福井烈の本音でトーク_第33回のゲストは宇津木妙子さん(ソフトボール日本女子代表チーム監督)

(※原文まま、以下同)2000年シドニー・オリンピックで堂々の銀メダルを獲得、その活躍が記憶に新しい、ソフトボールチーム日本代表監督の宇津木妙子さんが今回のゲストだ。男性指導者が圧倒的に多い中、女性指導者として大活躍される宇津木さんのものの考え方、指導法、厳しさに学ぶべきところは山ほどある。【2001年4月号掲載|連載33回】

写真◎菅原 淳 取材協力◎株式会社日立製作所・赤城クラブ

宇津木妙子

うつぎ・たえこ◎埼玉県出身。川島中学からソフトボールを始め、星野女子高校を経て、ユニチカで13年間ソフトボールの内野手として活躍、12個の全日本級タイトルを獲得した。1974年世界選手権代表となる。85年引退。のちにジュニア日本代表のコーチを経て、現在の日立高崎女子ソフトボール部監督となり、全日本総合選手権で5度の優勝、日本リーグでもチームを3度の優勝に導く。90年北京アジア大会ソフトボール日本代表女子監督を務める。96年のアトランタ・オリンピックはコーチで参加。97年には日本女子ナショナルチーム監督に就任。2000年シドニー・オリンピック日本代表チーム監督を務め、見事、銀メダル獲得に導いた。次に目指すところは2004年のアテネ・オリンピックとなる。

福井烈プロ

ふくい・つよし◎1957年福岡県生まれ。柳川高校、中央大学を経て、1979年にプロ転向。過去、史上最多の全日本選手権優勝7回を数える。10年連続デ杯代表、9年(1979〜1987年)連続JOPランキング1位の記録を持つ。1992〜1996年デ杯日本代表チーム監督。現在は、ナショナルテニスセンターの運営委員長を務める。ブリヂストンスポーツ所属。本誌顧問

「目標を達成するまで絶対休めない。休んだら自分に負けることになる」(宇津木)

「指導者の気持ちがぐらついていたら、何も始まりませんね」(福井)

福井 JOCのコーチミーティングで宇津木さんの講演を聞かせていただきました。とても勉強になりました。ミーティングでお話しされた中で僕が一番印象に残っているのが、「妥協は許さない」という言葉なんですが、それは当たり前のことで、でも現場はすごくたいへんだと思うんです。

宇津木 そうですね。私は、選手もそうですけど、まず自分自身だと思うんですね。監督も自分自身に妥協しないということです。私は現役時代からそのままコーチになって、監督になって今がありますけど、ずっと体を動かしてきました。何しろ走ることが好き。ただ、好きは好きでもやっぱり苦痛になるときだってありますよ。でも、よほど時間がないとき以外は365日ほとんど走っています。それは自分のためでもあるけど、そうやって自分自身を鍛えるのが私のやり方。私は目標を決めたときから達成するまで絶対休めない。なぜかって言うと、休むと自分自身に負けることになってしまうからです。

福井 なるほど…。

宇津木 私は自分自身を鍛える中で、選手がそのときどういう状況にあるかを把握しながら、チーム作りをしてきました。だけど、この間のシドニーのときも左足が上がらなくなったりしたんです。でも「ここで止めたら絶対ダメ!」って自分に言い聞かせて、毎日、自転車を漕いでいました。そうするとわかるんですよ。「私がこんなに疲れてるんだから、選手はもっとキツいんだろう」って。

福井 その感じ、僕もよくわかるなあ。

宇津木 私、以前、霊能者みたいな人に言われたことがあるんです。「あなたは選手をかわいがっているかもしれないけど、それは本当じゃない。もっと自分をいたわりなさい。自分をかわいがってあげなさい。自分自身に愛情を向けられなかったら、選手にも愛情を向けられない」ってそう言われて…。ふっと我に返ったとき「あなたはこの花をきれいだと思いますか?」って言われて、そこでしみじみ、ああ、花ってきれいなんだって思った。

福井 休むことが必要なこともあるんですよ。

宇津木 だけどね、私、夢中になっちゃうんですよ。妥協しないってこともそうだけど、それは私が能力がないからで、頭がよくて、すぐに話ができて、パッとチームを立ち上げるそんな能力がないから、ひとつひとつ計画を立ててやらないとダメなの。例えば3年の中の1年はこう、1年のうちの1ヵ月はこうで、2ヵ月目は、と詰めていくの。1週間のスケジュールも立てて、1日は時間刻みで、休み時間からすべて細かくスケジュールを立てて、その通りにやらないと嫌なの。

