スベン・グロエネフェルトの「コーチングの世界」(3) コーチと選手の関係性
(※当時の原文ママ、以下同)現代最高のコーチのひとりに数えられるスベン・グロエネフェルトが、その経験から導き出されたコーチングの神髄をお伝えする。第3回のテーマは「コーチと選手の関係性」。正解はないが、コーチがとるべき選択は重要だ。(インタビュー◎ポール・ファイン)【2013年8月号掲載】
インタビュー◎ポール・ファイン 翻訳◎木村かや子 写真◎BBM、AP、Getty Images
According to Sven Groeneveld
The World of Tennis Coaching
スベン・グロエネフェルト の「コーチングの世界」(3) コーチと選手の関係性
Theme1|男子トップ選手の高齢化と期待の若手
「経験豊かな30代のベテラン選手たちは
もっともスピーディーな
選手ではないかもしれないが、
もっとも賢い選手であるかもしれない」
――男子プレーヤーのトップ100の平均年齢は現在、驚いたことに約28歳とかなり高くなっています。若いプレーヤーがブレイクできていないのはなぜだと思いますか。
「男子テニスにおけるそのトレンドは、基本的に今後も続くだろうと私は思っている。多くのプレーヤーたちは、30代に突入してもツアーにとどまっているし、ロジャー・フェデラーに至っては、おそらく35歳くらいまで、ひょっとしたらもっと長くプロツアーでプレーし続けるかもしれない。
もしこれらの選手たち、そして35歳を迎え、トップ10入りを目前にしているトミー・ハースのような百戦錬磨の選手たちがプレーし続けていたら、若い世代がブレイクを果たすのはより難しくなる。それは、ベテランの選手たちには豊かな経験があり、その経験が重要な武器となっているからだ。テニスは間違いなく、20年前よりもタフなスポーツとなっているんだ」
――プロテニスは以前よりずっとフィジカルになってきているというのに、30代で素晴らしい活躍をしているプレーヤーが以前よりも多いのはなぜなのでしょうか。
「一般的に肉体的能力がピークに達するのは28歳だと言われてはいる。しかし、ボクシングであれ、陸上競技であれ、自転車競技であれ、テニス以外のアスリートの多くが、より高い年齢で変わらず各々のスポーツの頂点にいることは、実例によって証明されている。
彼らベテラン選手たちは非常に豊かな経験をもっているがゆえに、自らの価値を増している。確かにもはやもっともスピーディーな選手ではないかもしれないが、もっとも賢い選手であるかもしれないわけだ。彼らは多くの経験を重ねているがゆえに、自分の限られたフィジカルをより効果的な方法で使うことができているんだ」
――ノバク・ジョコビッチ、ラファエル・ナダル、フェデラー、アンディ・マレーのビッグ4が衰えたあと、どの選手がグランドスラム・タイトルを勝ちとると見ていますか。
「それはテニス界の誰もが抱いている、非常に大きな問いだ。ジョコビッチとマレーは、ナダルとフェデラーよりも少しばかり長くトップレベルにとどまると皆が考えているだろう。おそらく、ジョコビッチとマレーの間のライバル関係が、近い未来の数年間、私たちの関心の的となるのではないかな。
フェデラーがやってのけたように、テニス界を圧倒的な強さで支配したり、ナダルがやったようなすさまじいインパクトを与えたり、ジョコビッチが現在見せているようなレベルのことを、近い将来やってのけそうな特定の有力選手は、正直、今は思い浮かばない。これはフェデラーやナダルのような選手の後継者になるには、ジョコビッチやマレーのように長くツアーを経験している必要がある、ということを示しているように思う。
誰が、新世代のチャンピオン・レースをリードするのか。それはミロシュ・ラオニッチか、グリゴール・ディミトロフなのか、あるいはバーナード・トミックなのかもしれない。この3人はグランドスラム・チャンピオンになるための確かなポテンシャルを備えている。フアンマルティン・デルポトロもまた、トップ4の後継者となるにふさわしい潜在能力をもっていると思う」
Theme2|トップ選手同士は友人になれるのか
「テニスはライバルと“真の友人関係”を
結ぶのには向かない『個人スポーツ』だ」
――モニカ・セレスは自伝の中で、「トップ10プレーヤーには、ツアーの中で自分と同じレベルの友人はひとりもいない。テニス面においてそれは賢いことではないから、そういうことは起きないのだ」と述べています。それでも、フェデラーとナダルは良い友人ですし、ジョコビッチとマレーの場合もそうです。あなたはトップ10プレーヤーに、自分と同じ実力、同じレベルの友人はもたないようにアドバイスすることはありますか。
