錦織圭_2017年シーズン総決算号インタビュー「悪くはなかったけど、最高ではなかった。ジャンプできずに、もがいていた。来年は――新しい自分で挑戦する
錦織圭の2017年シーズンは、14大会44試合をプレーし、世界ランキング22位でフィニッシュとなった。振り返れば、ケガを抱えて戦った一年。痛み、不安、苛立ちなどが見え隠れし、つらい日々が目立っていたが、一方で、フェデラーとのグランドスラム初対決など濃密な試合の数々も忘れてはならない。本人が振り返りつくる、『錦織圭2017シーズン総決算号』(インタビュー◎青木和子 写真◎小山真司、Getty Images)【2018年2月号掲載】
ブリスベンはいつものように気合が入っていた
――錦織さんの活躍のすべてを記録しようと、テニスマガジンは年末にシーズン決算号をつくっています。今回は錦織さんご本人がシーズンを振り返ってくださるということで、楽しみにしています。それでは年初からこの一年を振り返っていきましょう。まず2017年を迎えるにあたって、どのように臨もうと計画されていましたか。
錦織 毎年のことですが、僕のゴールはマスターズとグランドスラムで活躍することで、それはずっと変わりません。プレーにおいても、特に何かを変えるということはなく、練習とトレーニングをしっかりやって自信をつけ、目標を達成することでした。
――開幕戦のブリスベンでのプレーの印象は、この一年にかけているというような、強い意志が感じられました。もちろん毎年、強い気持ちで目標達成を目指していると思いますが、2017年は絶対に成し遂げようという気合が、前面に出ていたということはありませんか?
錦織 いつも同じくらいの気持ちを持っているのですが、特に年初は気合が入ってます。それが強くあったということはありますね。
――ブリスベンは決勝でディミトロフに敗れましたが、錦織さんのテニスそのものは、仕上がりのよさが感じられました。
錦織 この出だしの大会は、すごく良かったです。やっぱり一年の最初の試合ですから、緊張もしますし、難しい試合もありました。その中で決勝まで進み、負けはしましたけど、充実した試合ができて、(全豪に向けて)いい調整ができたと思っていました。1大会目から優勝というのはなかなか難しいですね。
――ディミトロフは結局、年末のATPファイナルズに初出場してタイトルを獲得しました。ブリスベンで対戦したときの印象はどうでしたか。
錦織 強くなっていることを感じました。全体的にしっかりしたプレーをしていて、バックハンドも攻撃力が増していました。プラス、ネットに出る速さや、ボレーは昔からうまいですけど、ネットプレーの強さだったり。特に今年は前半と後半で光っていましたね。
――ブリスベンでできたいい流れで、全豪オープンに入っていきました。
錦織 全豪には、いい調子でポジティブに入れたと思います。初戦こそたいへんでしたけど(クズネツォフにフルセット勝利)、そのあと4回戦のフェデラーとの試合まで、いい形で勝てていました。
――年末にトレーニングしてきたことや、新年にやろうと思っていたことなどを、試合に出していくことはできていましたか。
錦織 いろいろ確認しながらの試合でした。自分の感覚を確かめること、試すようなことはできていました。フェデラー戦はすごく勝ちたかった試合でした。最初はいい形で進められていたので、勝てると思っていたところもすごく大きかったです。その中で、流れが変わってしまって対応しきれなかったですね。悪い点もあり、悔いが残る試合でした。
――試合後、「もったいない」という発言をされていましたが、それくらいの「あと少し」という試合でしたか。
錦織 近いと言っていいかわからないですけど、勝つチャンスは多くありましたし、特に5セット目は、もう少し集中力を持って続けられていれば、勝てるチャンスもあったと思います。そういうところがもったいないと思いました。
――錦織さんとの対戦をきっかけに、フェデラーは復活を遂げたように見えました。決勝へ勝ち進み、同じく復活を遂げたナダルと戦うというドラマチックな展開。ふたりともケガで昨シーズンを途中でやめて、リカバリーして戻ってきました。きっかけになった、とた。ブリスベンで対戦したときの印象はどうでしたか。
錦織 強くなっていることを感じました。全体的にしっかりしたプレーをしていて、バックハンドも攻撃力が増していました。プラス、ネットに出る速さや、ボレーは昔からうまいですけど、ネットプレーの強さだったり。特に今年は前半と後半で光っていましたね。
