ベテラン勢の逆襲〜30代の選手たちが活躍する理由
世界のテニスは年々レベルアップしているが、同時に選手を取り巻く状況も過酷になってきている。だが、そんな現在のテニス界において、改めて存在感を見せつけているのが、ベテラン勢なのだ。彼ら30代プレーヤーが活躍できる理由はどこにあるのか。【2013年7月号掲載】
文・写真◎AP トップ写真◎Getty Images
ATP1000の大会で
男子単ベスト8に
30代の選手が3人も
現在のアメリカ勢のトップ選手はサム・クエリーである。彼は30代の選手たちが最近は成功しているように見えるという。
男子の30代プレーヤーは先週のソニー・オープンでは大活躍だった。ベスト4に進出した、トップ50では最年長の34歳、トミー・ハース(ドイツ)を筆頭に、準優勝のダビド・フェレール(スペイン)、女子の優勝者で31歳のセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)は、女子の優勝者としては最年長記録だ。
「僕が思うに、この流れは、特に34歳のハースについて思うことなんだけど」とクエリーは話す。
「僕はまだ25歳。まだまだこの先にいい時期がくると思っている。だからもっとやる気を出して、もっといい時がくるときのために頑張ろうと思えている。彼らと比べれば、僕にはまだ先が長いと思えているからね」とクエリーは続けた。
3月のソニー・オープンにおいては22人の30代の選手が出場していたが、例えば10年前は12人、20年前にはわずか4人が本戦に名を連ねているだけだった。
フェレールは、この火曜日(4月2日)に31歳の誕生日を迎えたが、彼と準々決勝で対戦したのは31歳のユルゲン・メルツァー(オーストリア)。この対決は03年以来となる30代同士の準々決勝であり、さらに、ベスト4に進出し、そのフェレールと戦ったハースも加えると、ベスト8に30代が3人揃っていたのだが、3人の30代選手がベスト8に勝ち残ったのは、90年以来、ATP1000の格の大会では、わずかに3度目の出来事だったのだ。
「実に興味深い出来事だよね」と25歳のアンディ・マレー(イギリス)は話している。
「彼らはキャリアのピークが遅れてきているのだろうと思う。トップ100の平均年齢も、僕が初めてツアーで戦い始めた頃と比べると、この数年で少し上がっているような気がする」
かつてのチャンピオンだったビヨン・ボルグ(スウェーデン)は25歳で引退し、ボリス・ベッカー(ドイツ)がフルタイムでプレーしたのは28歳が最後。パトリック・ラフター(オーストラリア)もまた28歳で引退し、マラト・サフィン(ロシア)や、グスタボ・クエルテン(ブラジル)は29歳でコートを去った。アンディ・ロディック(アメリカ)は昨年引退したが、彼は30歳になったばかりだった。
プレースタイルの変化は存在する。ネットプレーは滅多になくなり、トッププレーヤーたちはベースライン上でプレーを組み立てている。
「かつてはたくさんのサーブ&ボレーヤーがいたが、彼らの多くは背中や腰、膝や臀部に故障を抱えていて、たいていは28歳か29歳あたりでキャリアを終えていた」とマレーは言う。
「現在の選手たちの方がたぶん、トレーニングの質が上がり、どうやったら疲労や故障から回復できるかについての正しい知識を元に活動できているのだろうと思う。身体をどんなふうに扱えばいいのかについての理解も深まっているし、みんなそれについて常に新しい情報を学ぼうとしてもいる」
10代のプレーヤーが
グランドスラムで優勝する
時代は終わったのか
多くの女子の元ナンバーワンプレーヤーたちも、同じように30代を前に引退してきた。モニカ・セレス(アメリカ)や、ジュスティーヌ・エナン(ベルギー)、マルチナ・ヒンギス(スイス)、キム・クライシュテルス(ベルギー)、そしてジェニファー・カプリアティ(アメリカ)もそうだった。
現在のナンバーワンのセレナは、先週の大会期間中に30歳を超えて肉体が衰えてきたら、ロールスロイスを買わなくちゃとジョークにしていたが、彼女は相変わらず意気軒昂で、これから始まるクレーシーズンに向けて、ふたたび調子を上げようと気合を入れている。
女子にはセレナのほかにも李娜(中国)やロベルタ・ビンチ(イタリア)がトップ15で活躍しているが、ビンチは遅咲きの選手で、30歳にして自己最高の13位を記録している。
現在のテニスは以前よりも大人のスポーツになりつつあるようだ。10代の選手が旋風を巻き起こすような状態ではない。男子で言えば、かつてのベッカーのような20歳の誕生日を迎える前に2度もウインブルドンを制したり、17歳で最初のメジャータイトルを獲ったマッツ・ビランデル(スウェーデン)や、18歳で獲ったボルグ、19歳で成功したピート・サンプラス(アメリカ)のような選手たちが出てくる状況ではない。とはいえ、もっとも最近で10代で成功した選手と言えば、2005年に19歳でフレンチ・オープンを制したラファエル・ナダル(スペイン)のような例もあるにはあるのだが……。
クエリーは、スタイルの変化が現在のような状況を生み出していると話している。「20年前と比べると、みんな強烈なボールを打つようになってきていると思う」と彼は言う。
「現在のトップクラスの打ってくるボールは、18歳の少年ではとてもじゃないが扱いきれないよ。僕が思うに、20年前のラケットやプレーのやり方では、よほどパワフルな選手でなければ18歳や19歳の選手たちを吹っ飛ばせなかったんだろうと思う。だから当時は10代の選手たちでも活躍の余地があったんだろうと思う」
「いまはそんなことができるような状況ではないね。強いボールを打つ選手は増えたし、選手たちも大型化している。18歳や19歳の選手たちが戦う相手が、肉体的にもより強くなっているんだ」
ハースは水曜日に35歳の誕生日を迎えるが、彼は188㎝で84㎏という堂々たる体格の持ち主。彼は今週のランキングで14位に上がってきた。彼にとってはこの5年で最高のランキングだ。彼は30代の選手たちは、自分の身体の調子を維持することについて、常に心を配っているのだと話している。
「歳をとるにつれて、落ちてしまう部分はあると思う。でも、その一方でより賢くもなっていくんだ」とハースは言葉にする。「栄養補給やそのほかのいろいろなことについても、できることは何でもやる。正しいトレーニングをして、トレーナーもつける。そうすることでメンタルにもいい影響がある」と彼は続け、「自分にとって何がベストなのかがわかるようになってくるんだ。たくさんバーベルを持ち上げた方がいいのか、それとも心肺の機能を上げるトレーニングを増やした方がいいのかとかね。いままでは何のために自転車をこいでいるのかわからなくても、それが自分のコンディションを維持するためには必要なことなんだとわかってくるんだよ」
※トップ写真はトミー・ハース(ドイツ)2013年撮影
資料|男女トップ50の30代選手
誌面掲載写真
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