「私はモニカのテニスキャリアの、小さな一部分を共有した。そのとき、彼女はまだ非常に若く、すでに大きな名を成したプレーヤーたちの縄張りに割り入ろうとしているところだった。彼女が競い、そして倒していった選手たちは、多くの場合、彼女よりもずっと年上だった。モニカと同い年くらいの選手たちは、トップレベルにはもちろん、ツアーにさえほとんどいないくらいだった。だから、モニカにとって他のプレーヤーたちと友人関係を築くのはとても難しいことだったんだ。他の選手たちは、まだテニス人生における別のステージにいたわけだからね。
しかし、テニス界一般においては、選手同士が友好的関係をもつのが特に難しいことだとは思わない。そういったことを私は、毎日のように目にしている。選手たちが打ち解けた様子でおしゃべりしたり、いっしょに夕食に行ったり、共に多くの時間を過ごしているのを私は目撃してきている」
――では、グランドスラム・タイトルを競い合っているようなトップ10プレーヤーに関してはどうですか。
「トップ10プレーヤーに関してでも、私はモニカの言ったことに完全には同意できない。何人かの女子のトップ10選手たちは、他のライバルたちとの間にある程度の距離を置く必要性を感じているようだ。そういう選手はたくさんいる。男子のトップ10選手たちは、女子の場合よりもずっと話をしたり、連絡をとりあったりしている。ただ、彼らは“真の友人”というよりも、仕事仲間として付き合い、友好関係を築いているのだと思う。
テニス界全体を見ても“真の友人同士”というケースは非常に少ないように思う。これらの選手たちは、互いに競い合い、戦っているのだということを思い出してほしい。だから、これらの選手たちの皆が友達だ、と言うことはできない。私にだって、自分の本当に親しい友達、と呼べるのは片手の指で数えられるくらいしかいない。繰り返すが、テニスは、本当に強い友人関係を結ぶのには向かない『個人スポーツ』なんだ。
ただし、サラ・エラーニとロベルタ・ビンチはおそらく例外的だろう。彼女たちの場合、本当に親密な友人同士のようだからね。彼女たちは同じ国の出身で、この2~3年を通しいっしょに成長してきた選手たちだ。それにダブルスでもいっしょに良いプレーを見せているしね」
Theme3|コーチはモティベーターであるべきか
「選手の活力となるインスピレーション、
コーチはそれを与える存在であるべきだ」
――コーチはモティベーター、つまり選手を鼓舞し、選手のモティベーションを高めてやる存在であるべきなのでしょうか。それとも、すべての偉大なチャンピオンが常に高いモティベーションをもっていることを考えると、選手自身が高いモティベーション、意欲に満ちているべきなのでしょうか。
「真のトッププレーヤーはモティベーションに満ちている、ということには私も同意する。そして私たちコーチは、プレーヤーが自らの潜在能力の最高値に至れるように促し、鼓舞することができると思う。
私は、自分のことをモティベーターであるとも見ている。インスピレーションを与える存在、という方がより正確かもしれない。しかし、トップクラスのプレーヤーたちは、自らモティベーションをかき立てている。彼らもときにモティベーションの面で助けを必要とするときもあるが、彼らは私のメインの役割がモティベーターとしてのものだとは思っていない。
テニス界に軌跡を刻み、未来を考え、後悔しないための選択をどのようにしたかを振り返り、自らの印を残せるように、自分のもつポテンシャルを自覚させるためのインスピレーションは、基本的には彼らの内部から自然に湧き上がってくる。私は、テニスの歴史を通して、彼らにインスピレーションを与えようと努めている。そして、もっとも偉大なチャンピオンたちは、テニスの歴史について非常に精通している。フェデラーにテニスの歴史について質問してみれば、この分野において彼が非常に教養豊かであることがわかるはずだ。なぜなら、彼にとってそれは非常に重要なことだからだ。
過去の偉人たちは、現在のアスリートにインスピレーションを与えてくれる存在だと私は思う。それはモティベーションではなく、インスピレーションなんだ」