――ブリスベンでできたいい流れで、全豪オープンに入っていきました。
錦織 全豪には、いい調子でポジティブに入れたと思います。初戦こそたいへんでしたけど(クズネツォフにフルセット勝利)、そのあと4回戦のフェデラーとの試合まで、いい形で勝てていました。
――年末にトレーニングしてきたことや、新年にやろうと思っていたことなどを、試合に出していくことはできていましたか。
錦織 いろいろ確認しながらの試合でした。自分の感覚を確かめること、試すようなことはできていました。フェデラー戦はすごく勝ちたかった試合でした。最初はいい形で進められていたので、勝てると思っていたところもすごく大きかったです。その中で、流れが変わってしまって対応しきれなかったですね。悪い点もあり、悔いが残る試合でした。
――試合後、「もったいない」という発言をされていましたが、それくらいの「あと少し」という試合でしたか。
錦織 近いと言っていいかわからないですけど、勝つチャンスは多くありましたし、特に5セット目は、もう少し集中力を持って続けられていれば、勝てるチャンスもあったと思います。そういうところがもったいないと思いました。
――錦織さんとの対戦をきっかけに、フェデラーは復活を遂げたように見えました。決勝へ勝ち進み、同じく復活を遂げたナダルと戦うというドラマチックな展開。ふたりともケガで昨シーズンを途中でやめて、リカバリーして戻ってきました。きっかけになった、と言われることについてはどう思いますか。
錦織 どうですかねえ、他人のことはわからないです(笑)。でも決勝では、ふたりともいいプレーをしていました。フェデラーは確かにあの試合からどんどん調子を上げていって、決勝で最高のプレーをしていたので、うーん、やっぱりケガから復帰して数大会目のグランドスラムで優勝できるというのは、それはもう、ものすごいことだと思います。
――お互いに力を出せる試合というものが、テニスにはあると思うのですが、錦織さんは初めてグランドスラムでフェデラーと対戦して、フェデラーは力を出せる相手ですか、それとも出させてもらえない相手ですか。どういう感触がありましたか?
錦織 初めてグランドスラムで5セットを戦いましたけど、やっぱり安定した強さがありますし、セットを取られたとしても、なんかこう、信念を曲げずにいながら、作戦をきっちり変えられるとか、一定のプレーだけにならない強さがあったりします。いろいろな引き出しをもっていて、それはどの選手と比べてもやっぱりフェデラーが一番です。そこを崩すのはとても難しい選手だなというのを、あらためて感じました。
――錦織さんが、フェデラーを崩すにはどうすればいいですか。
錦織 自分が100%で試合ができないと勝てない相手です。勝ちをくれるような相手でももちろんないので、彼の早い展開についていけるテニスの強さと、あとは柔軟な頭の強さが必要になると思います。
テニスがよくなってきたのは8月の対モンフィス戦。その直後の右手首腱損傷だった。
スケジュールを変えてクレーコートの大会を選んだ
――全豪のあと、いつもと違うスケジュールで南米のクレーコートの大会へ出場していきます。例年なら(4連覇中の)メンフィスとアカプルコへ、ハードコートで戦っていましたが、今回スケジュールを変えた一番の理由を教えてください。
錦織 理由は、クレーが得意になってきていることと、ほかの大会に強い選手が出ていたこともあって、こっちを選んだということがあります。
――クレーを選んだという点で、ラリーが長くなるなどのことから、トレーニング的な意味合いはありましたか。あえて、きついほうを選んだとか。
錦織 いや、それはまったくないんです。結果的に鍛えられるという、あとからついてくるものはあると思いますが。それ(トレーニングをしに行くため)を狙いにいったわけではないんです。簡単に勝てるなら、それに越したことはないですからね(笑)。
――アルゼンチンのクレーコートでのプレーは、たいへんだったようですね。振り返っていただけますか。
錦織 これは言い訳になりますけど、あのクレーコートは一年戦う中で一番と言っていいくらいコンディションが悪くて。でこぼこしていて、その中でテニスの試合をしなければならないわけで、たいへんでした。それから南米にはクレーコーターたちがいて、今年よかったシュワルツマンとか、強い選手たちがいたのでタフな試合が多かったです。