福井 お休みなんか…なさそうですね。

宇津木 そう。だから休めない。アテネ(・オリンピック)に向けてもうスタートしているわけでしょ。一年一年が勝負。アジア予選が7月にあって、それに勝たないと再来年の世界選手権に出られないし、その世界選手権で4位に入らないとアテネに行けないわけで。もう、休んでなんかいられない。この1、2年が勝負。

福井 僕も休むのやめます(笑)。

宇津木 (笑)。でも、私、こんなことしてていいのかなって思うときもあるんです。たまには休んで映画でも見ようかなって思いますけど、でも何をやってても選手のことが気になって仕方ない。選手が帰郷しているときも、今は携帯電話があるからほとんどの場合、連絡できるでしょ。ところが連絡がつかなくて留守電になってたりすると、もう頭にきちゃって「何やってんだ~」って怒る(笑)。常に見ていたいと思うから、そういうのを周りは異様に見ている部分があるかもしれない。

福井 でも、お話を聞いていて思うのが、ご自身がすごくがんばっていらっしゃるのに決して見返りを求めませんね。私がこれだけがんばっているんだから、あなたもがんばりなさいとか、そういう感じが全然ない。だから選手も監督のためにというより、監督といっしょにという雰囲気でいるのかもしれません。これぞアスリートの集団だと思いますよ。

宇津木 私が選手によく言うのは、「私はみんながいなかったら監督になれない。でも、みんなも私が選ばなかったら選手としてやれない」って言います。98年のカナダカップで世界のショートと言われる安藤(美佐子/デンソー)が、あの子は何回もあの大会に出ているのに、初めてベストナインを獲った。そうしたら「監督のおかげで獲れました」って言ってきたんです。だから私は「よかったな。でもその賞は自分のがんばりもあるけど、私があんたを選んで使ったからベストナインが獲れたんだよ」って言いました。そうしたら「その通りです」って(笑)。私も安藤がいたから監督ができるんだって、そう思います。見返りを求めてどうこうやってたら、そこには何も生まれないんです。

福井 自分を振り返ったとき、僕はこれだけがんばっているんだからお前たちもがんばってくれって、見返りを求める気持ちがあったと思います。甘かったな……。だけど宇津木さんも、苦しいって思うときもあるでしょう?

宇津木 宇津木麗華(日立高崎)っていますよね。あの子とはもう13年になるかな。麗華が2年前に肩の手術をするまでは、365日、しょっちゅう私にくっついていました。だから、あの子は私の動きを全部把握しています。その麗華に「私が休ませてくれっていったら、選手たち大丈夫かな」とか、つい言っちゃうのね。あるとき「今日、選手に怒っちゃったけど、ちゃんと寝てるかな、変なこと考えてないかな」って言ったら、「そんなことで悩むんだったら怒らなければいいじゃない!」って怒られた(笑)。そのときいい加減、切り替えようって思いました。選手は私が言わなくても、なぜ私が鉄拳を飛ばすのかわかっている、私はわからせながらやってきたんです。

福井 記事で読んだんですけど、ほかのチームの選手でもピシッと叩いたりなさるとか。それができるっていうのは、よほどしっかりとした信頼関係があってのことですよね。

宇津木 私はほかのチームの選手も自分の選手だと思っています。日本リーグの中で各所属に分かれて試合をしていても、もちろん自分のチームが勝たなきゃいけないんだけど、例えば、高山(樹里/豊田自動織機)がいいピッチングをしてうちが負けたとしても、よう投げたなって褒めます。 石川(多映子/日立ソフトウェア)に「こういうボールを覚えたらもっと幅の広いピッチャーになれるよ」って言って、その覚えたボールでうちの選手が全然打てなくて負けたとしても、石川がいいピッチングをしてよかったなって、そういう気持ちになります。もちろん負けたら悔しいですよ。うちの選手に対してはかわいそうなことをしたなとも思うけど、でも石川も自分の選手だから。

福井 その気持ち、わかりますね。

宇津木 やっぱりソフトボールが好きだから、ソフトに携わってる人に対しては同じような気持ちを持ちます。うちの選手は、よその選手に教える必要ないって言ったりすることもあったけど、でも、みんないっしょだよ、ソフトやってる子はいっしょなんだよって言っています。幅広くやっていかないといけないかなって私は思うんです。

