ウイリアムズ姉妹が築いたアメリカ女子の新時代 [USオープン]
USオープンの練習コートでビーナス・ウイリアムズ(アメリカ)がサーシャ・ヴィッカリー(アメリカ)と練習していたとき、ビーナスのサインを欲しがる子供たちが周囲に集まってきた。
7度のグランドスラム優勝を誇るビーナスは、1回戦に臨むヴィッカリーの準備を手助けした。結局、ヴィッカリーはエリナ・スビトリーナ(ウクライナ)に3-6 6-1 1-6で敗れたが、憧れの選手と打ち合うことは忘れられない思い出になった。
「生涯忘れられない経験だった。まだその余韻に浸っている」と現在23歳のヴィッカリー。ジュニア時代はトップランクの経験もあるアフリカ系アメリカ人選手だ。
ビーナスとセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)は21年前にアーサー・アッシュ・スタジアムで完成して以来、ほぼ毎回USオープンに出場している。2人で獲得した合計30個のグランドスラムタイトルは、アメリカテニス界の風景をガラッと変えてしまった。
現在、多くの黒人の子供が2人に憧れてジュニアの育成プログラムに参加している。
「彼女たちが登場してから、有色人種がより積極的にテニスを始めるようになった。そして、ハイレベルなジュニアの大会でも、彼らの活躍はかつてないほど目覚ましいものがある」と全米テニス協会(USTA)のダイバーシティ&包括担当役員を務めるD・A・アブラムス氏は語った。
現在、ジュニアのナンバーワンは14歳のアフリカ系アメリカ人、コリ・ガウフ(アメリカ)だ。彼女はウイリアムズ姉妹がかつて練習していた、フロリダのデルレイビーチのコートで練習している。セレナのコーチであるパトリック・ムラトグルー(フランス)は、パリにある自身のアカデミーでガウフを指導し、今年6月にはフレンチ・オープン・ジュニア優勝に導いた。
「まず第1に彼女は素晴らしい競争者。第2に素晴らしい才能を持っている。そのほかに必要なのは練習。彼女はハードワークを厭わない点でも優れている」とムラトグルーはガウフを称した。
今回のUSオープン・ジュニアでも多くの黒人ジュニアが出場している。ホイットニー・オシグウェ(アメリカ)はUSTA18歳以下の全米大会で優勝し、今大会でワイルドカード(主催者推薦枠)を獲得。カナダ出身の男子ではフェリックス・オジェ アリアシム(カナダ)、女子ではフランソワーズ・アバンダ(カナダ)が予選に出場し、前者が本戦への出場権を獲得した。
「私はウイリアムズ姉妹を見て育った。どちらかというと、長くトップレベルで戦い続けているビーナスのほうが好きかな。彼女たちはすごいパワーゲームを戦い、自分たちのパワーを最高レベルで引き出せる」と14歳のときにトロントで行われたロジャーズ・カップで2人のプレーを見たというアバンダは語った。
多種多様な人種の子供たちが、USオープン本戦の前に行われた4日間の予選を、無料で観戦した。
1950年代、ビリー ジーン・キング(アメリカ)がまだ10代だった頃、テニスはまだ白人のためのスポーツだった。アリシア・ギブソン(アメリカ)が56年のフレンチ・オープンで優勝し、初めてグランドスラムを獲った黒人選手となった。その後、アーサー・アッシュ(アメリカ)が68年のUSオープンを制した。2人はキャリアの前半は、人種差別によって黒人だけの大会にしか出場できなかった。
「現在は選手がコートに立つとき、対戦する2人の外見は異なることが多い。選手たちは私たちのグローバル社会を映し出す鏡のようなもの。これは私の現役時代と比較すると大きな進歩である。特に、子供たちはこの変化を自分の目で見て、将来自分もそこを目指すことができるのだから」とAP通信からのEメールでの質問に、キングは返答した。
キングはさらに、ビジネス面での多様性、さらに女性コーチや黒人コーチが増えることを期待しているという。
セレナがUSオープンで優勝した1999年は、WTAランキングのトップ100に15人のアメリカ人選手がおり、そのうち4人がアフリカ系だった。現在のトップ100には、6人のアフリカ系(3位スローン・スティーブンス、14位マディソン・キーズ、16位ビーナス、26位セレナ、73位テイラー・タウンセンド、78位ヴィッカリー)を含む13人のアメリカ人選手がいる。
そのほかの白人以外のトップ100となると、日本の大坂なおみ(日清食品/19位)もハイチ出身の父を持つ。ラテン系の選手はカロリーヌ・ガルシア(フランス)、ガルビネ・ムグルッサ(スペイン)、カルラ・スアレス ナバロ(スペイン)、モニカ・プイグ(プエルトリコ)と、5人の中国人選手がいる。
ヴィッカリーはビーナスとの練習後、数人の黒人ファンのためにサインをした。彼女は8歳でビーナスとセレナの父であるリチャード・ウイリアムズに、ウェスト・パームビーチで1年近く指導してもらったことがある。
1回戦のあとに「Black White」に「Human being(人間)」の文字が入ったTシャツを着ていたヴィッカリーは、「今ツアーで私のような黒人はそれほど多くない。だから、黒人の子供たちが応援してくれるのは、本当にありがたい」と話している。
アメリカ国内でテニスを多くの人種にも楽しめるように計画されたプログラムもいくつかある。ウイリアムズ姉妹はロサンゼルスにアカデミーを開校し、スティーブンスのコーチを務めるカマウ・マレーはシカゴの南部に約20億円規模のテニスセンターをつくった。
昨年のUSオープン準決勝で、24歳のスティーブンスが37歳のビーナスを倒した。そのときベスト4に残った4人のアメリカ人のうち、3人が有色人種だった。彼女は決勝では友人でもあるキーズを倒し、トロフィーを獲得した。
ここに欠けていたセレナは、昨年9月に第一子を出産したばかりだった。
「私の意見では、彼女はテニス史上最高の女性選手」と評するのは、自分の部屋にいつもセレナのポスターを張っていたというスティーブンスだ。
「アメリカのテニス、特に女子はいま大きく繁栄している。私たちは大きな強さ、何かすごくパワフルなものを象徴しているの」と昨年のUSオープン覇者は語った。
(AP通信特派員◎ジュリア・ウォーカー)
※トップ写真はサーシャ・ヴィッカリー 写真◎Getty Images
SAN JOSE, CA - JULY 31: Sachia Vickery of the United States returns a shot to Mihaela Buzarnescu of Romania during Day 2 of the Mubadala Silicon Valley Classic at Spartan Tennis Complex on July 31, 2018 in San Jose, California. (Photo by Ezra Shaw/Getty Images)
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