――アルゼンチンのあと、リオでは、相当な疲れやストレスを抱えて戦っているように見えました。
錦織 疲れもありました。あとは思うようなプレーができていないこと、サーフェスが合わないことなどで、なんかこう、自分のテニス以外のところで戦わなければいけないとか、うまくいきませんでした。南米2大会は、どちらかというと(あとのほうの)ATP500(リオ)で活躍したかったのですが、そこを早く負けてしまった(1回戦で地元ブラジルのベルッチにストレート敗退)のは残念でした。
――この一年半、錦織さんは1回戦敗退がまったくありませんでした。それについてご自身はどう思いますか。
錦織 結構、今まで奇跡的に勝っていたので、そんなに気にはしていませんでした。タフな選手と一試合目に当たることもあるので(気にしません)。それより、一試合目がどうかいうことよりも、あまりいい試合ができていないこと、そっちのほうの悔しさが多くありました。
マイアミで襲ってきた右手首の痛み
――うまくいかない状況の中で自分を上げること、例えばより練習をしたり、特別なトレーニングをしたり、あるいは休んだり、何かされたことはありますか。それとも、いつもどおりでしたか。
錦織 特に変わったことはしませんでしたね。このあと(3週間)インディアンウェルズまでトレーニングをしっかりやっていました。
――ハードコートに戻っていきますが、3月のインディアンウェルズからマイアミへ、どのように臨まれましたか。
錦織 何かこう、今年ずっと言えることで、成績は悪くはなかったんですけど、いつも以上にジャンプすることもあまりできず、そこで、もがいていたところがありました。爆発力がなかったです。インディアンウェルズもマイアミも、2大会ともクオーターファイナルにいっていますけど、それ以上にいけなかったことが、なんかもどかしいです。プラス、たぶん、簡単ではないですけど勝てる相手だったと思うし(前者がソック、後者がフォニーニ)。マイアミではケガ(右手首)をしてしまいましたね。
――うまくいかないというそれは、気持ち、体力、技術などのどの部分という実感はあるのでしょうか。
錦織 全部でしょう。メンタル的なところももちろん必要だし、大事なポイントを勝ち切る強さだったり、一試合を通してもうちょっと継続的に集中力を高めて、質のいい試合をしないといけないので、それも必要だろうし。まだまだ技術的にも足りないところがあると思うので、やらなければいけないし、全部に言えることかなと思います。
――うまくいかないそのときに、意識したことはありましたか。何かを変えるとか、あるいは同じを保とうとしたとか。何かが起きている3月だったのでしょうか。
錦織 うーん、意識、変える、変えなきゃいけないとは思いますけど…まだ、というか…一年でも何ということがあったかどうか…。
――ではいい感じを保ちたいと思うとき、それはどうやったら出てくるものでしょうか。
錦織 やっぱり、ずっと試合をこなしていくことが一番の自信回復かなと思うんですよね。自信は練習だったりトレーニングからくるので、そこでしっかり頑張って、プラス、いい試合ができてくればもっと自信がついてくると思うんです。どちらかというと、ぱっと、何かマジックみたいに、直ることだとは思っていないので、ちょっとずつ試合をこなしていくうち自信はついてくるだろうと思っています。
――テニスの内容的には手応えはありましたか。
錦織 悪くはなかったですけど、最高ではなかったです。たぶん一年を通して、ずっとそ。。ういう感じだったかもしれないです。今年はあまり100点の試合がなかったので。
今季のベストマッチは全豪の対フェデラー戦
――話が飛んでしまうかもしれませんが、錦織さんの今年のベストマッチはどの試合になりますか。
錦織 ベストマッチ、少々お待ちください(笑)…フェデラーとの試合はすごく思い出に残っていて、たぶん今年一番、記憶に残っています。さっき言った悔しさももちろんありますけど、いい試合はできていたのもあるし、このフェデラーに勝っていれば、というところもあったので、この試合は結構思い出に残っています。
――ほかにも、まだ出ますか、ベスト2、3とか。
錦織 えーと、ベストマッチ、と呼べるものはあまりないですねえ(苦笑)。