福井 そこがスゴいところ。僕は、これからいろんな競技で女性の監督がたくさん出てくるんじゃないかと思っているんですけど、その中で、女性が率いるチームと男性が率いるチームにはちょっと違いがあると思うんです。僕は女性に対しては、女性の方が厳しくできると思うんですけど。

宇津木 うん。それは間違いないけれども、でも人間って、オトコもオンナも変わらない部分があるじゃないですか。それぞれ好みがあるわけで、オンナの監督だってスゴイ人いるみたいですよ。好き嫌いが激しくて、気に入らない選手はいい選手でも辞めさせちゃうとか。そういうところはオトコの監督よりもひどい部分があるかもしれない。

福井 そうですかね。

宇津木 そうしたら、女の子の心理状態がわかるオトコの人がやった方がいいかもしれない。私も男性のコーチを置いてやった方が幅広い指導ができるんじゃないかと思うときもありますけど、でも私はこういう性格で、何でもひとりでやりたい方だから余分な人はいらないって思ってる(笑)。確かにしんどいことですよ。プレー面でも、健康面でも。本当はトレーナーも栄養士もドクターもスタッフはいっぱいいるんです。でも私が彼らに言っているのは、私は何しろこういう性格で、自分で何でも把握していないと気が済まないから、私が選手にいろんなことを言っても、でも最終的にその分野の責任はあなたたちにあるから、自分たちで選手と会話して、そこで何かあったとき私に言ってねって言っています。その代わり、私からあの子がどうとかそういうことはいっさい言わないからって。すごくやりづらいとは思いますけど。

福井 監督がすべてを把握しておきたいという気持ちは当然でしょう。

宇津木 私も福井さんにお聞きしたいと思っていることがあるんですけど、これからはチャンスやピンチに強い選手を育てること、それから集中力を養うことを徹底的にやろうと思っています。練習のときだけでなく、例えば食事のときでもすごく集中して食べる選手っているでしょ。ああいうことが大事だと思うんです。集中力の高い選手こそ勝負がかかるとやっぱり強い。これからはそういう選手を数多く強化していくべきだと思うんです。

福井 僕らの時代は根性、根性、で、水も飲んじゃいけないという、そういう時代でした。僕の高校はいわゆるスパルタ教育で…でも今の時代はそうじゃなくて、子供たちは楽しくやろうと言って、最近はそうしています。でも、それによって日本のスポーツがある意味、低迷してきたようにも思うんです。日本には日本のやり方があると思います。外国人は科学的なやり方で集中を高めているのかもしれないけど、でも日本人はひょっとしたら違うやり方の方が集中できるかもしれない。そういうところを今回、ソフトボールが知らしめてくれたような気がするんです。やっぱり根性もいるんだと。

宇津木 いりますよ~。

福井 ですよね~(笑)。

「監督なんてほんと勉強、勉強ですよ。21世紀のテーマは原点に帰れ、かな」(宇津木)

「楽しむためには勝たなきゃ楽しめない。勝つためには泣かなきゃ勝てない」(福井)

宇津木 確かにアメリカ人はそもそもスゴイものを持っているかもしれない。でも、それだけじゃ勝てないですよ。やっぱり個人が根性を持っていないと。みんな、やってますよ。ロシアにしても、中国にしてもめちゃくちゃやってますよ。ただ、やってる空気を見せないだけ。そりゃあ、半端じゃないですよ。

福井 みんなもそれが今回のオリンピックでわかったと思うんです。

宇津木 そう思います。

福井 本当に楽しむためには勝たなきゃ楽しめないですから。勝つためには泣かなきゃ勝てない。そこに気がついて、指導者の人ももっとがんばらないとね。

宇津木 それなんです。私が選手に言うのは、「私はそんなに利口じゃないから間違ったことも言う。間違ったときは、みんなも『監督、それはどういうことですか』って言わなきゃダメ。なんでもかんでも監督はいつでも正しいって思ったら大間違いだよ。人間なんだから、すべてできる人なんかいないんだから」って。そういう、お互いが理解しあった中でやらなきゃいけないことなんです。だから私はいろんな勉強をしようと思う。例えばアメリカンフットボールの細かいフットワークだとか、何しろいいものは全部。その代わり、その練習が何に必要か、ソフトボールのどんなプレーに必要かわかった中で教えないと。選手に話をするときは、自分の中で噛み砕いて、理解してから言わないといけない。監督なんてほんと勉強、勉強ですよ。21世紀の私のテーマは原点に帰れ、かな。

