マルチナ・ナブラチロワ「最強のサーブ&ボレーヤー」

サーブ&ボレーの攻撃型スタイル
転機となったのは81年だったとナブラチロワは振り返ったことがある。それは女子バスケットボール選手のナンシー・リーバーマンとの出会いだった。
「彼女が私は才能を無駄にしていると教えてくれた。その時の私はすでにウインブルドンで2度の優勝を果たしていたけれど、彼女との出会いでそれまでとは比較にならないほどハードに練習に取り組むようになり、テニスに100%を捧げるようになった」
ストイックなトレーニングで作った筋肉の鎧で全身を固め、圧倒的なパワーの持ち主というナブラチロワのイメージはこの頃に確立され、83年には17大会に出場して16大会で優勝。シーズン86勝1敗という凄まじい成績を残すことになる。
ナブラチロワの残した記録は、最後のグランドスラムでの優勝が06年USオープンの混合ダブルスで、デビューから数えて33年後というそのキャリアの長さもあって、ほとんど更新不可能なアンタッチャブルなものばかりだが、その多くが20代半ば以降の活躍で築かれたものだと考えると、より一層の凄みを感じさせられる。そしてそれは彼女のプレースタイルがサーブ&ボレーだったということも無縁ではないだろう。
サーブ&ボレーヤーはサービスとボレーだけでなく、アプローチショットに使うストローク力まで含めた総合的なスキルが求められるため、完成までに時間がかかるが、テニスのスタイルの中ではもっとも攻撃的で、一度スタイルとして確立してしまえば、ポイントが短くなる分だけ、消耗するエネルギーも少ない。ナブラチロワの長年に渡る活躍は、彼女がこのスタイルを完成させたことも大きな要因だろう。
無敵のウインブルドン6連覇
ナブラチロワのサービス&ボレーは芸術的だった。レフティからの強力なファーストサービスと、外に逃げて滑っていくスライスサービス。これをやっとの思いでリターンしても、鍛え上げた脚力を生かしてネット際にポジショニングし、巧みかつパワフルなボレーでとどめを刺した。
ウインブルドンでは6連覇を含めてテニス史上最多の計9勝を挙げた彼女のサーブ&ボレーに対抗するためには、彼女のライバルだったエバートのテニスをベースにするしかない。女子選手たちのバックハンドが両手打ちになり、ベースラインからのストロークが主体になっていったのは、ナブラチロワという強烈な存在が20年以上テニス界に君臨した影響が大きいと言っても過言ではない。
80年代半ばにナブラチロワを上回るスピードとパワーを持ったシュテフィ・グラフが現れ、同時に30代の後半を迎えたナブラチロワの脚が衰えるまで、サーブ&ボレーで最強の代名詞と言えばナブラチロワのことであり、彼女を超えられない以上、選択肢はサーブ&ボレーではありえなかった。
シングルスでは最後のシーズンと決めていたという94年のウインブルドンで決勝に進出した彼女の10度目の優勝を阻んだのが、バックはスライス、フォアはヘビースピンのストローカー、スペインのコンチータ・マルチネスだったのは、ある意味で象徴的な最後だったとは言えまいか。
最強のサーブ&ボレーヤーは、最強のままラケットを置いた。00年代にも一時シングルスに復帰したが、あの時でさえ、彼女は最強のサーブ&ボレーヤーのままだった。唯一無二の存在。それがナブラチロワという選手だった。

良き仲間であり、ライバルだったエバート(左)と。89年の日本でのフェド杯ではともにアメリカ代表として戦った

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