――では、私のほうから。フレンチ・オープンのマレー戦はどうでしたか。
錦織 はいはい、マレー戦(準々決勝)はですね、なんか、こんなにも流れって変わるんだというのを感じましたね。その前のベルダスコ戦(4回戦)もそうですけど、マレーの試合も1セット目はすごくいい形で取れて、自分がマレーを翻弄してプレーできていたので、ほぼ、絶対に勝てると思っていましたけど、マレーがちょっとテニスを変えてきたときに、それに対応できませんでした。自分がちょっと守ってしまって、そういうちょっとの心の変化で、がらっと流れが変わってしまって、これもたぶん2番目くらいに悔しい試合だったと思います。
――それは、フェデラーとの試合をベストマッチに上げて、裏返して悔しい試合の1番がフェデラーで、2番がマレーということですか。
錦織 そうですね。
――マレーとは、そういう選手ですか? ちょっとのところをついてくるとか。
錦織 マレーは、ほかのトップの選手にないしつこさがあって、頭のいい選手で、頭を使ってプレーしてきます。球が強かったり、プレーが速かったりというのではない、違った強さが彼にはあって、そのマレーには自分も我慢しながら打ち負かさないといけないんですね。
――お互いに小さいところを探し合っている感じですか。
錦織 そうかもしれないです。
――ほかにもいますか?
錦織 います。マレーとジョコ(ビッチ)は、若干プレースタイルが似ています。ナダルとフェデラーはまったく違いますけど。ワウリンカも少し違いますね。あのふたり(マレーとジョコビッチ)は似ていると思いますね。堅いディフェンスがふたりにはあって、そのしぶとさだったり、我慢力だったり。あと、正確なボールが打てるところもそのふたりは結構共通していると思います。
手首の痛みは慢性的成績はアップダウンの繰り返し
――話を戻しましょう。3月のマイアミで出た右手首の痛みは、その後、4月、5月の大会へ影響して、そして最後には、現状の右手首腱損傷に続いてしまう痛みだったんでしょうか。
錦織 そうですね。手首の痛みはちょくちょくあって、全部同じところです。でも今回のケガが今までと違うのは、今まではどちらかというと重さがあったり、じんじんした痛みでした。そういうものから始まって、ラケットを持てないくらいの痛みがきて、という段階を踏んでいたんですけど、今回(8月に)痛めたときは一発できたので、それはちょっとびっくりしましたね。
――その手首のじんじんするような痛みというのは、いつからの話ですか?
錦織 この何年かは、ずっとあります。
――マイアミのときの痛みは、こういう言い方は失礼ですが、いつものということですか。
錦織 そうです。常にのものです。
――そういうものを抱えながら戦うのはたいへんですね。いつ出てくるか、要所で出てきてしまうかもしれない。それは錦織さんの中ではやむなし、なのでしょうか。でも今回はそれが異変につながってしまいました。
錦織 いつも(手首は)気にしていて、痛みが出たらすぐに治しにはかかります。なるべく我慢できるところまでは我慢してやっています。まあ、いつものことです。多少痛みがあっても、テニスができなくなるまでは我慢してやるという。
――マイアミのあと、試合に出ずに手首を休めて、4月のバルセロナはスキップして、5月のマドリッドからプレーしました。2試合に勝ったあと、準々決勝のジョコビッチ戦を前に棄権。このときは手首の不安要素が大きくなりましたか。
錦織 ケガに不安はありましたけど、治れば大丈夫だと思っていました。そのあとちょっと不安はありながらローマはプレーして、(急遽出場の)ジュネーブではまったく痛みはありませんでした。
――錦織さんのケガが目に見える形で出てきている状況で、実際のところ、テニスの質はどれくらいのものでしたか。
錦織 60、70点くらいでずっと戦っていましたね。マイアミのあとちょっと休んで、テニスもできない時期が一週間以上あったので。フレンチ・オープンも70点くらいで戦っていました。いいときもあるんですが、試合の中でアップダウンがすごくあって、それはなかなか抜けきらなかったです。
――アップダウンの原因は何でしょう。
錦織 それを何と聞かれると、難しいんですけど、このケガも絶対にあるだろうし。マイアミのあと、試合に出なくて自信を失った部分もありました。あとはランキング的なプレッシャーを少なからず考えていたと思います。
――ランキングは意識しますか。