福井 僕も肝に銘じておきます。

宇津木 私、高校の指導者によく言うんだけど「なんで道徳の時間をなくしたの?」って。1時間、自習時間になるかもしれないけど、その中で、みんなでコミュニケーションをとるのが私は大事なんじゃないかと思う。

福井 僕らもそうしないといけないですね。

宇津木 私は監督がもっと自信を持たないといけないと思いますよ。小さい話ですけど、日本リーグでは春先に記者がいっぱい、各チームを回るんですね。そこで抱負を聞くんですけど、監督が「今年はAクラス」って言うじゃないですか。やる前からAクラスだなんて。目標は優勝しかないんですよ。勝負の世界なんだから。そこのところが私はよくわからない。ソフトボールに絶対はないんです。どんなに強い相手でも、ヒットなしでも、フォアボールで出て、送って、送って塁を進めて、パスボールひとつで1取って勝つこともあるわけです。逆に高校生とやって負けるときだってある。その中でみんなが目的意識を常に持って、根気よく何ができるか、何をやらなきゃいけないかっていうことを監督が教えていかないと。

福井 基本的なところで指導者の気持ちがぐらついていたら何も始まりませんね。

宇津木 今回のシドニー(・オリンピック決勝・対アメリカ戦)で負けた敗因は、前日、ピッチャーの起用に悩んだ私の責任ですよ。その結果、出た失投だったんです。あの失投はバッテリーの配球ミスじゃない。決勝エラーの前、1点取った直後に1点取り返されたとき、そのときの点の取られ方が問題であって、普通にやっていれば1対0のゲームだったんです。私は「1点取ったらピッチャーを交代するよ」って、ブルペンに電話を入れておきながら交代できなかった。だから全然選手は悪くない。自分の詰めの甘さとか、勝負に対する執念が足りなかった。なんで最後まで自分の描いた通りのピッチャー起用ができなかったのか。いまだに悔しくてしょうがない。やっぱり監督が自信を持たないと絶対ダメ。

福井 でも、今回のオリンピックはソフトボールを日本全国に知らしめましたよ。球技系の競技ががんばってくださると、僕らもすごく活気づくんです。

宇津木 今、オリンピックのおかげでいろんなところからお誘いがあるんですけど、その中で自分を見失わないようにしないと、勘違いの方向へ行ってしまうと思うんです。やっぱり原点に帰らないと。自分たちだけで勝ったんじゃない。シドニーから帰れば、そこにはチームメイトがいて、会社の人、親、学校の先生がいて、その人たちにおかげさまでありがとうございましたっていう気持ちを持ってこれからもがんばらないと、おかしなことになっちゃうよって、選手には話しました。

福井 本当にそうなんです。でも、イベントでソフトの選手たちとお会いしたら、皆さん本当に明るくて、挨拶だって気持ちがいいですよ。あれを見たら大丈夫と僕は思いました。

宇津木 私は別にソフトボールを出世のためにやっているわけじゃないし、お金のためにやっているわけでもない。ただ、こんな時代に好きなことができることに感謝しています。もちろん結果を出すために、いろいろ考えてチーム作りをしたというのが本音です。ただ、さっきも言いましたけど、見返りを求めてやってたら何もできない。変な言い方をすれば、責任をとれって言われたら辞めれば責任はとれる。でも、そんなに簡単なことじゃないでしょ。責任って言葉にするものじゃないでしょう。だからたいへん。自分ががんばらないと、指導者ががんばらないと…。

福井 ほんと、そうです…。宇津木さん、くれぐれもお体に気をつけてくださいね。

宇津木 大丈夫、病気する暇もないから (笑)。緊張してるんですよ。

福井 わかるなあ(笑)。どうぞお元気で。そして、またすばらしいプレーを見せてくださいね。

対談を終えて

 この対談の前に偶然、宇津木監督の講演を聞く機会があり、その考え方、指導方法、厳しさに「男の人はまだまだ甘い」と叱咤されて帰ってきたばかりでした。今、指導者と言われる人は圧倒的に男性の方が多い中、女性監督としてオリンピックチームを率いるにはさまざまな逆風があったと思います。しかし宇津木監督は銀メダルを獲得し、一躍注目の的となりました。あの厳しさに選手はどうしてついていけたのでしょうか。

 真のアスリートは、苦しいことでも楽しいことだと思いたくなるほどの負けず嫌いばかりで、宇津木監督はそんな選手の本能をうまくコントロールしたのではないかと思います。宇津木流。学ぶことがいっぱいです。 福井 烈

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