――あなたは「良いコーチであるためには、耳を傾けなければいけない。プレーヤーの言うことに耳を傾けること。そして観察すること。他の人々が何をやっているかをしっかり見て、場合によっては自分が教えているプレーヤーにそれを適用する。非常にフレキシブルで、融通が利かなければならず、さまざまなことに順応する能力をもち、自分のエゴがどのように機能するかを学ぶ必要がある」と言っていました。このエゴに関わる部分はどういう意味なのですか。
「自分の行動をうまく機能させるものは何なのか? コーチやプレーヤーとしての自分を駆り立てるものは何なのか? どんなことにインスピレーションを受けるのか? 毎日コートに出て100%の力を尽くす動機となっているものは何なのか? 自分を本当にうまく働かせ、機能させる鍵は何かを、知らなければならないんだ。
プレーヤーにとって、それは金でも、名声でも、栄光でも、また競い合うことへの情熱でもあり得る。彼らのエゴがどの部分にあるのかを学ぶ方法を見つけなければならない。彼らと大いに話すことによって、その方法を確立させ、彼らのエゴを最良の形で力に変えるための、バランスを見つけ出す必要があるんだ」
Theme4|分析の重要性
「プレーパターンの分析は
テニスの重要なファクター。
そこから選手の強みも弱みも見えてくる」
――どのくらいの頻度で、あなたはコーチする選手と対戦相手のビデオを研究しますか。それらのビデオからどのようなことを学ぶのですか。
「ビデオでの研究は今もやるし、過去にもやってきた。現在は、グランドスラムの間は一度に5~6人、多いときには8人のプレーヤーを手助けしているので、ある部分に的を絞って取り組むための時間は、望むほどもてていない。一日16時間働いたあとに、さらに4時間をビデオ分析に費やすのはかなり厳しいことだからね。
でも私は、使用可能なテクノロジーを使うことは有益だと信じている。ビデオ分析は、すごく役に立つよ。また、私は自分の選手たちに適用することができるスタティスティクス(統計データ)を利用することの奨励者でもある。1対1でコーチをしていたときには、ビデオ分析やデータ分析を大いにやっていたよ」
――分析をしたときには、どのような点に的を絞っていたのですか。
「プレーのパターンに焦点を絞っていた。例えばブレークポイントのような、あるゲーム、あるいは試合のキーとなる瞬間と、そのときに選手がどのような選択をしているかを見るようにする。だからこそ、私は多くのプレーを見て、多くの試合を通してその部分を研究し、データを集めるのが好きなんだ。以前はそういうことを大いにやっていたんだ。
それから、選手のお気に入りのサービスパターンはどれか、お気に入りのサービスリターンは…、などを見ていく。この種の分析によって、選手の強みも、そして弱みも見つけることができる。そして、多くの選手が自分でも気づいていないことが多い『プレーのパターン』をもし見つけることができれば、そのパターンを崩すことができる。
テニスは変わらず進化し続けており、現在、私たちはホークアイから非常に多くの情報を得ることができるようになった。テニスにおける次の焦点、今後開発できる部分は、使えるすべてのテクノロジーを組み合わせて利用する、ということだろう。アイスホッケーやクリケット、サッカー、アメリカンフットボールなど、テクノロジーが使われている他のスポーツには、すでにそういった傾向が見られる。
私は、プレーパターンは私たちのスポーツにおいて本当に大きなファクターだと信じている。それもあって、数的データを集めるためのアプリケーション・プログラム(APP)を開発しているところなんだ。非常にシンプルかつ実り多い方法によって、この『GPS tennis』という名のAPPは対戦相手のプレーの特徴や傾向を突き止め、位置づけ、検索することを可能にする。今年の夏には、このAPPをiTunesのウェブストアからダウンロードすることができるようになる予定だ」
Theme5|オンコートコーチングの是非
「テニスはふたりの選手が向かい合って
対決する個人スポーツ。
すべてはそのひと言に尽きる」
――あなたは、プロトーナメントでのコート上のコーチングには賛成ですか。
「ことを非常にシンプルに考えるなら、コート上のコーチングが正式に認められているときには、それを最大限に活用した方がいい。なぜならそれは、テニスの一部なのだからね。
しかし、もし私がWTAツアーのルール責任者なら、私がオンコートのコーチングを導入することはしないだろう。アンドレ・アガシが言ったように、テニスはふたりの選手が向かい合って対決する個人スポーツであり、すべてはそのひと言に尽きるからだ」
――あなたのコート上のアドバイスが、劣勢にいた選手の巻き返しを助け、結局彼女が勝った、というケースはありますか。