錦織 僕はそんなに意識するタイプではないんですけど、でも今それを少し意識したのは、たぶん、下からのプレッシャーだったり。あとは僕がこの1、2年の間、ずっと5位から7位くらいにいて、もっと上がらないといけないというプレッシャーだったり、たぶんいろいろ小さなことを考えていたと思います。
――上がりたい、下がりたくない、上がらないと、どれが強いですか。
錦織 うーん、どうかな。ずっと下がりたくないのほうが強かったですけど、でも、上がらないと、という気持ちも少なからずあるので、半分ずつくらいかな。
――以前なら、上がりたいという気持ちだったのではないかと思いますが、気持ち的にプレッシャーが大きくなっているんですね。
錦織 多少焦っていた部分もあったと思います。
――5月末のフレンチ・オープンは、さきほどマレーとの準々決勝の話が出ました。そのあと6月にグラス・シーズンへ移りますが、ドイツ・ハレでは1回戦でベルダスコをフルセットで倒し、2回戦のカチャノフ戦を前に臀部を痛めて棄権しました。
錦織 この時期も100%ではなかったですけど、試合ができるくらいの体はちゃんとしていました。ウインブルドンは問題ありませんでした。
――ウインブルドンは3回戦でバウティスタ アグートと対戦しました。この試合を乗り越えていたら、勢いがつきそうでしたが。
錦織 そうですね、昔だったら勝てている相手ですけど、今年、去年もそうですけど、結構強くなっている選手で、簡単に勝てる相手ではないですね。でも、勝たないといけない試合だったと思います。うーん、なかなかいろいろなことがうまくいかないところがあったかもしれないです。
――昨年22大会に出場して84試合をプレーし、終盤はトップ5を維持するなど、非常に強くて「負けない錦織」だっただけに、今年は負けているように見えてしまうところもあるかもしれません。先ほどから、錦織さんは周囲のレベルアップを口にしていますが、全体的に男子テニスレベルアップしているということは感じますか。
錦織 たぶんいろいろな成績を見ていけば、僕もそうですけど、トップ選手が1、2回戦で負けることが今年は特に多かったと思います。層が厚くなってきていますね。30位から50位、60位くらいの選手は、さらに強くなっていると感じていて、ランキングを見ても、去年とガラッとメンバーが変わってきています。上の選手たちのケガが重なったにしろ、トップ10に何人か、これまでと違う選手たちが入ってきていることからも明確なので、強くなってきていると思います。もちろん上も、フェデラーとナダルがいて、来年はさらにケガをしていたマレーやジョコビッチも上がってくると思うので、たいへんな一年になると思います。
シンシナティで右手首腱損傷、ツアー離脱
――ウインブルドンを終えたあと、いよいよハードコート・シーズンへ。この頃の体調や、テニスのレベルを教えてください。
錦織 ワシントン、モントリオールと出場しましたが、モントリオールの1回戦、モンフィスとの試合は、唯一といっていいくらい、すごくテニスがよくなってきた試合だったので、これはまたすごい悔いが残りましたね。試合に負けたことはいいんです。やっといい感じに、よくなってきたところで、次のシンシナティでこのケガ(右手首腱損傷)をしてしまったので、その悔しさはケガをしたときに感じました。ワシントンでプレーしたときも、なかなかなんかいい感覚がつかめずに終わってしまっていたので、このモンフィスとの試合は70点くらいの試合でしたけど、感覚のいいポイントが増えていたので、しょうがないことですけど残念でした。
――いい感覚というのは、どういうところでしょう。表現できますか。
錦織 僕のラケットがボールをつかむ感覚で、吸い付くような感じがあって、狙ったところにボールが吸い込まれるように入っていってくれる、そういう感じです。これは一発で直せる(感覚を取り戻せる)ということは、なかなかないことだと思うので、練習をしっかりやって、試合をしていくうちによくなっていくんだろうなと思っていました。それがやっと現れてきた試合が、このカナダのモンフィス戦だったんですよ。
――その次の大会がシンシナティですね。会場でサービス練習をしているときに右手首腱損傷、そしてツアー離脱となってしまいました。手術はせず、保存療法でリハビリをしてこられたそうですが、今の状態を教えてください。もう心配はしていませんか?
