンの間にその静けさを経験した。この大会は本来であればオハイオ州シンシナティで開催されるが、今年はパンデミックを理由にUSオープンと同じ会場で行われることになっていた。
USオープンが始まる前にプレーヤーたちが気付いたひとつのメリットとしては、会場内を移動する際に群衆に対処しなくていいということがある。
その一方で、コートでは孤独になる。
「自分の呼吸する音が聞こえるのよ」とグランドスラムの女子ダブルスを4度制した実績を持つクリスティーナ・ムラデノビッチ(フランス)は無観客でプレーしてみて気付いたことを話した。「それでも、試合が一切できないよりはましだわ――家のソファーにいるよりはね」。
ウエスタン&サザン・オープンで3月以来となる公式試合に勝ったあと、フェリックス・オジェ アリアシム(カナダ)はいつも選手がやっているように観客へのプレゼントとしてボールをスタンドにいるコーチに向けて打ち込んだ。
「誰もいない、観客がひとりもいないというのは本当に奇妙だ。僕はあまり好きではないけどね」と第15シードのオジェ アリアシムは戸惑いを見せた。
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