「それがテクニカルなサポートであれ、メンタル的なサポートであれ、私が劣勢の選手のためにコート上に行き、それが結果的に彼女が勝つ手助けとなった、というケースはある。それはソラナ・シルステアが2009年のロサンゼルス準々決勝でアグネツカ・ラドバンスカを倒したときに起きたし、2008年のシドニーで、アナ・イバノビッチがビルジニー・ラザノに勝ったときもそうだった」
Theme6|アディダスのプログラム
「すべての大会で常に特定の選手のために
そこにいられるわけではない。
だから、選手が私たちに依存するような
環境を生み出してはいけない」
――あなたはどんな経緯でアディダスのコーチング・プログラムに関わることになったのですか。そして『フライングドクター(※)』のコンセプトとはどのようなものなのですか。
※「フライングドクター」とは元々、オーストラリアの砂漠地帯など常住医師のいない地域で、必要に応じて小型飛行機で病院に搬送する事業のこと。現在では実際に飛行機で医療スタッフが駆けつける活動もある。
「2005年、アディダスのテニス部門のヘッド、ジム・ラーサンがアプローチしてきて、『相談役、アドバイザー、アディダスと契約を結んでいる選手の臨時コーチとして働くことに興味はあるか』と聞いてきたんだ。実はその数年前、私はIMGのクライアントの多くと働いていたときに、この案をマーク・マコーミック(IMGの創設者で元最高責任者)に提案したことがあるんだよ。でもマークは、『そんなことをすればあまりに多くの衝突が起き、うまくいかないだろう。それにIMGはすでにアカデミーを(フロリダに)もっている』と言っていた。
だからこそ、アディダスがこの提案をしてきたとき、私は飛びついて『ぜひやらせてほしい』と言ったんだ。それが、私にとって多くの可能性を秘めた仕事であることはわかっていたからね。以前、スイステニス協会と働いたことがあったので、私は非常にうまくプランを組み立てることができた。メーカーが契約している選手にこのサービスを提供できるなら、大きな成功を収めることになるだろうと私にはわかっていたんだ」
――それから何が起きたのですか。
「2005年の終わり、私はジム・ラーサンのことをより良く知るため、アディダスの代理としてスカウトの旅に出かけた。私たちはいくらかの時間を共に過ごし、ローラ・ロブソンやグリゴール・ディミトロフと契約を結んだ。また、バーナード・トミック、アイラ・トムヤノビッチとも話した。アイラは最近、ソニー・オープン(マイアミ)でクセニア・ペルバック、ユリア・ゲルゲス、アンドレア・ペトコビッチを倒し、かなりの進撃を見せた選手だ。だから、そのときに目をつけた選手たちが現在、新世代の有力な選手になっているんだよ。あの旅は素晴らしい経験だった。今振り返ってみると、あの経験が私の役割を確立することを助け、これらの若き選手たちにさらなる価値を加えることができたんだ」
――アディダスの選手たちをコーチし始めたのはいつですか。
「私は2006年のオーストラリアン・オープンに行ったとき、3年の休息から復帰したばかりだったマルティナ・ヒンギスを含め、すでに4、5人のアディダス選手をコーチしていた。当時のヒンギスはガイダンスを必要としていた。つまりアディダスと私は、ごく初期からコーチングのヘルプを提供する必要性があるということを認識していたんだ。男子選手と女子選手の双方が、このヘルプを受けることを熱望していた。テニスは、不確かさの多いスポーツだ。しかし、アディダスは、世界中を飛び回るコーチが駆けつけて援助の手を差し伸べることによって、一定の確かさを提供したんだ。
2007年、アディダスは、多くのプレーヤーがこのシステムの一員になりたいと望んでいることに気づき、マッツ・メルケルが私のアシスタントになった。そんなわけで、それ以降、私たちは徐々にスタッフを増やし、チームになっていったんだ。2008年にはギル・レイエス(アンドレ・アガシの元フィジカル・トレーナー)が参画し、2009年にはダレン・ケーヒル(やはりアガシの元コーチで。現在は著名なテレビ解説者)がチームに加わった」
――特にグランドスラムなどで、アディダスの選手が別のアディダスの選手と対戦することになると、どちらをコーチすることもできないため、そのことが選手とあなたのフラストレーションになることはありませんか。
「私は自分の役割を理解している。私は、選手個人のコーチではないのだ。私の役割は、システムのサポート役であり、選手のアドバイザーのようなものだ。この点は、はじめから非常に明確に決められていた。