錦織 いやいや心配ばっかりです。まだ、ポイント練習もできていないですし。テニスも痛いながらにやっていて、怖さがあって思いきり打つこともできません。一番怖いのはサーブです。自信をつけるといっても、この状況では難しいです。怖さを除いていかないといけないですね。マスターズ優勝や、フェデラー、ナダルに勝つことは目標ですけど、今はまだ現実味がなかったりします。しっかり治してから、テニスの自信だったり、手首にも自信をつけていかないといけないです。まあ、徐々に、この12月、1月につけていきたいと思います。
「体の健康、技術的な強さ、もっともっとメンタル的に強くならないと」
マレーやジョコが帰ってきて来年は面白い一年になる
――2017年の男子テニス界は、多くのトップ選手がケガに悩まされてツアーを離脱しました。今までにないことが起きているように見えますが、錦織さんはどう見ていますか。
錦織 異様な光景でしたけど、タイミングが重なったとしかいいようがないと思います。本当にたまたまでしょう。でも、なんか不思議な感じでしたね。1位でやっていたジョコビッチが離脱することになるなんて。彼もずっと調子が悪かったですけど、あれだけ強かった選手がああも調子が悪くなるというのは、びっくりと同時に何かこう、同じ人間なんだなと感じるところがありました。マレー、ワウリンカ、ラオニッチとか、みんな(ケガ)ですよね。去年はオリンピックもありましたけど、ツアーが過酷なのは毎年のことで、たぶんこれといったきっかけはないと思います。ただ、今回のことによってツアーの過酷さは、みんなが痛感したのかなと思います。
――まもなく、また新しい一年が始まっていきますが、錦織さんはどうありたいですか。目標を達成するため、トップを取るために必要なことは何だと思いますか。
錦織 やっぱり、体の健康が一番にくると思います。技術的な強さと、もっともっとメンタル的に強くならないといけないなと思います。トップに行くなら絶対条件。来年は特にマレーやジョコ(ビッチ)のランキングが低く始まったり、なんか、よりたいへんな、でも面白い一年になると思います。不安ももちろんありますけど、楽しみな部分もあります。
――本当だったら、年初からプレーをスタートさせたい気持ちもあると思いますが、よし、行くぞ、というタイミングは自分で決めますか、それともドクターの判断を待ちますか。
錦織 それはもう自分の感覚です。痛みなく、全部のショットをやれるのか、2セット、3セットを、いきなり5セットの試合もあるので、それに耐えられるくらいにならないとやっぱり試合にはいけないです。ドクターも言っています。ただ、それは自分で決めることになります。1月に出られなかったとしても、まったく焦ってはいなくて、1月か2月に戻れればいいなと思います。
――錦織さんの長期離脱といえば、2009年の肘の手術が思い出されます。2010年に復活を遂げたときインタビューをさせていただきましたが、そのときの錦織さんは「僕の中から目標が一切消えた」と話していました。あのときは手探りしている感じで、気持ちにもアップダウンがあると。でも、今の錦織さんは不安はあるでしょうが、言葉はすごく強いなと思って聞いています。
錦織 あのときよりは、はるかに気持ちは落ち着いています。あのときは初めての手術だったし、1年休んでランキングは0でしたから。トップ100に戻れるのか?という不安がものすごくあったので。
――当時、話をしているときは、最初のうち斜め下を向いたままだったんですよ。
錦織 まだ若かったです(笑)。いまは経験があるのでその違いは大きいですね。以前は、ケガを自分の中でプラスにしないといけないという焦りがありました。でもケガをしているのにプラスにできるわけがないと思っていたんです。それが今はケガと付き合っていかなければいけないと思っているし、はるかに気持ちは落ち着いていてポジティブです。
――今回のケガは錦織さんのテニスキャリアに対する考え方に影響を与えましたか。
錦織 以前より、もっとテニスが好きになっていて、もっともっと強くなりたいという気持ちが強くなっています。年々そういう気持ちになっていますね。まだまだ強くしなければいけないところがあって、まだまだ強くなれると思うし、たくさんのことをしなければいけないです。来年は〈新しい自分〉で挑戦します!
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