私がアナ・イバノビッチの面倒をみていた期間中に、アナはジュスティーヌ・エナンとフレンチ・オープン決勝を戦ったのだが、当時のエナンはアディダスのプレーヤーだった。だから私は、コーチすることも、プレーヤーボックスに座ることも許されなかったんだ。同じことは2008年、アナがフレンチ・オープン決勝で、やはりアディダス選手だったディナラ・サフィナと対戦したときにも起きた。思えば確かに難しい状況ではあったが、それは私がこの仕事を始める時点で行なった選択だった。そして私は常に、関与した選手たちにも、その点をあらかじめはっきり説明していた。
私はまた2008年の終わりに、またこういう利害の対立があるだろうから、そろそろ個人コーチを探すべきときが来たのかもしれない、とアナに次げたんだよ。私はいつもプレーヤーたちに、もし私が、彼らが向上し、成長することを妨げるような立場にいるならば――例えば彼らがアディダスや私から、私たちが与えることのできない追加的なヘルプを必要としている、というような――そのさらなるヘルプをプログラムの外から得ることを考えるべきだ、と話していた。
スイステニス協会のために働いていたときのように、私は常にアディダスのルールを受け入れてきた。プレーヤーと私にとって、感情的に辛いこともあったが、私たちのアディダス・コーチングは、“アディダスの有用性”なんだ。私たちは、すべての大会で常にプレーヤーのためにそこにいられるわけではない。だから、私たちに依存するような環境を生み出してはいないし、生み出してはいけないのだよ」
Theme7|ジュニア選手に大切なこと
「天性の気質・素質をどのように養い育てるか。
フェデラーやボルグを見ても、そのことが重要だ」
――13~16歳のジュニア選手に目を向けたとき、どのような能力、スキル、あるいは特徴が、ワールドクラスの選手、さらに言えばチャンピオンになるためにもっとも重要だと考えていますか。
「ハンド・アイ・コーディネーションだ。これは、ボールをプレーするすべてのスポーツにおいて、きわめて重要なものなんだ。その次にくるのは、バランス能力とそのスキル、そして動きのよさと機敏さ。身体能力と動きの良さを獲得するには、強い体が必要となる。
また、そのジュニアがメンタル的に強いかどうかは通常、ごく若い年齢のときにだいたいの見当がつくものだ。とは言え、ここでもまた常にルールの例外があるのだがね。例えばロジャーとビヨン・ボルグは、カッとなりやすく、癇癪を起こしがちな性格だった。もし、ロジャーが然るべき育成組織の中に身を置いておらず、ボルグの場合は愛情深いが厳しい父に恵まれておらず、彼らが正しい方向に導かれていなかったなら、ふたりは決して偉大なチャンピオンにはなれなかったことだろう。
激しいキャラクターを表に出すことを許されず、その激情を正しい方向に向けられなかったために成功を収められなかったジュニアたちが、数多くいるに違いない。そのような気質は生まれつきのものだが、その特質をどのように発達させるかは、成長の過程で彼らがどのような影響を受けたかによる、と私は思っている。天性の素質を、どのように養い育てていくかが大切なのだ」
――西暦65年に、古代ローマのストア学派哲学者セネカは「己の衝動をコントロールできないのは若気の至りだ」と言いました。癇癪を起こして自分のプレーができなくなったジュニアにどう対処し、どうやって助けているのですか。
「セネカには同意する。人は衝動にかられ、それをコントロールできないことがあるもので、それがプレーパターンにおいて私がさきほど言ったこと(テーマ4「分析の重要性」)に関係してくるんだ。
おそらく、そんな風である方がいいのだろう……私たちは機械じゃない、人間なんだからね。人間というのは予想がつきやすいものであると同時に、予想がつきにくくもある。
癇癪といえば、かつてのロジャーには大いにその傾向があった。そして、のちにそのことを自分で認識できるようになったとき、彼はその感情の爆発に対処し、ときにそれを自分に有利になるような形で利用できるようになった。ボルグとピート・サンプラスも、10代のときに怒りっぽい気性の問題を抱えていたんだ。つまり、一流選手がその手の問題を克服する、というのは決して稀なことではないんだよ」
(次回vol.04に続く、テーマは「親子関係とコーチのあり方」)
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